<主な登場人物>
高浜稔
妻 則子(被害者) 46歳
長女 千種 20歳、
次女 真裕子17歳
(主人公)
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大手電機メーカの系列会社営業の部長。家のことは顧みず、連絡なしに外泊、休日もゴルフでほとんど不在。外に女を作っている。千種:大学受験二浪中、5年前から乱暴な言葉遣い、半年前からは家の物を壊したり、傷つけたりで、母親の則子の悩みの種。真裕子:心優しく、傷付きやすい少女。母親が殺されてからの態度は、今にも壊れてしまいそうで感情を無くしてしまったように。
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高浜家の親戚 |
夫側 市川の伯母(夫の姉)
妻側 文子叔母(則子の妹)など
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松永秀之(被告)
妻 香織
子供 大輔、絵里
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中学−高校−短大とつながっている、私立M女子校の教師。高浜千種の元担任。
香織:夫が殺人事件の犯人とされてからは、警察やマスコミ関係者、周囲の目から逃れる毎日。子供達を九州の実家に預け、そこでも兄夫婦や両親との諍いに疲れる。
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建部智樹 |
毎朝新聞の社会部記者。姉の千種を家の前で待ちかまえ、警察に連れて行った時から姉妹の態度に興味を抱き、その後も特に妹の方の先行きに不安を覚え個人的にも注意をしている。 |
進藤警部補 |
当初からの松永被告の取り調べに当たっている。凶器に関してミスを犯してしまい、裁判で窮地に。 |
速水和平検察官 |
松永被告の裁判の検察官。佐古弁護士の平然とした態度に不審を抱きつつ・・・。 |
佐古明弁護士 |
被告の弁護人。 |
<物語の紹介>
ひとつの殺人が善良な人々の運命を次々に狂わせていく。 問題作。 気鋭の社会派女流作家が満を持して世に問う会心作。
<読後感>
加害者と被害者の後に残された人たちの人生がどんな風に壊されていったかを実に丁寧に描かれている。 そして特に被害者の子供、特に妹の事を気にする新聞社の建部が人としてどう対応していけばいいのかを蔭ながら悩む。 一方、推理小説として裁判の中で果たして優れた弁護士なのか判らないのだが、そそのかされて(?)無実だと言い出す被告人。
そんなミステリーも含ませ、物語が展開する。
加害者側の残された妻と実家の親戚・家族とのあきれつ、被害者の家庭の内部トラブルなどくどいまでの詳細描写が何とも悲しくやるせない。
以前東野圭吾の「手紙」も加害者、被害者双方の悩みを投げかける話があり、それを精神的に支えるような人物がいたが、今回の小説ではそんなヒーローは現れず、次第に崩壊していく家庭の姿が痛ましい。 強いて言えば新聞記者の建部が多少気持ちの支えになっている。 多分著者ももっと強力なものを待ち望んでいたのではなかろうか。
世間といい、新聞雑誌などのメディアの問題、人間の傲慢さ、風向きによるいい加減さにもうんざり感が湧いてくる。 毎日のように報道される殺人事件や自殺などその後に関係する人達のことがそれぞれにまつわりついていることを考えてしまうと、暗澹とした気持ちになる。行為を恨んで人は恨まずとは果たして出来るものなのか。
今回も650ページに渡る長編だが、ぐいぐいと読んでしまった。
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