中村文則著 『 迷宮 』





 
                
2015-06-25



 (作品は、中村文則著 『 迷宮 』      新潮社による。)

          


 初出 「新潮」2012年1月号。
 本書 2012年(平成24年)6月刊行。

中村文則:(本書より)
 

 
1977年、愛知県生まれ。福島大学卒業。2002年、「銃」で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年、「遮光」で野間文芸新人賞、05年、「土の中の子供」で芥川賞、10年「掏摸」で大江健三郎賞を受賞。そのほかの著書に「悪意の手記」「最後の河」「何もかも憂鬱な夜に」「世界の果て」「悪と仮面のルール」「王国」などがある。

<主な登場人物>
 
新見(僕) 加藤弁護士事務所で司法試験勉強中。日置事件の遺児と言われる沙奈江と知り合い、日置事件を調べるうちに離れられない関係に。

日置沙奈江
父親 剛史
(たけし)
母親 由利
兄  太一

日置事件(当時12歳)でただ一人生き残った女性。告白した話の真実は?
・父親 剛史は妻の由利に惚れていて、由利の日頃を多数の防犯カメラを設置して常軌を逸した束縛を強いている。
・母親 由利は美人、カメラの存在におびえている。
・兄の太一は両親を殺したいと妹の沙奈江に明かし・・。妹のことを好きだと告白、みだらな関係を・・。

加藤

弁護士事務所の所長。僕に事務所のリストラ計画に協力を求める。
弁護士事務所の人々:
・山辺 僕と同期の男。狂人と呼ばれる、竹下のストーカー。
・竹下麻美 加藤の愛人。
・木塚 僕の後輩。

探偵の男 元刑事。日置事件を担当。沙奈江と知り合ってまもなく、僕に行方不明の男を捜していると近づき、実は沙奈江は有名人と僕に明かす。そして生き残った長女(沙奈江)はまるで意図的に生かされたみたいと。
行方不明の男 沙奈江はその後結婚し、離婚をした相手。
佐藤弁護士 人権派の弁護士。あの冤罪事件の日置事件の担当弁護士。

<補足> 日置事件:1988年に起きた、迷宮事件。僕が12歳の時の事件。折鶴事件とも呼ばれていた。東京都練馬区の民家で、日置剛史(45歳)という男性とその妻の由利(39歳)、そしてその長男(15歳)が遺体となって発見された事件。長女(沙奈江 12歳)だけが生き残った。

<物語の概要> (図書館の紹介記事より)
 
 密室状態の家で両親と兄が殺され、小学生だった彼女だけが生き残った。「僕」は事件のことを調べてゆく。「折鶴事件」と呼ばれる事件の現場の写真を見る。そして…。圧倒的な筆力で描かれた最現代の文学。


<読後感>

 デビューして10年の著者が11冊目の本として意識して書き上げた作品とあとがきにある。一つは日置事件という迷宮入りの事件の真相はどうだったのかというミステリー仕立ての内容であるとともに、もう一面は、過去の作品にも共通していると思うが、自己の内面の葛藤が描写されていて、理解できないようなところも多々。
 だから素直にミステリー作品として楽しく読めるものでもなく、だからといっておもしろくないとも言えない何とも評しがたい作品である。

 作中に出てくる自分の中のRという存在。年をとるとともに現れなくなるということは、次第に現実の世界に染まっていくとそういう仮想的なものははがれ落ちてきて姿を消していくというのは理解のできるところである。
   
余談:
 
 やはり中村文則という作家の作品はどこかふつうと違う。そんな気持ちが理解できるような人になりたいものである。

             背景画は本書に出てくる弁護士事務所をイメージして。             

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