西加奈子 『夜が明ける』



              2022-01-25


(作品は、西加奈子著 『夜が明ける』    新潮社による。)
                  
          
 
初出 「小説新潮」2019年9月号〜2021年1月号
 
本書 2021年(令和3年)10月刊行。

 西加奈子
(本書に記述なし)

 1977年、テヘラン生まれ。カイロ・大阪育ち。2004年「あおい」でデビュー。 07年に「通天閣」で織田作之助賞、13年に「ふくわらい」で河合隼雄物語賞、15年に「サラバ!」で直木三十五賞を受賞。 ほか著書に「さくら」「きいろいゾウ」「円卓」「漁港の肉子ちゃん」「舞台」「ふる」「まく子」、絵本に「きいろいゾウ」「めだまとやぎ」「きみはうみ」など多数。

主な登場人物:


父親
母親

父親が相当の趣味人で、部屋にあるものを、片っ端から見る。VHSビデオで「男たちの朝」のアキ・マケライネに惹かれ、友達の深沢に「お前はアキ・マケライネンだよ」と声がけする。
・父親 フリーランスのデザイナー。
俺が中学2年生の時、車を民家の壁に激突死ぬ、42歳。借金を負い、自死の疑念も。
・母親 強い人ではなかった。心の病、でも父親が亡くなり、勤めに出るように。家では疲れたと寝ていることが多かった。
俺には「大学には行きなさい」と。

深沢暁(あきら)
アキ
母親

ひどい吃音、風貌は老けた感じ、俺の貸したビデオに感動、「俺をアキと呼んでくれ」と。俺を命の恩人扱いに。
高校時代学校で一番の人気者に。
<アキ>の日記に深沢の人生を知る記録が記されていた。
・母親 19歳でアキを産み、 父親は生まれる前に姿をくらました。暁の子供の頃、暁を中傷し、叩き、虐待する。

アキ・マケライネン フィンランドのある俳優。風貌は笑ってしまうような俳優。でも泣けてくる哀愁があった。与えられた役どころそのままの死に方をした。日本では知られていなく、俺だけがすごいと思った。
遠峰(とおみね)

皆を包み込む暖かさがあった。 イラストがうまく、優しさにより、実際よりも愛すべきキャラクターに。大学進学は諦め、時給のいいバイトに精を出していた。 俺は遠峰に惹かれていたが、高校の時俺と深沢が早くから仲良しだった俺のことを注目していたことを知る。
俺が社会人になり、仕事の中で再び出会うことに。

[アキ]関係に登場の人物
劇団「プラウの世田谷」関係者

・東国伸子(のぶこ) 主宰者。演出家。
吃音のアキを東国が吃音も直せると採用する。
・麻生 東国が一番評価している男。

小西 客演俳優。
「FAKE」という店関係者

モノマネ芸人がスタッフの店。
マイケル・ジャクソンやチャーリー・チャップリン、マリリンモンローなどモロモロの似た?人間が出入りする。
・ウズ オーナー。劇団を去ったアキを雇うことに。

[俺]関係に登場の関係者 俺の就職先:キー局の下請けをしている小さな制作会社。当初はADとして、ディレクターを目指す
キー局の社員ディレクター。27歳で一本化ディレクターになった男。俺を目の敵のように扱う。
田沢 俺のAD時代、教育係の女性。シングルマザー。
押見チカ(おしみ) 俳優であったが、50歳でバラエティー番組の進行役に。
杉崎剛健 押見の番組にゲストで出演のおとこ女。マイノリティ。
ADの若い女。体力有り、良く気がつき。良く動く。
納土(のうど) 総合演出家兼プロデューサー。ちょつとした有名人。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 思春期から33歳になるまでの男同士の友情と成長、そして変わりゆく日々を生きる奇跡。まだ光は見えない。それでも僕たちは、夜明けを求めて歩き出す。どれだけ傷ついても、夜が深くても、必ず明日はやってくる。再生と救済の長篇小説。

読後感:

 総407ページの作品、読んでいて途中止めたくもなる時もあったが、でも止められなかった。
 二人の主人公(俺とアキと名乗る深沢暁)の高校時代から社会人になり、数奇な生き様を描いている。それも家庭的にも、社会生活上でも生きづらい模様が延々と続く。

 そんな中、胸がジ〜ンとして涙が溢れるシーンがある。
 俺の高校時代、アキと仲良しとなっていることを遠峰という憧れの女の子に、俺のことが注目されていたことを知り、話すようになる。俺がキー局の下請けをしている小さな制作会社にいた時、先輩のディレクターが編集している画面が、遠峰が描いていたそっくりの漫画であることを見て、遠峰と再会、その時に遠峰が話す遠峰の生い立ちから、生き様言葉に。
「私は優しいんじゃない。私は誰も恨まない。ずっと笑ってる。負けたくないから」「これが私の戦い方なのだよ」

 そして、もう一人、社長に対しても自分の意見を言うADの若い女性が、もう打ちのめされて、リストカットの傷も堪えない俺の部屋を訪ねてきて伝える言葉。
「先輩は特に私のこと、嫌ってましたよね? 今日先輩の家に来るの、正直迷ったんです。でも田沢さんが、家に行きなさい。あいつはきっと、今、苦しい思いをしているから。あいつは負けず嫌いで頑張り屋で、自分にも他人にも厳しすぎるんだって。」「苦しかったら助けを求めろ。先輩に、それだけ伝えてほしいと言ってました。」


余談:

 読むのがつらくなるような物語を読み続けられたそのわけは、本の題に「夜が明ける」だった。こんな辛い生きるに辛い世の中も、きっとラストでは明るさが見えてきたり、ハッピーな結果が待ち受けているものとの期待からだった。
 果たして「夜があける」となった言葉にはいわれがあった。

 本の題を決めるのが大切なことが改めて思われた。
 朝日新聞の天声人語に、世の読書家に二つの流派があると。そこでは本の表紙について本を包むジャケットを外して中にある表紙のデザインを確かめる派。 もう一つは表紙には見向きもしない派。
 この本では裏表紙に野良犬(?)の顔の下からの下半身があった。本の中身にも関係した意味のあるイラストだった。
 表紙のイラストも独特のものだが、この装画は著者の西加奈子とあった。改めて西加奈子著の読んだ作品を見返すと表紙はそうだったのかも。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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