乃南アサ著 『ウツボカヅラの夢』、
             『家族趣味』









                
2011-09-25

(作品は、乃南アサ著 『ウツボがヅラの夢』(双葉社)、『家族趣味』(廣済堂) による。)

          


『ウツボがヅラの夢』

初出 2006年(平成18年)6月号より2007年9月号に連載された同名作品に、加筆修正を加えたもの。
本書 2008年(平成20年)3月刊行。

『家族趣味』

初出 「魅惑の輝き」「彫刻する人」は小説cityに掲載。 他はすべて書き下ろし。
本書 1993年(平成5年)9月刊行。
 ・魅惑の輝き    ・彫刻する人     ・忘れ物
 ・デジ・ボウイ    ・家族趣味


乃南アサ:
 1960年(昭和35年)東京生まれ。早稲田大学中退後、広告代理店勤務などを経て、作家活動に入る。96年(平成8年)本書「凍える牙」で直木賞受賞。
・巧みな人物造形、心理描写が高く評価されている。

<主な登場人物>
 『ウツボがヅラの夢』
斉藤未芙由(19才)
<主人公>
長野出身、二ヶ月前母親がガンで亡くなり、父親はすぐに新しい女と結婚。追い出されるように東京の親戚筋である鹿島田家に居候することに。

鹿島田家
尚子おばさん
(44才)
雄太郎のダンナさん
長男 隆平
(21才)
長女 美緒
(高1)
祖父母

尚子おばさんは姑との仲宜しくなく、祖父母は1階に、一家は2階に住んでいる。 よく出かけている。
ダンナさんは財団法人の課長代理、家に不在多い。 愛人をとっかえひっかえ、尚子さんは気づいていない?
隆平はバイトで家にもなかなか居ることが少ない。
美緒はいろんな男性と付き合っていて気むづかしい娘。
祖父母はなかなかのくせもの。

鶴岡杏子(31才) 鹿島田雄太郎の愛人。
片桐知也 美緒の中学時、同じクラスの男の子。 美緒の妊娠騒ぎに巻き込まれる。
福本仁美(ひとみ) 尚子おばさんと同い年。 スポーツクラブで知り合い仲良く。
岡部研輔 隆平の先輩、ホテルマンの研修中。 隆平のバイト先、隆平は研輔のように真面目に下働きをしている姿を軽蔑する。

『家族趣味』
<魅惑の輝き> 宝石に目のない女性の顛末。
小川有理子 安アパートに住み、服装にも拘らない、ただダイヤモンドやエメラルドの宝石を手に入れるためにサラ金に追われ、過酷なバイトにはげむ。
<彫刻する人> 肉体を美しくすることに夢中になる中年男。
川口恒春(30才) 結婚相手の加奈子に勧められ水泳をはじめて肉体が変わっていくことに面白くなり・・・。
<忘れ物> 美希が憧れる本橋課長のもとにチーフとして配属されてきた阪口と親密になって本橋課長の素顔をみる。
深山美希 国内営業部営業三課本橋課長の下に配属、「美希ちゃんのいれるコーヒーはいつも美味しい」と褒められることが楽しみ。

本橋課長
阪口隆弘

本橋課長は仕事も出来、細かいところにも気配りの出来る美希の憧れの課長、独身。 そこにニューヨーク支社からチーフとして阪口がやってくる。
<デジ・ボウイ> 感情も欲望も持ち合わせない彰文が最後に残したものは。
三浦直樹 中学3年生。 受験のために義兄弟の三浦家に居候。 彰文に追いつき追い越そうと勉強に精を出す努力型の人間。熱い情熱も持ち合わしている。

三浦彰文 中学3年生
父母
妹 結季

彰文は天才肌で変人。 何ごとにも関心を示さず、自分の世界に入っていて、生きることさえもどうでもいいと。
<家族趣味> 家族の個々は自由に、自分は家庭の主婦、仕事、女として、そして趣味に充実感を味わうがその結果家庭は・・・。
染川カコ(私)36才
夫 亮
息子 浩嗣
(ひろつぐ)   中学2年生

人生は楽しくなければ、生き生きと充実していなければならないをモットーに11才年下の若い男や、31才の男と付き合い、主婦に、仕事に、趣味に生きている。
家庭内は個々の行為にとらわれず自由を保っているが・・・。


<物語の概要> 図書館の紹介文より
『ウツボがヅラの夢』
  平凡な日常ほど悪意に満ちたものはない。 わたしの願いはただひとつ、幸せになること…。 鹿島田家の人々の日常をシニカルに描き切ることで見えてくる不気味な世界。 エンターテインメントの域を超えた傑作登場。

『家族趣味』
  救いようのない “時代の病理” ゆえの悲劇。 「都会人の異常な心理」を巧みに描いた問題作。

<読後感>
『ウツボがヅラの夢』

 プロローグを読んだ時これは面白そうな展開になりそうと未芙油という高卒の女の子、尚子おばさん、そして意地悪そうな祖母の組み合わせが興味をそそった。
 あにはからんや、少々展開は予想を下回ったものの、この一家の構造、人物たちがそれぞれあっち向いたままの状態と、けなげな女性の趣が見られるこの未芙由ちゃんの底に秘めた根性やしたたかさ、でも純真さのようなものも持ち合わせて、下品な内容にならずに鹿島田家の内情が次第に明らかにされていく様子は興味深かった。

 たまたま読んでいた頃の新聞広告に、双葉文庫から新書として本作品「ウツボカズラの夢」が載り、そこにあるキャッチコピーが 「一見平凡に見える家庭があった。 一人の女性の出現でその家庭の実態が明らかになり家庭そのものが変容していく・・・。 「幸せ」とは何なのか?」
 
 これが出てからか、図書館の利用情報(借りている本とその返却時期を示す)に予約の数が増えてきて延長が出来ないようになっていた。 広告の効果は恐ろしいものと実感。

 さて、自分の感想はというと、ちょっと人物像が不足気味かな、刑事音道貴子の時のようなコミカルさ、皮肉といったものが足りないのかなと、プロローグからの期待には不満足なものが残った。

『家族趣味』

 時代の病理というような5つの短編が醸し出される話には陥っている人にはありそうな状況が冷静になれば判りそうなものなのに、判らなくなる恐ろしい病気である。
 
 主人公は女性ばかりではないが、やはり女性のケースの方がよりリアリティがあり恐ろしい気がする。
 中でも「家族趣味」は家庭は外から見ると理想的かも知れないが、中に入ってみるとこんなことが起きているのかもと。 仕事も、異性との関係も、そして家族も趣味での生き方の結末は無惨にも!
 
 ちょうど「ウツボカズラの夢」が田舎から一人の若い女性が家庭に入ってきてその家庭の中味をさらけ出させる物語があって、そのことを思った。

 「デジ・ボウイ」の三浦直樹の姿が作品の中では一番まともで好ましい中学生のように思えて仕方がなかった。 後の人物達はろくなのがいないなあと。 まともな感情かな?

   
余談:
 「ウツボカヅラの夢」と「家族趣味」を読んでみてくしくも外から見たものと実際内側にあるものの実態が相当違っている様を垣間見たようである。心に留めておこう。
背景画は同名の文庫本の表紙を利用。

                              

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