夏川草介著  『神様のカルテ2』、
                『神様のカルテ』





                 2012-01-25

 (作品は、夏川草介著 『神様のカルテ2』、 『神様のカルテ』   株式会社小学館による。)

          

 『神様のカルテ2』 

 本書 2010年(平成22年)10月刊行、書き下ろし作品。

『神様のカルテ』 
 本書 2009年(平成21年)9月刊行。本書は第10回小学館文庫小説賞受賞作を刊行するにあたり、改題し、大幅な改稿を行ったもの。

 夏川草介:
 1978年大阪府生まれ。信州大学医学部卒業、長野県の病院にて地域医療に従事。本作で第10回小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。
物語の概要:

『神様のカルテ2』

 栗原一止は本庄病院で働く内科医。新年度、新任の医師・進藤辰也が赴任してくる。しかし、赴任直後の期待とは裏腹に、彼の行動は同僚たちを困惑させるものだった。感動のベストセラー、待望の新章。

『神様のカルテ』
 栗原一止は信州の私立病院で働く、悲しむことが苦手な内科医。地域医療は厳しい。3日眠れないことも日常茶飯事。それでも仕事を続けるのは、患者を治すことが楽しいからだ。第10回小学館文庫小説賞受賞作。

主な登場人物:

 『神様のカルテ2』 
栗原一止
妻 榛名
 
(ハルナ)
信州大学医学部出身の内科医師。学生時代から漱石オタクの変人内科医と評判。ただし“ 引きの栗原 ”で当直の時は妻のハルは山岳写真家で有名。 年中飛び歩いている。
進藤辰夫
妻 千夏
(旧姓 如月)
娘 夏菜
(3歳)
栗原辰夫と同期の数少ない親友のひとり。 今年の4月に東京の有名病院から本庄病院に逃げてきた、血液内科専攻のエリート。
妻の如月は一年後輩の医学生時代栗原が好意を持っていた女性。 千夏は卒業と同時に進藤辰夫と結婚。東京の有名病院の小児科医。
砂山次郎 栗原や進藤の1年後輩。 本庄病院のに。
古狐先生
(本名 内藤鴨一)
妻 千代
本庄病院内科副部長。
千代さんは中宮寺の弥勒菩薩像の持つ空気に似ている。
本庄病院の人々 ・大狸先生 内科部長、栗原の研修医時代からの指導医。 古狐先生より1つ年上。
・東西直美看護師 南3病棟の主任。
・御影深雪看護師 新人。
・会田さん 40歳の糖尿病の患者。
・四賀藍子 再生不良性貧血の25歳の患者。
・留川トヨさん 最長老の誤燕性肺炎の患者。 夫、孫七さん。
御嶽荘の人々 ・男爵 絵描き、榛名姫の親衛隊と名乗る。
・屋久杉君 2浪の後信州大学農学部に入学。やる気も夢も見いだせず。

『神様のカルテ』 主に追加人物中心
砂山次郎 北海道の牧場農家の生まれの色黒の大男。医学部生時代から栗原の知己。 同じ寮の隣の部屋で4年間過ごす。 卒業後大学病院の外科医局に。 3年後医局の人事で本庄病院の外科に派遣されてきた。
本庄病院の人々 ・大狸先生 消化器内科の部長。
・古狐先生 消化器内科の副部長。
・東西直美 南3病棟の主任看護師 、28歳。 危急の時にも冷静で切れ者。
・水無陽子 南第3病棟看護師。 小柄で可愛く、気だてよく良く気がつく性格。
・外村  救急部看護師長
本庄病院の患者たち ・田川さん 膵臓癌患者、62歳。
・安曇さん 胆のう癌患者72歳のお婆さん、夫に先立たれ親戚も子供もナシ。 “癒しの安曇” と呼ばれる。
御嶽荘の人々 ・男爵 絵描き、階下の「桔梗の間」の住人。
・学士殿 1階の「野菊の間」の住人。 信濃大学文学部大学院博士課程でニーチェ研究に没入の博学博識。

読後感

『神様のカルテ2』
 主人公の栗原一止は漱石おたくの文学青年で医学部出身の変人医師、仕事にはめっぽう熱心で働きずめも苦にせずに医師の役目を全うするなかなか好ましい人柄。どうやら物語の展開もユーモアも淡麗感もありまるで漱石の作品を読んでいるようで自分好みの作家に会えたよう。 やはり主人公の人物に感情移入してしまうようなものでないと喜びが少ないもの。
対照的に進藤辰夫の生き方は現在の医師の環境、扱われかたに反抗しているでこの後どのように展開していくか興味が尽きない。

 さて進藤辰夫先生と栗原一止の学生時代の僅少人数の将棋部での仲間ともう一人の女性如月千夏との三角関係とその後の展開、病院内での攻防
(?)と友情関係、栗原先生と妻の榛名さんとの好ましい関係、大狸先生と古狐先生、古狐先生と奥さんの千代さんの関係、看護婦の東西主任とのやりとりなど、まつわる話には熱い気持ちとほろりとする感情、やさしさが満ちていてこんな環境で生活ができたらたまらないと思わず泣けてくる。

『神様のカルテ』
「神様のカルテ2」から読み始めた為、人間関係や人物像が判っていてスムースに入れる。印象的には「神様のカルテ2」の方が感動が大きいようだ。初めてであったという面も否めないが、人物像が濃いように感じられる。
 
「神様のカルテ」では栗原と妻のハルさんの出会いと結婚までのいきさつが語られ、病院の患者のこと、「御嶽荘」の住人の事情などそれなりに描かれていると思っていたが、第二話“門出の桜”での学士殿のところといい、第三話にかけて安曇さんの死をむかえる所などは、「神様のカルテ2」と同様の印象でやはりいい。

 なんだか元気がわいてくるのと人間死をむかえる時には安曇さんのような態度が取れたらと願う作品である。そして学士殿の送別に送る島崎藤村の「夜明け前」の所では自分が大学に入って教養学部で初めて文学に興味を覚えたキッカケが、教授の話の「夜明け前」であったこともあり、あの長編を読んだのが懐かしく思い出された。


印象に残る言葉

 島崎藤村の「夜明け前」を郷里に帰る学士殿に贈る際の栗原一止の言葉:『神様のカルテ』

「けっしておもしろい話でも気持ちのいい話でもない。葛藤と懊脳(おうのう)がどこまでも続く果てしない物語だ。その苦しい中に少しずつ未来を切り開いていく実に地道な物語だ。私が高校時代に古本屋で手に入れた本でな。壁にぶつかった時はよくこの本を開いていた。今はまだ、私の人生の“ 夜明け前 ”なのだと自分に言い聞かせて」・・・
「明けない夜はない。止まない雨はない。そう言うことなのだ、学士殿」


余談:

 本作品、自分の大好きな夏目漱石の作品やら語り調子が出てくることもあり、実にユーモアとセンス、人間の機微がたくみに織り込まれていて読んでいて気分も軽く、温かい気持ちになる。
 やはり人間は優しくないといけない。 特に年を取ってからは。

 背景画は作品中に出てくる松本城(夜で月が出ていて明るくロマンティックな場面だったが)。 

                    

                          

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