長岡弘樹著 『 教場 』
 



 

              2016-05-25



(作品は、長岡弘樹著 『 教場 』   小学館による。)

           
 

 初出 「STORY BOX」vol1、vol4、 vol5、vol8、vol11、vol14、vol17、vol18に掲載された「初任」 を単行本化にあたり全面改稿し、改題したもの。
 本書 2013年(平成25年)6月刊行

 長岡弘樹(本書より)

 1969年山形県生まれ。筑波大学卒。団体職員を経て、2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞。08年「傍聞き」で第六十一回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞、同作を収録した文庫「傍聞き」は39万部のベストセラーとなる。他の著書に「陽だまりの偽り」「線の波紋」がある。

主な登場人物:


<教官たち>
植松 初任科98期短期課程37人の担任教官。昨晩入院。
風間公親(きみちか) 植松教官復帰までの代理教官。隙の無い男の印象。白髪頭の義眼のような目をした人物。
須賀 植松の副担任。巨体で柔道担当。細かい規則が何より好き。
服部 性格陰険なくせに口だけはやけに丁寧。ドS教官。
貞方 県警特別救助班の隊員、警部補。
尾崎 教官の肩書きを持たない寮兄、巡査部長、36歳。
神林講師 県警本部交通機動隊所属、警部補。
<学生たち>
第一話「職質」
宮坂定 風間にその日に気づいたことを報告する課題を与えられる(風間のスパイと他の学生たちから見られる)。刑事課志望。
平田和道 父親は交番勤務。宮坂と一番仲良しに見えたが、宮坂に憐れみを受けることを恨む。
第二話 「牢問」
楠本しのぶ 三班の班長。2年間続けたインテリアの仕事から警察官を志す。滅多に褒めない服部教官が“取り調べが上手い”と評価。
岸川沙織 匿名の脅迫状が届く。
第三話「蟻穴」
鳥羽暢照(のぶてる) 白バイ隊員を目指している。
稲辺隆 鳥羽の親友。須賀副担任から無断外出の容疑が稲辺にかかっているとき、アリバイ証言で鳥羽が嘘の証言をしたことで・・・。
第四話「調達」
日下部准(じゅん) 級長、32歳。2年前ボクサーライセンスを返上して警察官目指す。チクリが得意。
樫村巧実(たくみ) 抜き打ち検査に引っかからない調達能力を有している。尾崎の後輩。
第五話「異物」
由良求久 10年前スズメバチに刺され、また刺されたら異物に対する過剰な免疫反応を恐れる。協調性のなさ、はぐれ者。
安岡学 追跡が得意。
第六話「背水」
都築耀太 成績はトップクラス、でもはぐれ者的雰囲気の持ち主。防犯畑の警察官を志す。卒業式当時の総代を目指す。
日下部 都築に総代への道をえさに、卒業論文編さん委員届けに名前を書いてくれと。
宮坂定 都築に自分に職質をかけてみろと。「総代になるのはおれだ」とライバルの挑発を。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

「君には、警察学校を辞めてもらう」。この教官に睨まれたら、終わりだ。全部見抜かれる。誰も逃げられない…。長岡弘樹初の本格的連作長編にして、好事家をもうならせる、警察学校小説。

読後感
  

 警察学校ってこんな所かと思って面白さが半分、学校の汚さ、教官の意地汚さと一方で風間教官の抜け目なさと非情さを持ち合わせた男気、思いやりを持った指導に共感したり。
 警察官はこんな風に育てられているのかと改めて感心したり。
 それにしてもこの展開の仕方、連作でどうなったのかと思ったら、次の話の中に結果が埋め込まれていて次々と読んでいきたくなってしまう。

 学校は警察官としてふさわしいものを持った人間以外はどんどん落とされていく過酷な環境にあり、入ってくる人間は意地汚い教官や、仲間たちとの中で恨みや嫉妬で居られなくなって去って行く。
 厳しさは毎日の日記に嘘を書いたら学校を去らねばならない規則。嘘にならないようにするために仲間のアリバイも裏切ってしまうことに。そんなことを何でも知ってついてくる風間教官。睨まれたら逃げられない。

 最後の第六話「背水」でいみじくも当初から優秀な成績で何事もなくすんなりとこなしてきた都築が卒業を迎え体調を崩しているのを見た風間教官が厳しい言葉を投げかけるシーン。
「入学してから今日まで胃が縮むくらい追い詰められた経験をしたか」と問う。
 それなりの修羅場なり挫折なりをきっちりと経験してきた宮坂、楠本、鳥羽、日下部、由良の名を挙げ、彼らに関する話がこの小説の第五話までのことであったことを知る。そういうことだった。

 ところで話の中、色んな授業で学生達に質問して答えさせたり、教えたりすることの中に自分にとっても大変興味のあること。例えば職質のかけ方や車のスピード違反取り締まりでの対応の仕方とか、交番勤務の時のトラブル処理法とか興味深いことがらが数多く出てきて興味がつきない。


印象に残る場面

 第五話「異物」で
 由良は廊下に出た。教官室の方へ戻っていく風間の背中を追いかける。
「何を思いつめているんだ」
 こちらが近づいていったのを気配だけで察知したようだ。風間は振り返りもせずにそう口にした。心の状態までを見透かされたのは、足取りに自信のなさが覗いたせいか。
「教官、わたしを退校処分にしてください」
「まだ気に病んでいるのか。忘れろと言ったはずだが」
「しかし」
「ここはな、たしかに篩
(ふるい)だ。だがその逆でもある。残すべき人材だと教官が判断すれば、マンツーマンで指導しても残してやる。そういう場所だ」
だから簡単に退校処分などと口にするな、と言いたいらしい。 

  

余談:

こんな小説は今まで経験が無くまったく新鮮で是非「教場2」を読んでみたくなる。そして小説やドラマに出てくる警察官の人物を見る目が変わった。
 もうひとつ小説を書くに当たっての参考文献のリストを見てやはり色々と調べて書かれているのだなあと改めて感心したり。  

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

戻る