長岡弘樹 『緋色の残響』



              2020-08-25


(作品は、長岡弘樹著 『緋色の残響』      双葉社による。)
                  
          

  初出 「小説推理」
    「黒い遺品」     2017年10月号
    「翳った水槽」    2018年4月号(「水合わせ」改題)
    「緋色の残響」    2018年10月号
    「暗い聖域」     2019年4月号
    「無色のサファイア」 2019年10月号(「灰色の手紙」改題)

 本書 2020年(令和2年)3月刊行。

 長岡弘樹:
(本書による)  

 1969年山形県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒業。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同作を収録した短編集「傍聞き」は40万部を超えるベストセラーとなる。主な著書に、13年「週刊文春 ミステリーベスト10」国内部門第1位に輝いた「教場」や、同シリーズの「風間教場」、その他に「陽だまりの偽り」「赤い刻印」「血縁」「救済SAVE」「119」など多数。

主な登場人物:

羽角啓子(はずみ・けいこ)

杵坂(きねさか)署強行班係の主任刑事、43才〜。
夫は25年間の警察官人生後没。

羽角菜月(はずみ・なつき) 杵坂市けやき中学1年生。新聞部員として仕事、将来新聞記者を目指している。
黒木駿 杵坂署の啓子の後輩刑事。
[黒い遺品]
北本文彦 飲食店勤務の被害者。
地元不良グループ「アジッド」のサブリーダー格、19才。
久内宏作(こうさく) 東州日報社会部の記者、29才。

[翳った水槽]
(かげった)

江坂恵弥(めぐみ) 羽角菜月の担任教師、29才。メダカを30匹飼っている。
朝比奈創(はじめ) 非常勤講師。通勤に外車を乗り回す裕福な既婚者。
[緋色の残響] 菜月 中学2年生に。
青埜(あおの)静奈 宍戸宙未を指導している音楽教室の先生。

宍戸宙未(ししど・そらみ)
<渾名 チューミ>

けやき中学2年生で一番の有名人。天才少女。
ピーナツの食物アレルギーを持つ。

[暗い聖域] 菜月 中学3年生に。
上原寿美香(すみか) 菜月とは中1の時から同じクラスの親友の部類。
光谷睦海(みつや・むつみ) 同じクラスの男の子、15才。教室では持参した弁当の交換が密かにはやり始めていて、菜月に料理を教えてと。
[無色のサファイア] 菜月 中学3年生。
広中日出数(ひでかず)

杵坂市の第二の繁華街であるN町にある質店スタッフ殺害事件の犯人として無期懲役で服役中。無実の可能性がある。
広中は啓子の中学時代のクラスメイト。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 シングルマザー刑事の啓子と一人娘の菜月のコンビが全編の主役を飾る連作短編集。「ザ・ベストミステリーズ2019」に選出された表題作を筆頭に、短編ミステリー作家として不動の地位を築く著者の手腕が存分に発揮された5編。

読後感:

 五篇の短編であるが、シングルマザーの刑事羽角啓子とその一人娘菜月が織りなす殺人事件に絡む犯人捜しが、見事な伏線と二人のまじわすやり取りの軽快かつ軽妙さが読者を酔わせる絶妙な味わいの一級作品である。
  登場人物が少数でもあり、さて誰が犯人なのかと思っていたら・・・。

[黒い遺品]:見物人の中で啓子をじっと見つめている東州日報記者久内宏作(29才)の訳とは、殺害現場で見られていた少女とうりふたつだったのだ。
 その少女の作った似顔絵は、今夢中になっている碁石で描かれていた。

[翳った水槽]:担任の教師が飼っていた30匹のメダカ。その教師が殺害され、犯人を推理する啓子は、菜月の言い分と自分が目にしたものの微妙に食い違っていることから、メダカの習性を利用して犯人を突きとめる。

[緋色の残響]:本の題に掲げられているもの。
 ピアノ教師と、レッスンを受けている天才少女の間の思い違い。嫉妬か、指導への不満か。
 葉月も昔そのピアノ教師に習っていて辞めたが、絶対音感を持ち合わせている。
 その絶対音感が少女の食物アレルギーを利用した犯人を追い詰めることに。

[暗い聖域]:菜月に、料理を教えてという光谷君が翌日崖下に突き落とされて大けがをして発見される。啓子から読心術を教わった菜月は上原寿美香に仕掛けることに。

[無色のサファイア]:啓子の中学時代のクラスメイトである広中日出数が質店の店長殺しの犯人として逮捕され、黙秘する広中を馴染みの啓子が取り調べることに。
 生活費のため質店にサファイアの指輪を換金のため向かう途中石を落としてしまう。
 身の潔白のための警察の石捜しは徒労に終わる。
 一方で、菜月がいじめられているのではの担任からの電話に、啓子は菜月に注目をしている。

 刑事としての啓子の見識、技術、一方で菜月の次第に成長して逞しくなっていく様子が頼もしくて、菜月が高校生になっての活躍が望まれる。


余談:

 羽角啓子と菜月の出てくる作品は、「傍聞き(かたえぎき)」の菜月は小学6年生で、生まれつき怒りっぽく一度腹を立てるとしばらくの間何も喋らない人物として。
「赤い刻印」では(葉月として?)中学3年生。母親に二人の母親がいることを知り老人ホームに会いに行く。

 この後、菜月のその後の成長ぶりの作品が出版されることを期待したい。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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