中村文則著 『去年の冬、きみと別れ』


 

              2016-08-25



(作品は、中村文則著 『去年の冬、きみと別れ』   幻冬舎による。)

           
 

 本書 2013年(平成25年)9月刊行。本書は幻冬舎創立二十周年記念特別書き下ろし作品。

 中村文則:(本書より)

1977年、愛知県生まれ。福島大学卒。2002年「銃」で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年「遮光」で野間文芸新人賞、05年「掏摸」で大江健三郎賞を受賞。「掏摸」は世界各国で翻訳され、アメリカ・アマゾンの月間ベスト10小説、アメリカ新聞「ウォール・ストリート・ジャーナル」で2012年の年間ベスト10消雪に選ばれさらに、13年、ロサンゼルス・タイムズ・ブック・プライズにもノミネートされるなど、国内外で話題をさらった。田の著書に「何もかも憂鬱な夜に」「悪と仮面のルール」など。

主な登場人物:


木原坂雄大(35歳)
姉 朱里

職業アートカメラマン。「蝶」の表題の写真で吉本亜希子、小林百合子の二人の女性を殺害(焼死)、高裁の控訴中。K2のメンバー。
他人に影響される人間。僕が姉に会っていることに「簡単に手を出せる女性じゃない」と。
・朱里 僕に「殺人者の姉と関係を結ぶなんて・・無理ですよ」と。

僕(仮にAとする)
恋人 雪絵

木原坂雄大の本を書こうとしている人物。実際に木原坂雄大の拘置所に会いに行き聴取。
仮にB もうひとりの木原坂雄大の本を書こうとしている人物。面会には見えず、手紙でやりとり。
編集者 僕に木原坂雄大の本を書かないかと。
人形師

K2のメンバー 人形を必要とする者たち。

弁護士 木原坂雄大の弁護士。
加谷 木原坂雄大の唯一の友人。大学で数学をやっていたが限界を知る。
斉藤 K2のメンバー。ある女性のストーカー。その女性が欲しくて自殺未遂まで。その話を木原坂にしてしまう。
吉本亜希子 木原坂雄大によって焼き殺された女性(目が見えない)。写真に撮るために??。
小林百合子 木原坂雄大によって焼き殺された女性(フリーでモデルの仕事。死にたがっていた)。写真に撮るために??。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

ある猟奇殺人事件の被告に面会に行ったライターの「僕」は、次第に事件の異様さにのみ込まれていき…。日本と世界を震撼させた著者が紡ぐ、戦慄のミステリー。前代未聞のこの結末を、あなたは善悪で裁けるか。

読後感
  

 殺人の異常さの内容もさることながら読者を混乱させる人物たちがイラダチと頭の中の混沌を増長させる。
 謎自身は木原坂雄大、朱里の姉弟に対する復讐劇であるが、木原坂雄大が犯した二つの殺人事件で死刑判決が出て控訴をしている段階である。

 その事件を本にしようとしてコンタクトする人物(仮にAとする)の名前がまず明らかにされていない。ただ途中で小林らしいとは分かるのだが。でももうひとり本を出そうとしている人物(仮にBとする)が存在、これが誰なのかも疑問に感じながら展開していく。
 Aは木原坂の姉朱里に会い雄大の人物像や育ちを調べると共に朱里と男女の関係に、でも病んでいる事を感じてしまう。

 写真に魂が吹き込まれるという話は聞くが、焼けるなかの状態を写真に撮ろうとして失敗する木原坂の神経、捨てられず人形師に預けている狂気、ところがその殺人の被害者が実は復讐するための偽りの相手であること、本の執筆者の本当の人物、復讐の詳細が明らかになるのだが、これがすっきりと頭に入ってこないほどいらつくこと限りない。
 やっとこの程度まで書き終えておしまい。

 資料−1〜11 として挿入される内容も読んでいく内に編集されたことの記述が出てくる。 

  

余談:

 中村文則作品をこれまで4冊読んだことになるが、やはり一癖も、二癖もある作品で理解するのがやっかいな作家という印象がぬぐえない。
 やはり「掏摸」のあとがきの言葉が甦ってくる。

「僕の書く主人公は様々な意味で僕の分身である。・・スリという反社会的な存在に好意を感じるのは、僕の性質なのでご容赦願いたい。しかしながら、元々そういう性質でなければ、僕は小説を書いていない。押しつけられるような明るさはいらない。全てに満たされているのなら小説は必要ない。この小説のテーマ性は、とても僕らしいと思った。」

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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