乃南アサ著 『凍える牙』 









                  
2009-04-25




 (作品は、乃南アサ著 『凍える牙』 新潮社による。)

            



初出 1996年4月新潮ミステリー倶楽部特別書き下ろしとして刊行。
2007年11月新装版刊行

乃南アサ:
 
1960年(昭和35年)東京生まれ。早稲田大学中退後、広告代理店勤務などを経て、作家活動に入る。96年(平成8年)本書「凍える牙」で直木賞受賞。
・巧みな人物造形、心理描写が高く評価されている。

<主な登場人物>
 
音道貴子 警視庁巡査、交通部にいたが刑事部に異動、現在は第三機動捜査隊立川分駐在所勤務。4年半暮らした夫と1年前離婚。立川時限発火ベルト殺人事件の捜査本部に招集され、滝沢とコンビを組むことに。男社会の職場ではイヤなことが多いが、滝沢とのコンビは最悪(?)。皇帝ペンギンと渾名を付ける。
滝沢 保

警視庁立川中央署刑事課勤務、警察官になって27年、刑事生活15年の間、ずっと強行犯捜査担当。
貴子への評価は、不器用、無愛想、不可解と可愛げのない、意地っ張りな女にうんざり、嫌みもつい口に出てしまう。
しかし犯人を追及する内、隠れた能力を知るところとなり、気持ちは次第に・・・。



<読後感>

 先に読んだ「風の墓碑銘」で知った著者の名コンビと言える音道貴子と滝沢保の元に当たるコンビ誕生とそのやりとりの心理描写が、事件とは別に非常に興味深く、警察という男社会の中でのお互いなじまず、反発しあっているが、だんだん素顔を知るに従って感心したり見直したりする腹のさぐり合いが魅力的に描かれていて、事件そっちのけでそれだけでも惹かれるところである。
 また事件の中に出てくるウルフドック(オオカミ犬)の存在がこれまた魅力があって、描かれ方がすばらしく、惹かれるところが多分にある。やはり優れた描写力の持ち主ということを感じる。

 著者についての評価に、“巧みな人間造形、心理描写が高く評価されている。”と記されていた。その通りだと思う。滝沢と貴子の間に交わされる会話や、心の中の語りの表現は短い言葉であるが、実に的確、的を得ていてすすっと胸に入ってくる。読んでいて嬉しくなる。
 仕事には家庭の事情は持ち込む余地はないけれど、お互い苦しい事情を見せまいとしつつも、ちらっとのぞかれる情景にそつと気を遣う場面など、相方への信頼感が徐々に熟成されていくところはほろっとしたり、和まされたり。
 事件が発生する場合の事件の導入部分も、ミステリー風で、情景描写も手慣れていて現実感あふれる。


   


余談1:
 今読んでいる高村薫の「マークスの山」も同じく刑事物であるけれど、乃南アサの質が全然違う。いずれがどうのこうのと言うものではなく、それぞれが魅力的で読書の醍醐味を味わっている。


                  背景画はウルフドッグ。             

戻る