◇ 物語の展開:
四人の医学生を主人公にすえ、生まれ育った環境、現在の状況、医学部での生活状況、悩み、医学部の授業風景、卒業後の状態を描くことで、医者になっていく世界が克明に、たんたんと語られていく。
作者のことばに、医学生になる前はどこにでもいる普通の高校生だった。いかに白衣を着て偉ぶってみたところで、この事実だけは動かしようがない。この辺にスポットをあてて、自分史のような教養小説を書いてみようと思った。患者と等身大の医者を描き出すためにとある。
◇ 読後感
四者四様の医師像が提示されていて、お医者さんといっても、色んな人がいると感じさせられる。 著者自身現在も長野県の医師であり、多忙な医療活動の傍ら、地道な創作活動を続けているという。
「阿弥陀堂だより」、「海へ」、「医学生」と読んでみて、さすがに医学関係の描きが中心であり、秋田での学生時代、医師としてのいろいろな世界のことがお互いの作品には、関連してるようだ。
人体解剖実習での詳細記述場面は、さすが食事前は読みたくなくなる。しかし、グループ4人で、一体とはいえ、20体ほどの死体を丸ごと解剖していき、神経細胞図や腹腔内臓器を全て露わにしてそのスケッチをすることを、ホルマリン漬けの匂いが体に染みついていく中、やっていく過程には、それを経験する前と後とで、死に対する見方、人生観が変わってしまうのは判る気がする。
また、実際の病院などでの研修でみる、沢山の末期癌患者の死を看取ってきた医者の精神が正常でなくなるのもうなずけてしまう。
生きていることのすばらしさを再認識することと、いつかは人間は死ぬもので、どういった死に方をしたいか、身につまされる。
はたして、このあと自分が病気にかかり、医者に対したとき、どんな風に感じるだろう?
|