中村理聖著 『砂漠の青がとける夜』










              2018-11-25
(作品は、中村理聖著 『砂漠の青がとける夜』    集英社による。)
          

  初出 「小説すばる」2014年12月号(抄録)
  本書 2015年(平成27年)2月刊行。

 中村理聖:(本書より)
 
 1986年福井県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。本作で第27回小説すばる新人賞を受賞して作家デビュー。  
    

主な登場人物:

瀬野美月
<私>

半年前まで東京の出版社で雑誌の編集の仕事をしていた。2年ほど不倫関係の溝端さんと別れ、会社も退社し、菜々子姉ちゃんからカフェを手伝わないかと誘いを受け京都に、29歳。
菜々子姉ちゃん

京都の調理師学校を卒業、両親から譲り受けたカフェを営む、4つ年上。
20代の頃流産の経験がある。相手は京大生。

母親

父親の死亡後、1年前から叔母の住むオーストラリアで暮らしている。
・父親は2年前、脳梗塞で亡くなる。転勤の多い銀行勤めをしていたが、早期退職し、京都に帰って母親と二人おばんざいの店を始めた。

溝端 私の東京での不倫相手。別れた後もメールで「愛してる愛してる」を送ってくる。

結城準
父親
母親

平日の夕方に時々やってくる常連客の、中学生の男の子。放課後に一人でカフェに来てぼんやりしている姿には違和感があった。
・母親は京大で日本文学を教えている。私、暴力的な無関心さを感じる。
・父親は京都市役所勤務。準君の痣は父親のせい?

織田聡史(さとし) 福井県に住んでた頃、菜々子姉ちゃんと中学時代の同級生。今は京都の小学校の先生。大学時代一人で海外を歩き回った。菜々子姉ちゃんを誘っても断られた。
京大生 菜々子姉ちゃんと付き合っていた相手。両親に詫びを入れるも次第に菜々子姉ちゃんとは縁遠く。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 東京での不倫関係を唐突に終わらせ、京都で姉のカフェを手伝う美月の前に、不思議な能力を持つ男子中学生が現れて…。繊細な文章表現とみずみずしい感性が光る1冊。〈受賞情報〉小説すばる新人賞(第27回)      

読後感:

 父親の残り香に包まれたこの店で、やりたいことなど一つもなく、あてどない思いを持て余していた瀬野美月。片や自分のお店を持つことを一番に生きていた人、菜々子姉ちゃん。
 その店に一人で店に来てコーヒーを注文し、ぼんやりとしている中学生の姿。
 菜々子姉ちゃんには苦い思い出があり、今も引きずっている様子。それを癒やすような中学時代の同級生織田聡史とお互いを突き放したり求めたり、そうすることでしか一緒にいることが出来ない関係。

 美月は不思議な能力を持つ中学生の準君に関心を持ち、東京での不倫相手の溝端から来る「愛してる愛してる」のメールを無視しながらも、準君の家庭に思いをはせ、観察を続ける。
 準君の家庭の母親の無関心さ、毎月三人で外で食事をするというその冷ややかに見える風景。そんな家庭に育った準君の寂しさが癒やされる環境にこの店が、人がいる。

 そんな描写が展開する内に、やがて美月自身に変化が生じ、準君のことが理解できるように。 描写は心の内面をみずみずしく表現し、暖かみのある印象が読者に伝わってくる。
  

余談:

 小説すばる新人賞受賞と言うこととみずみずしい文章というフレーズに反応、手にした。本作がデビュー作と言うことでもあり、不思議なけれど、なんだかほっとするような気持ちを抱かせる作品である。  
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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