中島京子著 
    『平成大家族』






                2016-02-25


 (作品は、中島京子著 『平成大家族』      集英社文庫による。)

             

初出 「青春と読書」 2006年5月号より2007年10月号に。
   単行本は2008年2月集英社より刊行。
本書 2010年(平成22年)9月刊行。

 中島京子:(本書による)

 1964年東京都生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。出版社勤務ののち、フリーライターに。米国滞在を経て、2003年「FUTON」で小説家としてデビューする。2010年「小さいおうち」で直木賞受賞。著書に「イトウの恋」「さようなら、コタツ」「ツアー1989」、エッセイに「ココ・マッカリーナの机」など。

物語の概要:(本書に記載の紹介文より)

緋田龍太郎72歳。歯科医を引退し、悠々自適の隠居生活のはずが、引きこもりの長男や、実家に舞い戻った長女一家、認知症の義母らと暮らす日々…。新鋭の筆が踊る、4世帯家族の混線連作小説。

主な登場人物:

<緋田家の人々>
龍太郎(72歳)
妻 春子
(66歳)
息子 克郎
2年前定年退職の元歯医者。現在は1階の書斎で義歯の製作を請け負っている。
長男の克郎は親にとって悩みの種。家を出て行けと龍太郎は叫ぶが・・・。
長女 逸子
夫 柳井聡介
息子 さとる
(13歳)
夫の聡介はIT会社を倒産させ、一家は緋田家に身を寄せている。
・さとるは当初物置に立てこもっていたが、克郎に追い出される。
次女 友惠
元夫 尾崎和仁
大学卒業後都内の出版会社勤務、新聞記者と結婚、大阪に転居。その後夫は志願して沖縄に単身支局へ。意地っ張りで見栄っ張りの友惠は沖縄では暮らせないと離婚、出戻る。
祖母 吉野タケ
(92歳)
川島光彦 龍太郎の囲碁友達。
皆川カヤノ(24歳) 克郎の初恋の人。前年の秋元カレとの同棲を解消、吉野タケの介護ヘルパー。
セイシロウ 皆川カヤノの元カレ。
漆畑慎吾 駆け出し芸人の若手。友惠のカレ。
読後感

 緋田家の一家の構成メンバーは母屋には祖母のタケ、龍太郎・春子夫婦、出戻りの次女の友惠、さとる(長女逸子?柳井聡介の息子)が、離れには長女逸子・柳井聡介、物置に克郎(龍太郎・春子の長男)が住む一大家族の物語。それぞれの主人公にその生き様が描写される。それぞれの生き様があるのである。

 春子は自分の家族の育て方は間違っていたと悔やむが、果たして外から見る人々は「あなたは幸せなのよ」と一蹴されてしまうし、龍太郎の囲碁友達には「うらやましい」とさえ。
 中でもしんみりとしたのはひきこもりの克郎(30過ぎ)の様子。家の外に出ることが出来なくなり、さとるの様子を見て、自分が物置にいるべき人と、追い出してインターネットを駆使して生活をしている姿。それでもタケの介護ヘルパーに訪れてくる皆川カヤノに初恋。カヤノとの優しさあふれるやりとりが感動的。

 春子の家族を預かる日頃の些細な事に対する不満もよそからみると羨ましがられたりするのは実感がこもっていてそんなもんだろうなあとも。幸せかどうかは本当に死ぬ間際になってみて思い知るものだろう。
 家族それぞれの物語にはそれぞれ同情したりうなずけるものがあり、身の回りのこととも合致するところもあり、気持ちが軽くなった。


余談:

 春子の章(「カラスとサギ」)で“年を取ってくると、単調で平穏な生活を乱されるのは不快で不都合なことなのだ。”として昔の“離れにタケがいて、幽霊みたいな長男を二階に住まわせ、夫と二人で過ごしていた日常は、いまとなっては静かな日々だった。優しとみし世ぞいまは恋しき”と嘆く春子の気持ち、分かる気がして。
 背景画は作品中の緋田家の大家族が住んでいたであろう長女の逸子夫婦が住んでいたであろう平屋の離れをイメージして。

                    

                          

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