中島信子 『八月のひかり』



              2020-06-25


(作品は、中島信子著 『八月のひかり』      汐文社による。)
                  
          

  本書 2019年(令和元年)7月刊行。

 中島信子:
(本書による)  
 
 1947年長野県生まれ。児童文学作家。東洋大学短期大学在学中より詩人・山本和夫に師事。出版社勤務などを経て創作活動に入る。主な著作に「薫は少女」(岩波書店)、「お母さん、わたしをすきですか」(ポプラ社)、「さよならは霊界から」(旺文社)、「君棲む数」(桜井信夫と共著、エクスプレス・メディア出版)など。本書は児童文学の長編としては20年ぶりの作品である。

主な登場人物:

田端美貴 小学5年生。働くお母さんのかわりに料理や洗濯をして、毎日を家で過ごしていた。同じような境遇で3年生の時の仲良しだった萌ちゃんや留美ちゃんは転校でいなくなった。父が怖い。
田端勇希 小学2年生の明るく素直な男の子。大ちゃととても仲良し。
お母さん

勇希が3歳の時、父親の暴力で離婚。子供の時ころんで右足に怪我、今は家から遠いスーパーのレジ係で生計を立てている。
父親からの養育費はなし。

お父さん 勇希が生まれた頃ころ、会社をやめて、パチンコばかり。帰ってきてもお母さんの顔をひっぱたいり、けとばしたりして怖い人に。
横須賀のおばあちゃん

結婚しないで18歳で美貴を産んだ。
何もかもお母さんと正反対の人。

須藤大輔
(大ちゃん)
お父さん

勇希の仲良し。勇希とはトンチンカンなやり取りで成り立っている。
・お父さん 優しい。お母さんは別の男の人と家族を捨てて出て行った。勇希にも優しい。

留美ちゃん

美貴の小学3、4年生の時の仲良し。お父さんが家を出て行った。
5年生になると新潟に越していった。

萌ちゃん

美貴の小学3、4年生の時の仲良し。お父さんはガンで亡くなる。
5年生になると大阪に越していった。

中川さん お母さんが働くスーパーの店長さん。優しい。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 8月、夏休み。5年生の美貴は、働くお母さんのかわりに料理や洗たくをして、毎日を家ですごしていた。美貴には、夏休みに遊ぶような仲良しの友達はいない。それには理由があって…。現代の子どもを取り巻く問題と、子ども自身の繊細な気持ちを深く描き出す。

読後感:

 父親のいない母子家庭、養育費も父親からはなし、しかし母親の「貧乏でも命が危なくなるようなこと以外は叱らない。しつけはきちんとし、汚れているのはいや、だらしない生活はだめ。礼儀は正しく、挨拶がきちんとできることやうそは言わない」など貧乏ながら子供たちはしっかりと素直に育っている姿に、涙が自然とこぼれてくる。

 お母さんへの信頼感、尊敬、姉である美貴の母親に変わって家庭の料理を一手に引き受け、弟をしっかりと見守る姿。勇希のいつもお腹をすかし、おいしそうに食べる様子や、まっすぐに育っている様に胸を打たれる。そんな弟のことを愛おしく思う姉の美貴、家族をいとおしむお母さんのけなげさが心に染みる。
 
 児童書の分類に入る本。125ページの本はものの一時間で読み終えてしまう。
 花粉症でもあるが、ティッシュが欠かせなく心が洗われる思いで読んでしまう。
 勇希の友達である大ちゃんの訪問をうけ、「貧乏とお母さんに捨てられるのとどっちが悲しいかな?」と思う美貴の胸の内がやるせない。

 また、貧乏で一家の中心が母親という母子家庭で、暑い夏、お母さんが風邪を引き、寝込んでしまうもお金がなく、病院に以降ともしないでいる様子。
 そんな時、屈託なく行動する勇希に対し、また姉の美貴の心細さと心配の胸の内を想像すると、こんな時が一番やるせなく感じてしまう。


余談1:

 各表題は副食の名前で統一されていた。
 その主役はキャベツ。毎回美貴がキャベツを千切りにし、それを中心にゆでてマヨネで食べたり、キャベツの味噌汁だったりと色々工夫して料理をしている。
 お母さんはおばあちゃんのように「生活保護はもらいたくない。役所はなかなか保護を受けさせてくれない」と。ほんとうに感動を有り難う。


余談2:

 NHKラジオ深夜便で、中島信子のインタビューで「八月のひかり」の作品を取り上げていた。
「『貧困は見えない貧困ではなく、日本の場合は見せない貧困である』の一言が心に響いた。
 そして子供たちが内なる声として書き上げていかないと本ものの貧困は見せられないと思った。」と。
 そして児童文学を志した理由を語る中島信子の子供の頃の話は心揺さぶられる思いであった。
・3人姉弟の真ん中に生まれ、両親から扱われた数々の記憶から、子供って純粋で大人よりも繊細。子供は4才でお父さんやお母さんを越える等の思いから児童文学に行き着いたことを。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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