<主な登場人物>
伊豆見翔人(しょうと) |
埼玉出身の23歳の学生。原チャリでひったくりを繰り返し、ナイフで人殺しまで。ヒッチハイクでトラックに乗せて貰ったのはよいが、日向で突き落とされ、見知らぬ山深い土地で不思議な経験をすることに。 |
婆ちゃん
(おスマじょう) |
宮崎県東臼杵(うすき)郡椎葉(しいば)村の住人。
山深い道路でバイクが横倒しになって血を流しているところを翔人に助けられて村に連れて行き居候させる。
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婆ちゃんの子供達 |
・兄 誠司 大阪でいい会社に入り出世している。
・姉 靖代 嫁に行き、札幌で暮らしている。
・弟 豊昭 東京に。婆ちゃんが一番可愛がっていた。時々帰ってきて金をせびる。
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シゲ爺 |
翔人に山の仕事を教え、厳しくもあり、 |
三人の女達 |
・チエさん ピンクエプロンの頬骨の張った菱形の顔の女。
・道代 黄色いエプロンの50前後の女。おふくろ似。
・カズエ 小花模様のエプロン姿の女。
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黒木美知 |
若くて綺麗な25−6歳の女。大阪で勤めていたが、今年の夏通り魔に遭い、斬りつけられてバックまでひったくられる。ショックを受け、都会も、男の人も怖いと何もかも処分し、10年ぶりに帰ってきた。 |
<物語の概要> 図書館の紹介より
通り魔や強盗傷害を繰り返す伊豆見翔人は、逃亡途中で宮崎の山村に辿り着く。村の老人たちと暮らすうちに心を開いていく翔人だったが…。現代の若者の“絶望感”を細やかな心理描写で描き出す傑作長篇サスペンス。
<読後感>
ひったくりを繰り返し、時に人を傷つけたり、人殺しまでやってしまった主人公の伊豆見翔人なる若者が、ヒッチハイクのトラック運転手に突き落とされ、見知らぬ山奥の誰も通らないような場所に取り残され、全く別の世界に紛れ込んだような世界。
そんなどうしようもない若者の心を動かしたのは、素朴な人たちの心と豊かな自然に囲まれて、ほとんどと言っていいほど情報に隔離された環境のようだ。
でもときどきは現実の世界に逃避しようとする若者の心。
本の題名の“しゃぼん玉”は、「自分は生涯しゃぼん玉のように、ただ漂って生きてゆく。そしていつか、どこかでパチンと弾けて消える。それだけの存在」を表していた。
自分(婆ちゃん)の息子の子供でもないのは分かっていても、婆ちゃんの普段の様子が、翔人が冷蔵庫に潜めていた金を取りだしていた時に翔人に発した言葉は、本心から出た言葉のようであり、翔人がやっぱり自分をそんな風に思っていたのかと殺して逃げ出していこうかと心変わりをするのか・・・。
その後の、婆ちゃんと息子の豊昭との言い争い、やりとりの様を見るにつけ、翔人の身の上と同じような光景、そんな時に自分がどうしたかったかを重ね合わせ、判らなくなる場面は心理描写に優れた著者の真骨頂か。
またシゲ爺さんの行動や、翔人に語る言葉もすんなりと若者に届いていく様子があたたかい。若くて綺麗な黒木美知との関係も大きく翔人の気持ちを素直にする効果があったのだろう。
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