中島京子
       『桐畑家の縁談』 、
  
『花桃実桃』



              2013-12-25


(作品は、中島京子著 『桐畑家の縁談』(マガジンハウス)、
           『花桃実桃』(中央公論新社)による。)


             

「桐畑家の縁談」
 本書 2007年(平成19年)7月刊行。

「花桃実桃」
 初出 読売新聞社ウェッブサイト「yorimo」2009年6月〜2010年6月連載。
 本書 2011年(平成23年)2月刊行。


 中島京子:
 
 1964年東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。日本語学校職員、出版社勤務、フリーライターを経て2003年「FUTON」でデビュー。著書に「イトウの恋」「さよなら、コタツ」「ツアー1989」「坊ちゃんの失踪」などがある。


物語の概要:

 「桐畑家の縁談」
 
 「結婚することにした」。妹・佳子の告白により、にわかに落ち着きをなくす独身の姉・露子。寡黙な父、饒舌な母、そして素っ頓狂な大叔父をも巻き込んだ、桐畑姉妹の悩ましくもうるわしき20代の日々を描く。

「花桃実桃」

昭和の香り漂うアパートで、へんてこな住人に面食らい、来し方を振り返っては赤面、行く末を案じてはきりもなし…。40代シングル女子の転機を描く、ほのぼの笑えてどこか懐かしい、直木賞作家の最新小説。

主な登場人物:

「桐畑家の縁談」
桐畑露子 姉、27歳。妹の部屋に居候の身。
桐畑佳子(よしこ) 変わり者の妹。小規模の日本人学校の事務員として全てのことを切り盛り。
桐畑氏 国分寺に住む父親。車の部品メーカーの本社勤務。無口で突然大声で怒りだし、何でも身勝手に決めてしまうと、夫人とのケンカが絶えない。
桐畑夫人 同母親。スピッツのようにキャンキャン言い立てる妻。
十条のおじさん 父方の祖父の妹の夫。情緒第一主義のロマン派。
渡辺邦男 露子と4年付き合っている研修医。
ウー・ミンゾン 台湾出身の佳子の彼氏。今は日本人学校に通いながら、バイト勤め。将来の夢を持つ。

「花桃実桃」

花村茜
父親 桃蔵(没)
兄 
(101号室大家)

15年前母親は逝き父親は心筋梗塞で急逝。築20年のアパート花桃館”(全9戸)を相続し、退職して大家になった43歳のバツイチ。
兄とは疎遠、

雨宮李華
(103号室住人)

父桃蔵の愛人だった老女。桃蔵は茜の知らない遺言を李華に残していた。桃蔵の晩年は結構幸せだったと茜は思う。

玉井ハルオ
(302号室住人)

まだ骨格も細い少年のごときウクレレ男。家賃を滞納している対策で、茜は尾木くんのバーを紹介する。

妙蓮寺大介
子供達
陸、海、空
(201号室住人)

父親の大介は40代半ば、雑誌の記者。母親は3人の子を残して家を出る。
陸がこの家の主婦役で、万事切り盛り。高校入学のことでひともめに。

高岡日名子
(203号室住人)

整形マニアで茜の一つ下の女。

槌田直樹
(303号室住人)

ハンチングを被る探偵くんで猫好き。ペットは飼えないことで一騒動。

イヴァン
(301号室住人)

クロアチア出身の外国人。国際日本東京江戸川大学山田の狭間校舎で客員教授として来た詩人。

尾木くん
元妻
娘 瑠璃

高校の同級生、客の少ないバー“青いライオン”を2年前から経営している。
茜にヒマだから来てくれと言ったり、相談したいことがあると・・・。茜のことを“味がある人”と判ったと告白。
元妻(美人)と娘は北海道に暮らし、高校を卒業する娘が東京の大学に進むという。


読後感
 「桐畑家の縁談」

 なんともすっとんきょう(?)な家庭の桐畑家。でも何とも暖かいというか、居心地が好さそうというか、それぞれが個性的で一般人離れしている姿にほっとする。
 なかでも27歳にして独身の露子の性格がおっとりとしていい。さらに風変わりでとても結婚なんか考えられそうもない妹が、さっさと結婚を決めてしまって大いに戸惑っている姉の露子さんはいじらしいやら、脳天気さがたまらなくいい。どうして結婚できないのか。

 そうして姉妹の関係もすごくユニークでほほえましい限り。
 佳子さんは小さい時はイジメられっ子、存在感などあれほど希薄な彼女が、高3では黒人の彼氏を連れてきたり、色気もなく愛想のない妹がどうしてと姉は戸惑う有様。
 
 日本語学校の事務員として働く佳子さんが、いま交際のお相手は台湾青年のウー・ミンゾン。そして「結婚をします」宣言。こんな彼女に開花させたのは誰?。
 露子さんはというと、三度の就職先を辞めて、今は妹が自活する部屋に居候の生活。小柄で愛想が良く、聞き上手の露子さんはお見合いをしても大抵一度で気に入られるのに、片っ端から断っている。長く付き合っている渡辺邦男との仲はというと・・・。
 果たしてどうなるのか。
 親が親なら子供も子供。桐畑家の家庭はまったくもってハチャメチャ家族の集まりか?


「花桃実桃」

 43歳の花村茜、年の割に考え方が若々しくて大人びているのか、若い女性とも思えてきてとても年相応には見えずの不思議な性格。でもすごく好ましい性格でこんな大家さんのいるアパートなら住んでみたくもある。 
 住人がまたえらく個性的で、変な人ばっかり、大家という立場では、困った住人でもあり気に入ったことも。話はほほえましいやら、ジンとくるところもありおもしろく読ませる。

“花桃館”の位置が、都会から離れ各駅停車しか止まらない、しかも徒歩15分はかかる。後ろはお寺で墓石を眺め、幽霊も出る(?)景色の好い(?)車が入れないから交通事故も起きない草花木に溢れた好物件(?)。9戸の内3戸も空きがあり不動産屋の親父は喰えない親父。
 ゆるさが住み心地満点との評価も。
 大家家業に精を出すのか、はたまた人生一人で大家家業で朽ちていくのか?その結末は・・・。


◇  印象に残る表現:(「花桃実桃」より)

・バーテンダーの名前の由来(尾木くんが茜に):

「バーテンダーの名前の由来は、バーのテンダーなんだ。テンダーは優しいって意味でね、人の涙を自分の涙と感じる能力から来る言葉だそうだ。自殺を考える人が人生最後に立ち寄るのがバーで、そういう人に旨い酒を出すのがバーテンダー」

・「人間(じんかん)いたるところ青山あり」 このことわざの意味は「死に場所はどこにでもある」。人間は世間の意味、青山は墓場のこと。

・茜、尾木くんから福島行きを誘われて後、あれこれ考えてとりとめなく口走る

「人間にもいろんな人がいて,実が小さい人もいるじゃない? でもねえ。どっちがどうって話じゃないと思うのよ。花や実だけじゃなくてね、ジャガイモみたいに、重要なのは地下茎って人も、きっと人間の中にもいるわよ」「花も実も地下茎もっていかないとしたら、自分にとって大事なものが花か実か地下茎か、それともそれ以外の何なのか、見極めて」・・・・

・石の上にも三年、点滴岩を穿つ(うがつ)  点滴とは雨だれのこと

  

余談:

 話の中に「東京物語」の笠智衆の名前が出てきて懐かしかった。高校時代の漢文の先生がこの笠智衆の幼なじみで、大根役者だと評していたのが未だに記憶にある。でもあの飄々とした味はなかなか出せるものではなく、演技なのか、はたまた笠智衆という人そのものの味なのか(こっちの方と思う)。おしかったなあ。

背景画は、「花桃実桃」の舞台の”花桃館”の側にあるハナモモの木をイメージして。

                    

                          

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