中山七里著 『ハメルーンの誘拐魔』
 



 

              2016-04-25



(作品は、中山七里著 『ハメルーンの誘拐魔』   角川書店による。)

           
 

 初出 「小説 野性時代」2014年10月号〜2015年7月号。
 本書  2016年(平成28年)1月刊行。

 中山七里:(本書より)

 1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。同作は映画化もされベストセラーとなる。他の著書に「月光のスティグマ」「嗤う淑女」「ヒポクラテスの誓い」「総理にされた男」「闘う黄身の歌を」など多数。本作は「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」に続く、「刑事犬養隼人」シリーズの第3弾となる。

主な登場人物:


犬養隼人 30代半ば、麻生班所属、庁内での検挙率一、二を争う。無駄に男前の犬養と評されるバツ2。娘沙耶香(14歳)は帝都大付属病院で腎移植のドナーを探している最中。
高千穂明日香 犬養の相方。捜一の紅一点、25歳。犬養を何故か嫌っている。
捜査本部

・麻生 班長
・村瀬大二管理官
・津村一課長
・鍋島、長瀬 SIT(特捜班)、月島家に待機。
・殿山、見城 SIT(特捜班)、槇野家に待機。

月島香苗(15歳)
母親 綾子

半年ほど前に記憶障害を発現。
母子家庭になって数年。安養寺の結願法楽の日、神楽坂のドラッグストアに綾子が一人入っていた間に香苗の姿が見えなくなる。
綾子は“母親と香苗の闘病記録”のブログを5ケ月前に開設、アクセス数も多い。

槇野亜美(16歳)
父親 良邦
(よしくに)
親 朋絵
(ともえ)

お嬢様学校の九段女子学園普通科の1年生。クールビューティと評される。
白菊稲荷神社に願掛けに美鳥と。スマホの忘れ物と亜美一人戻るも戻ってこず。
父親の良邦は医者、日本産婦人科協会会長を勤め、子宮頸がんワクチン定期接種の旗振り役。

栗田美鳥(みどり)
両親

亜美の親友。父親は医者(勤務医)。

村本隆
娘 美咲(没)

小児科の医師、30代。月島綾子とブログを通してやりとりがある。
娘の美咲は香苗と同い年、ワクチン接種後の副反応との因果関係は立証されないが陸橋階段踏み外し脳挫傷と死因。

物語の概要: (図書館の紹介記事より)

 障害を抱える15歳の少女が誘拐された。現場には「ハーメルンの笛吹き男」を描いた絵はがきが残されていた。警視庁捜査一課の犬養は相棒の高千穂と捜査に動くが、同一犯と思われる第2の誘拐事件が起こり…。 

読後感
  

 誘拐事件が一つまたひとつと起こる。その事件の被害者はかたや記憶障害を持つ母子家庭、もう一方は富裕層の健常者家庭の娘。共通すると言えば子宮頸がんワクチンを打った事による副反応での記憶障害被害者と、かたやワクチンの定期接種を奨める会長の娘。しかも犯人からの要求もなし、手がかりとなる証拠もこれといった人物を特定するようなものは皆無の状態。

 警察は麻生班に専従を命ずるも一向に進展しないことに焦る。そんな中、検挙率トップの犬養隼人は捜査一課の紅一点高千穂明日香とペアを組まされ、女性のことについては勘が働かない犬養は・・・・。
 さらに第三の誘拐事件が発生、ますます始末に負えなくなる。

 単純明快な筋運びに読者はぐいぐいと引き込まれていく。
 世間でも子宮頸がんワクチン摂取の問題については話題になっているので、フィクションの小説でもこんなことが中心に展開していていいものかと気になるくらいである。
 後半まで犯人側に振り回される警察、どう決着がつくのかなかなか興味が尽きなく、最後まで興味深く読み終えた。
 

  

余談:

 犬養隼人と高千穂明日香のコンビもなかなか面白い。そんな中で男性に対しては犬養は人を見る目が冴えているが、女性を見る目に自信が無いのに対し、高千穂明日香の感情を表に出し相手に突っかかっていく姿も好ましいが、作品中高千穂明日香が犬養に言った言葉。
「月島綾子はまだ嘘を吐いています。一番大事なことを隠すために、他の全てを喋った。そんな風に感じたんです」はさすが。
犬養が思うに”上手な嘘というのは九割の真実に一割の嘘を混ぜ合わせることだ”と。
 

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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