中村文則著 『あなたが消えた夜に』



              2016-11-25



(作品は、中村文則著 『あなたが消えた夜に』   毎日新聞社出版による。)

          
 

 初出 「毎日新聞」2014年1月4日〜2014年11月29日。単行本化にあたり、加筆修正。
 本書 2015年(平成27年)5月刊行。

 中村文則(本書より)

 1977年、愛知県生まれ。福島大学卒業。02年「銃」で新潮新人賞をしデビュー。04年「遮光」で野間文芸新人賞を受賞。05年「土の中の子供」で芥川賞を受賞。10年「掏摸」で大江健三郎賞を受賞。「掏摸」の英訳が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの2012年年間ベスト10小説、米アマゾンの月刊ベスト10小説に選ばれる。14年、ノワール小説に貢献した作家に贈られる米文学賞ディビット・グディス賞を日本人で初めて受賞。
 その他の著書に「何もかも憂鬱な夜に」「世界の果て」「悪と仮面のルール」「王国」「迷宮」「惑いの森〜50ストーリーズ」「去年の冬、きみと別れ」「A」「教団X」などがある。
 

主な登場人物:


中島 市高署強行班捜査係の刑事。バツイチ刑事。少年時代に過去を持つ。
小橋 警視庁捜査一課の女刑事、20代。中島とコンビを組む。
吉原 捜査一課のベテラン巡査部長。
雪原 中島の後輩刑事。
<加害者・被害者・重要参考人・関係者>リスト
竹林結城 一件目の被害者。
横川佐和子(36歳) 二件目の被害者とされていたが、竹林を殺害。
真田浩二(41歳) 三件目の被害者。スポーツクラブ経営。
高柳大助(28歳) 四件目の加害者。被害者は軽症、現在拘留中。
米村辻彦(45歳)

五件目の被害者。精神科医。遺書に自分が”コートの男”であること、一件目と三件目について、犯人しか知り得ない情報を記す。・矢場摩耶 受付の女性

初川綱紀 重要参考人。真田の知人。現在フィリピン。
林原髑 横川の知人。目撃証言を偽証。
石居・栗原 横川の知人。目撃証言を偽証。
科原さゆり(35歳) 真田の元恋人。消費者金融の受付の女性。
椎名めぐみ 自宅で殺害される。
吉高亮介 椎名めぐみと知り合い、関係を持つ。
間島俊 椎名めぐみと知り合い、関係を持つ。
椎名啓子 椎名めぐみの母。
西原誠一 椎名めぐみの父で元愛人。
小竹原満 奈良県での被害者。車が乗り上げた状態で発見。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 ある町で突如発生した連続通り魔殺人事件。所轄の刑事・中島と捜査一課の女刑事・小橋は“コートの男”を追う。しかし事件は、さらなる悲劇の序章に過ぎなかった…。人間存在を揺るがす驚愕のミステリー。

読後感
  

 普通の刑事物のミステリー作品と思いきや、さすが著者の作品らしく事件解決に至るまでのバックグランドでは普通の感覚ではない重い靄のような複雑でどろどろとした澱が潜んでいた。
 
 第一部、第二部と事件は広がりを見せ、第一部でやっと真相がある程度ハッキリしてきたかと思いきや、第二部でさらに広がりを見せ、加害者、被害者、重要参考人、関係者がずらりとリストアップされしかも捜査本部も派閥問題も絡んできて、市高署の捜査本部は蚊帳の外と。
 僕と小橋にはそれぞれ過去があり、小橋のチョット魅力あるキャラかと思っていたのが意外にも・・・。

 第三部では本命の人物が真相を明らかにしていく。
 描写されているのは内面に深い傷を負った女性とそういう女に惹かれる男の世界、そして心療内科の米村辻彦なる人物のマインドコントロール。
 ラストで中島と小橋はどのように決着をつけるのか。

 やはりこの著者の作品は並の刑事物とはひと味もふた味も違う世界を醸し出している。疲れた。
 ところで犯人がつぶやく中島と小橋の刑事達に対する評価が面白い。
“僕はやがて捕まるだろう。・・・中島と、小橋。あの二人は特別鋭いと思わないが、執念がある。犯人が恐れるのは鋭さではないのかもしれない。鋭さなら対抗できる。でも執念には対抗できない。こちらは人を殺しているから、精神的な耐久力がない。”と。

  

余談:

 第三部に記される手記と関係する男女の苦悩する姿が重い中に、ホットするシーンが挿入されて読者を和ませてくれる。警視庁捜査一課の小橋なる刑事の行動や僕(中島)とのやりとりの中で。
 犯人が事情聴取の中で「世界平和パフェ」を食べる小橋のシーン。小橋の雰囲気に思わず笑い出しそうになり、いつも以上におしゃべりを。そして「僕には笑う資格がないから。人間を殺しているから。他のみんなと同じように、ああいう生活の風景を感じる資格がないから。僕は弾かれているから。この世界から、ああいった、温かなものから、僕は弾かれているから。」の表現で。
 
 さらに中島という刑事についても、「何かを抱えている。僕も同類だから分かるのかもしれない。彼は憎まなければならない犯人に憎しみを感じていない。彼らなら、僕のことを分かってもらえるかもしれない。彼らなら・・・・」と。

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

戻る