中脇初枝著 『きみはいい子』
 



 

              2016-06-25



(作品は、中脇初枝著 『きみはいい子』   ポプラ社による。)

           
 

  本書 2012年(平成24年)5月刊行。書き下ろし作品。

 中脇初枝:(本書より)

 1974年、徳島県生まれ、高知県育ち。高知県立中村高等学校在学中に小説「魚のように」で第二回坊ちゃん文学賞を受賞してデビュー。1996年、筑波大学卒業。小説作品に「祈祷師の娘」「あかい花」、絵本に「こりゃまてまて」「あかいくま」などがある。神奈川県在住。

主な登場人物:


<サンタさんの来ない家>

岡野匡(ただし)
 『ぼく』

桜ヶ丘小学校のだめ教師。大学を出て初めての着任高。一年を担当して学級を崩壊させた。二年目に一番落ち着いているクラスとして四年生を担当。
家庭はピアノ教師の母と、元商社マンの父、出戻りの姉のめぐまれた家庭。

四年二組の生徒

寄せ集めの生徒たち。当初は一番落ち着いているクラスだった。・清水さん 仲間はずれの女性徒。学校は休みがち。
・大熊さん 勉強は出来ないがサッカーのうまい男子生徒。授業中騒ぐ筆頭。父親はいない。
・星さん 大人っぽい女子グループの筆頭。母親がいない。
・神田さん いつもウサギ小屋の前に居る。昼食の給食におかわりをしてなじられる。

<べっぴんさん>

あやねママ『あたし』
娘 あやね

専業主婦になって3年、オートロックマンションの4階に住む。3年悩んだ末に、パパが望む子供を生むが、パパはタイに単身赴任。
あやね いつもあたしから距離を取る。ひかるくんと仲良し。

はなちゃんママ
お兄ちゃん ひかる
娘 はなちゃん

同じ4階に住むやぼったい、調子の良いことばかりを言う(あたしの評価)。
<うそつき>

杉山 『ぼく』
妻 ミキ
息子 優介
娘 美咲

桜ヶ丘の土地家屋調査事務所開業、15年。私立大文学部卒、小学校のPTA会長を2年勤めている。
ミキ 国立大法学部卒、教員免許持つ。司法書士試験も一回で。本音の持ち主。
優介 桜ヶ丘小学6年生。意固地で要領悪い。
美咲 幼稚園児。

山崎大貴

転校生、大柄で優介の家にしょっちゅう遊びに来て、優介と大の仲良し。
こどもの友達をうちに上げない家。

<こんにちは、さようなら>

あきこ
『わたし』

八十をとおに通り越したおばあちゃん。年を取ることは忘れていくこと。その幸せに今は感謝している。

櫻井弘也
おかあさん

桜ヶ丘小学校四年二組の男の子。わたしに「こんにちは、さようなら」と挨拶をしてくれる。
おかあさんはスーパーの店員さん。

<おばすて山>

中田かよ『わたし』

編集長、40歳過ぎ。子供の頃母親に怒られ、虐められた思い出が忘れられない。
みわ

横浜に住むわたしの妹、35歳。母親の文子を在宅介護。
手に負えなくて介護施設に入れることで準備の為、3日間文子をわたしに預けることに。

中田文子
『ふうちゃん』

父の三回忌あたりからぼけ始め、いまでは6歳の子供のようになって‘かよ’のことも‘みわ’のことも分からなくなっている。
学校の教師をしていた。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

それぞれの家にそれぞれの事情がある。それでも皆この町で、いろんなものを抱えて生きている…。ある雨の日の夕方、ある同じ町を舞台に、誰かの一言や、ほんの少しの思いやりが生むかもしれない光を描く連作短篇集。

読後感
  

 泣きたくなってしまう話。
<サンタさんが来ない家>は、ほんとうに駄目な教師のぼく、生徒たちの本当の姿を知ることもせず、いざというときにかける言葉も分からず、学級を崩壊させていたぼくが、本当の姿を見るに至り、生徒一人一人の、そしてその裏に存在する家族のことを思い知り、生徒たちの心を掴むことになる過程がひしひしと胸に迫ってくる。

<べっぴんさん>は、家庭の中と外での欺瞞に満ちた笑顔、実はその内側では澱んだ水が溢れ、腐っている事をおもいながら、子どもも外では怒られないことを知っていて、親と離れて立つ。なんとも恐ろしくどす黒い世界。
 そんな風にある自分が、他人も同じである姿と判るや、ほっと安心する。
 自分がおさない頃されたいじめを、自分の子どもに対して同じようにする親。現在巷で起きている子どもへの折檻の姿を映し出していて空恐ろしい限り。

<うそつき>は、こどもっぽい優介が、転校してきて友達のグループに入れない山崎大貴ちゃんと仲良しになる理由が実にみごと。それには優介の家庭の有様が大きい。
”幸せなひとだけが、幸せを人に分けてあげられる。”ということか。

<こんにちは、さようなら>も切ない。年を取ることの切なさがひしひしと伝わってくる。その一方でそんな中にも小学校の男の子櫻井弘也の存在が光を与えてくれた。その弘也君は障害を持つ子ども。
 この短編集、話はつながっていて、桜ヶ丘小学校にまつわる人々、桜ヶ丘に住む人々にまつわる話でなりたっている。

<おばすて山>は、認知症で子供のようになってしまった状態の母親を3日間だけ預けられたわたし。子供の頃の虐待を思い出し、でもみわに助けられた恩で預かることに。思い出と現実の描写をたどりながらやっとみわの家に送り届けるさいの、親を捨てていきたい衝動、でも捨てられなくて、公園での母親の行為に思わず手をつないでみわの家に捨てに行く。この記憶だけを残して。泣けてしまう。

 印象に残る話は全部だった。身につまされる話の中、ラストでは切なく堪らない気持ちを柔らかく包んでくれてほっとさせる落としが素晴らしい。

 

  

余談:

子どもは残酷なもの、それとは対局に大人を見ている力に驚き、障害者の純真さに打たれる。 そして親の虐待とそれを受ける子供の心に残された思い出が、やがて自分の子供にその影を落とすところは因果応報か。
 この作者の展開のうまさ、心情の描写の深さに感心。  

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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