中村文則著  『掏摸』






              
2014-01-25



(作品は、中村文則著 『 掏摸 』   河出書房新社による。)

                 

 初出 「文藝」 2009年夏号。
 本書 2009年(平成21年)10月刊行。

 中村文則:(本書より)
 1977年、愛知県生まれ。福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。2002年「銃」で新潮新人賞を受賞してデビュー。04年「遮光」で野間文芸新人賞を受賞。05年「土の中の子供」で芥川賞を受賞。その他の著書に「悪意の手記」「最後の命」「何もかも憂鬱な夜に」「世界の果て」がある。

 

主な登場人物:

自分、僕

天才スリ師。万引きを母親から強要される子供に懐かれ、その境遇に気持ちが・・・。
木崎という男に難題を迫られる。失敗すれば殺される恐怖。

石川(=新美)

僕と同じ掏摸仲間。

立花

掏摸の仲間、いまは株の仲介をやっている。
腕は信用できないと僕。お前より遙かに稼いでいると立花。
「あれがまた何かやるらしい」「また巻き込まれる前に東京から消えた方がいい」と。

木崎

謎の男。運命を握ることに快感を持ち、関係のないスリたちを巻き込み、一人だけを引き込む。


物語の概要:

 天才スリ師に課せられた、不条理な仕事。失敗すれば殺され、逃げれば親しくしている子どもを殺される。依頼者の木崎は彼にとって絶対的な運命の支配者となった…。圧倒的な緊迫感とディティールで描く話題作。

読後感:

 前半はスリの様子と子供が母親の指示に従って危うい万引きを繰り返す場面で僕がアドバイスをしたり止めさせたりと親子の境遇が感情移入に誘いこまれる。
 そんな中、後半に入り、素性の判らない謎の男の出現で、スリ仲間のつながり、子供の親子への心配、昔の女のことがからみ、奇妙な指示に反発しながらも仕事をやり遂げようと・・・。

 スリをする人間に対して同情などすることはないが、子供に対する親としての役目、父親という感情での行動が何故か胸に人と迫ってきて、感情移入させられる。
 そしてラストの僕の運命は・・・。子供の運命は? ちょっと理解できないけれど・・・。

 あとがきに著者が記していることで著者のベースが少し理解できる。すなわち、「僕の書く主人公は様々な意味で僕の分身である。・・スリという反社会的な存在に好意を感じるのは、僕の性質なのでご容赦願いたい。しかしながら、元々そういう性質でなければ、僕は小説を書いていない。押しつけられるような明るさはいらない。全てに満たされているのなら小説は必要ない。この小説のテーマ性は、とても僕らしいと思った。」と。

  

余談:
 この著者の芥川賞を受賞した「土の中の子供」を読んでもなぜか普通の感覚と違う人物達が出てくる。そこでも前述の著者のあとがきにある言葉を理解していると納得できる。
  背景画は、表紙のフォトを利用して。