西加奈子著 『 さくら 』


 

              2016-10-25



(作品は、西加奈子著 『 さくら 』   小学館による。)

          
 

 本書 2005年(平成17年)3月刊行。

 西加奈子(本書より)
 
 
77年5月、イラン・テヘラン市生まれの大阪育ち。関西大学法学部卒業。04年「あおい」でデビュー。本作が2作目となる。 

主な登場人物:


(長谷川家の構成)

長谷川薫
主人公の<僕>

風薫る季節に生まれて“薫”の名の男の子。

兄 一(はじめ)
兄ちゃん

背が高くてハンサムで力強くて何より優しかった。僕の1つ年上。その屈託のない明るい性格で、誰とでもすぐ仲良くなれた。

妹 美貴
<ミキ>

幼稚園ではモテプラス乱暴ぶりで名を馳せる。先生に一番嫌われるタイプの女の子。兄ちゃんに可愛がられることに喜び。頑固、美しさと破壊力圧倒的。僕の4つ年下。

父親 昭夫 運送会社で運行管理の仕事。ハンサムで優しい。
母親  会社でも有名な美人。夫婦仲はいい。
ばあちゃん ミキが生まれ立ち上がるようになって1年後がんで死ぬ。
犬のサクラ 五匹いた子犬の中で、一番小さくて、やせていて、とても頼りなかった。サクラだけは、庭の隅でじっと、僕らの方を見ていた。僕が選んだ犬。
フェラーリ 恐怖の男。一号公園の頭のおかしいおっさん。目は腫れていてあべこべの目、ブラックホールみたいな、恐ろしく大きな穴の鼻の持ち主。大きな呼吸音で僕らはフェラーリが近くにいるという危険を察知した。
「難関」 おかっぱの女の子。幼稚園から小学校の六年間、ずっと「はせがわはじめくん」に恋をしていて、兄ちゃんに会うという機会を窺っていた。
矢嶋優子さん 兄ちゃんの彼女。「とても大人」な女の人。とても美人だけど大人に好かれるタイプの女の子ではなかった。母子家庭の子。ミキ拗ねる。
湯川さん 引っ越す前の町で僕に「好きです」と手紙をくれた女の子。引っ越した後文通をし、3年経って会いたいとの誘いに・・。デートは失敗だった。

須々木原環(たまき)
<ゲンカン>

中学一年生の秋に転入してきたアメリカ帰りの帰国女子。学年でいつも一番を取る女の子。僕は童貞を失った。

溝口先史(さきふみ)
<サキコ>

父さんの高校の同級生。高校時代ラグビー部のマネージャー。大人になり水商売の世界に。
薫さん 中学2年生の時に転校してきた僕より2つ年下の風変わりな女の子。男の子のような性格。ミキとバスケ部で一緒、我が家に3日に上げず訪れるように。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、何かに衝き動かされるようにして、実家に帰った。僕の手には…。あるちっぽけな家族に起こった、ひとつの奇蹟。どこまでもまっすぐに届く家族小説。

読後感
  

 最初の方では兄ちゃん存在が見当たらなかったが、20年と4ヶ月後4年前に死ぬ。その後ミキの誕生辺りから3人の子供達と両親そして我が家にやって来たサクラという犬との生活風景が展開する。
 話題は子供達のそれぞれの性格を知る上に貴重な事件やら恋の話、学校生活での友達関係、親の夫婦仲などとりとめもなく展開していく。

 ところが第5章で兄ちゃんが交通事故に遭うシーンから一転それまでの穏やかで生ぬるいような描写に嵐が襲ってきたかのようなシビアな状況に暗転。描写が淡々としているのが余計に切なさが募ってきて胸が熱くなる。

 人の感情ってこういう境遇になると感じ方も考え方も百八十度読みが深くなると言うか、今までの見方と変わってしまうものかと思ってしまう。
 兄ちゃんの感じたこと、ミキがしたことに対する激しい反省の思い。それを知ったときの僕の気持ち。それらを知ってるのかどうか分からないが、犬のサクラの反応。

 子供の頃フェラーリを見て危険を感じていたのが、兄ちゃんが子供達にそれと同じに見られたことに、フェラーリと同じ世界に自分がいることにショック。
 そして「この体で、また年を越すのが辛いです。ギブアップ」という紙切れを残して自らの命を絶つ。
 その後の家族の面々の変わりようがまた悲しい。特にミキの有様は。
 終わりの章で果たしてこの家族は日常に戻れたのか? 

  

余談:

 作品の中での犬の名前は”サクラ”。一方本の題名は”さくら”。どうなんだろうと考えた。でも良くも悪くも長谷川家にとって犬の”サクラ”が家族の中で占める重要さはとてつもなく大きなものであった。おわりの章での家族の行為がそれを象徴していた。
 ところで、最後まで読んでやはりもう一度はじまりの章を読んでみたくなってしまった。こんな作品の作り方もあるんだなあ。もうひとつ、節(?)の文字が手書きのような文字であることも新鮮でいい。
<補>本作品の「さくら」20万部突破のロングセラーとあった。

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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