初出 徳島新聞(2002年7月〜2003年8月)、北國新聞、宮崎日々新聞、秋田魁新報、山形新聞、山梨日々新聞、日本海新聞、岩手日報などに順次連載された同名小説を改稿したもの。 2004年8月刊行
乃南アサ: 1960年(昭和35年)東京生まれ。早稲田大学中退後、広告代理店勤務などを経て、作家活動に入る。96年(平成8年)本書「凍える牙」で直木賞受賞。 ・巧みな人物造形、心理描写が高く評価されている。
前半は南部次郎の刑務所暮らしの毎日がつづられ、次郎の性格(短気で粗暴、一度怒り出すと手当たり次第に暴れ出す。何事にも反抗的、我慢知らずで、人の言うことを聞かない。)からことごとく自分に不利になる状態がつづく。救われない気分だが、やがて城島先生という備前焼の陶芸家によって刑務所内で焼物作りに次郎が興味を示すところから、一皮むけたかなと思わせる。しかし時に短気で粗暴な面も覗かせて、果たしてどうなるのかと不安な面が漂う。一方で、焼物の世界が語られ、次第に世の中に評価されてくるが、個展を東京で開催時、ふと安宅コレクションで青磁器を見て魅せられ、その研究にのめり込んでいく。 「涙」でもあったが、昭和29年より昭和天皇が崩御され、昭和の時代が終わるに至るまで、南部次郎と妹の南部君子の人生にあわせ、その時代の出来事を混ぜながら、そんな時代のことなんだと読者に認識させながら展開していくさまは、いかにも作品に時代の香りを感じさせるに十分である。 南部次郎のすさまじいまでの生きざまと、それを支えながら、自身もたまらなく寂しく、哀しく、孤独な人生を味わう君子、その一方で、家族の思いやりを感じ、本当に人生で幸せな暮らしが出来ているのは、知能は足りないが、一途で優しい心根を持つ満男であると気づく君子の悟りも納得できる。 この「火のみち」という作品、乃南アサの中では異色の作品ではないのだろうか。もう少しいろいろな作品を読んでみて、どういう作家なのかを知ってみたい。
背景画は作品の火のみちに関連して、備前焼の窯をイメージして。