中島京子著 『長いお別れ』



              2019-07-25

(作品は、中島京子著 『長いお別れ』    文藝春秋による。)
                  
          

 初出 全地球測位システム       嗜み(たしなみ)2013年冬号
    私の心はサンフランシスコに   オール讀物2013年8月号
    おうちへ帰ろう         オール讀物2014年10月号
    フレンズ            オール讀物2014年2月号
    つながらないものたち      オール讀物2014年6月号
    入れ歯をめぐる冒険       オール讀物2014年8月号
    うつぶせ            オール讀物2014年12月号
    QOL             オール讀物2015年2月号

  本書 2015年(平成27年)5月刊行。

 中島京子
(本書より) 
  
 1964年生まれ。2003年、田山花袋「蒲団」を下敷きにした書き下ろし小説「FUTON」で作家としてデビュー、野間文芸新人賞候補となる。2010年「小さいおうち」で第143回直木賞を受賞、2014年山田洋次監督により映画化される。同年「妻が椎茸だったころ」で第42回泉鏡花文学賞を受賞。著書多数。近著に「眺望絶佳」「のろのろ歩け」「かたづの!」「バスティス」などがある。

主な登場人物:

東昇平
妻 曜子

70超えで初期のアルツハイマー認知症を発症。かっては校長や公立図書館の館長を勤めた。何事もきちんとしたい性格そしてけっこうきれい好き。そのことから認知症が次第に進んで行く過程で色んなトラブルが・・。
・曜子 老老介護に奮闘、生来楽天的な曜子であるが、時に怒鳴ったりと怒りが。頼りは近くに住む次女の菜奈。

今村茉莉
夫 新
(しん)
息子 潤
(じゅん)
   崇
(たかし)

長女。アメリカ在住なるも年に一度は家族で帰国することがルールに。親の面倒見るべきではと心苦しい。
・夫 生物学者、3年の約束でカリフォルニアに家族で出向するも、延長延長で・・。夫はアメリカでの研究を喜んでいる。
・潤 海外でも、5歳から空手を習っていたため、露骨ないじめに遭わず。
・崇 小学校に入ったばかりだったが、要領よくすぐに英語をしゃべり出す。心優しい。

林葉菜奈
夫 健次
息子 将太

次女 曜子がいつも頼るのは次女の菜奈。
・夫 菓子メーカーの開発部勤務。相撲取りのような体型。
・将太 

東芙美(ふみ)

三女、独身。都内に事務所構え、フードコーディネーター。
三人の娘の内、最も素っ気なく、たいてい仕事におわれていて、親に対する気遣いやら同情心やらに欠ける。

他に
優希と瑠衣の姉妹 <全地球測位システム> メリーゴーランドに乗りたい幼少児。
熊谷ミチコ <私の心はサンフランシスコに> 今村新とアメリカ東部の大学に留学しているときの知り合い。
ベス・ウォード <おうちへ帰ろう> アメリカのハイスクール時代今村潤の彼女。
磯谷雄吾 <フレンズ> 東芙美の7歳年下の男。3年前同棲したいたが出て行く。

角南(すなみ)先生と富永先生

<フレンズ> かって昇平が校長の時の中学の教師。芙美に見合いの世話、心得を説きたいと。
磐田道彦 <つながらないものたち> 東芙美の中学時代の同級生。元妻悠子と娘桃花の間では復活の兆しが。芙美の中の“お不安様”が騒ぎ出す。
工藤晴夫 <入れ歯をめぐる冒険> 母親の雅子は認知症。武漢の赴任先から出張で帰国、会うも息子と認識されず・・・。
宇田川笑子(えみこ) <入れ歯をめぐる冒険> 東家の介護ヘルパー1年目。子供扱い、何もわからない老人扱いはNGの信念の持ち主。
高橋勝男 <うつぶせ> 東昇平のケアマネ。
ミスター・グラント <QOL> 今村崇の通うカリフォルニア州モントレー郡の公立中学校の校長先生。崇が不登校となっていることで崇を呼び出す。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 帰り道は忘れても、難読漢字はすらすらわかる。妻の名前は言えなくても、顔を見れば、安心しきった顔をする…。ふたり住まいの老夫婦に、娘が3人。認知症の父と家族のあたたかくて、切ない10年の日々。           

読後感:

 父親の東昇平は初期のアルツハイマー型認知症と診断される。それから10年にわたり、次第に進行する症状。妻の曜子は、海外在住の長女茉莉とは国際電話でしか連絡が取れないし、独身の三女芙美はフードコーディネーターで忙しく連絡もなかなか付かない。
 頼りになるのは近くに住む次女の菜奈しか。自身も後期高齢者の仲間入りとなると自分が面倒を見る意欲はあるがままならないことも、ついつい怒りが爆発するときも。

 かたや認知症の昇平は、次第に言う言葉も意味不明な言葉遣いをするようになり、昇平と会話が繋がるのが三女の芙美と判ることに驚く。
 認知症の症状、それを支える家族の大変さも現実味を帯びるが、この厳しくも切ない内容が息苦しくならないで読めるのは、描き方がユーモラスに笑えるようなスタンスで描かれていて、心和む愛情いっぱいの話になっていることによっているからだろう。
 身につまされる内容ではあるが、今後の自身のこととして参考になること多々。
 

余談1:
 この作品を読んでいる時期が5月半ば。映画が5月末に封切りになるタイミング。そしてニッポン放送のウイークエンド・ケアタイム「ひだまりハウス」〜うつ病・認知症について語ろう〜にゲストで著者の中島京子さんが出演されていた。
 本作品、ご自身の体験を元に書かれたというお話。

 
余談2:
 ・本の題名の「長いお別れ」とは「認知症」のことを呼ぶそうな。少しずつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかって行くから、と作品の中で崇が通うカリフォルニアの公立中学校のグラント校長が。
 ・
QOL(qulity of life)人が自分らしく生きていると感じることのできる質的な幸福度のこと。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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