長岡弘樹 『白衣の嘘』



              2020-10-25


(作品は、長岡弘樹著 『白衣の嘘』      角川書店による。)
                  
          

 初出 「最後の良薬」         「小説 野性時代」2014年3月号
    「涙の成分比」        「小説 野性時代」2014年3月号
    「小医は病を医し」
(「小医は病を治し」改題)「小説 野性時代」2014年3月号
    「ステップ・バイ・ステップ」 「小説 野性時代」2014年3月号
    「彼岸の坂道」        「小説 野性時代」2014年3月号
     「小さな約束」        「小説 野性時代」2014年3月号

 本書 2016年(平成28年)9月刊行。

 長岡弘樹:
(本書より)  

 1969年山形県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒業。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞し、05年「陽だまりの偽り」でデビュー。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。13年刊行の「教場」は「週刊文春 ミステリーベスト10」国内部門第1位、「本屋大賞」6位などベストセラーとなった。他の著書に「線の波紋」「波形の声」「群青のタンデム」「教場2」「赤い刻印」などがある。

主な登場人物:

[最後の良薬]
副島真冶(そえじま) 職員数40人弱の個人病院の内科医師。終末期医療の経験一度もないのに、進行の速い胃がん患者の主治医に。
児玉利明(としあき) 学生時代自転車部、ロードレース選手だった医師。
杉野友葵子(ゆきこ) 身寄りなしの末期胃がん患者。
[涙の成分比]
皆川彩夏(あやか) 父親が商社勤務の関係で帰国子女。大学ではバレーボール部で練習に励み、全日本のメンバーに選ばれる。
皆川多佳子(たかこ) 彩夏の姉。県立総合病院勤務の医師。急患多く過労気味。

[小医は病を医し](なおし)

角谷(かどや) T町役場の職員。入庁6年目、32才。心筋梗塞で入院。しばらくして病室を喬木が居る二人相部屋に移動させられる。
岸部先生 国立Y医療センターの医師。
喬木(たかぎ) 消化器系病棟に入院の42,3才のがっちり体型の男。警察の人間らしい。
[ステップ・ハイ・ステップ]
上郷仁志(かみごう) 曽根川共済病院の10年以上勤務の外科医。内山亜沙子の教育係。
内山亜沙子 研修医。無断に休んで5日。うつ病の噂。
西本直守(なおもり) 外科部長。交通事故に巻き込まれたため、上郷に代わり河原崎の手術を行った。
河原崎 心臓弁膜症で入院の検察官。
[彼岸の坂道]
友瀬逸郎 S総合病院センターの医師。津嘉山に次ぐ最年長。
生原省吾(いくはら) 次期センター長の友瀬のライバル候補医師。生原家の家族、親族には医療関係で管理職に就いている者が多い。
津嘉山徹(つかやま・とおる) センター長。ある日高台下の石畳の私道で倒れていて救急搬送されてきた。
[小さな約束]
浅丘秀通(ひでみち) 弟。N署地域課所属の交番勤務の警察官。
浅丘実鈴(みすず) 姉。N署刑事課の刑事、39才。体調不良で入院、腎不全の診断下される。一生透析か、腎臓移植しか。
貞森 医療法人K病院の医師、32〜3才。秀通より1つか2つ年上。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 あの医者、嘘をついているかもしれない。主治医と患者、研修医と指導医。そこには悲哀にみちた人間ドラマがある。予想外の謎を駆使して人間の本性を鮮やかにあぶり出した、傑作ミステリ集。

読後感:

[最後の良薬]:末期癌患者の主治医になった副島医師をおとしめる投稿記事、患者はウェブ記事でいくつもの詐欺事件を起こしていることが見つかる。
 児島医師の教え「仲間意識は患者にとても効く良薬」の意味があった。

[涙の成分比]:帰国子女の姉妹が連休、父親の呼びかけで家に車で向かう途中事故に遭遇。
 妹は瀕死の状態で死にたいと。姉が取った行動は妹の頬にキスして、携帯の酸素ボンベを付け救援を呼びに。姉の行為の意味は・・・。

[小医は病を医(なお)し]:この病院では現在佐川事務長が姿をくらましていて、岸部はその理由を知っている様子。岸部が角谷を喬木の居る部屋に移動させたのは、同室者を集めてカウンセリングをすることが目的で、共に苦しんでくれる人が側に居ること。人間にとってこれが一番の鎮痛剤との思いのようだが。その実・・・。

[ステップ・バイ・ステップ]:研修医の内山亜沙子が無断で休んで5日になる。西本外科部長からの指示で教育係の上郷が一人で暮らすマンションに行き、施した施策は・・・。
 患者の河原崎の“くしゃみ”に隠された原因とは・・・。

[彼岸の坂道]:次期センター長候補の友瀬と生原のライバル関係。津嘉山センター長が救急搬送されてきて手術を指名したのは生原。友瀬は次期センター長は生原かと。
 果たしてセンター長の狙いは・・・。

[小さな約束]:姉の実鈴は腎不全で入院、婚約は不成立に。しかし、実鈴は以前からK病院の貞森とは好意を寄せていた模様。腎臓移植はHLAの型が一致しないと出来ないが、貞森は完全に一致。但し自殺の場合は親族への優先提供は出来ない。
 貞森が秀通をN海岸の磯釣に誘って起きた出来事は・・・。

 六編の短編はいずれも医師が起こしたミスや犯した罪を悔いて嘘をついたり、後悔の念にかられ自らを処する決断をする物語が主である。
 中でも[涙の成分比]が胸に迫った。トンネルの落石事故で動けなくなった妹が、もう生きていてもバレーボール人生の望みは絶たれたと感じ、「死なせて」と姉に訴えかけたときに姉の行動が感動的。


余談:

 本作品から、医学的なことで色々教えられることが多い。
 1)涙の成分って感情によって成分比が変わってくる。
 悲しみの涙は味か薄い。怒りの涙は水分が少ない代わりに、濃い涙で非常に塩辛くなる。そして未だ生きる闘志を失っていないと。

2)バナナの効用
 咀嚼回数を増やすことが有用。
 唾液にはベルオキシターゼカタラーゼといった酵素やビタミンCが含まれていて、これらは発がん物質の毒性を消す。咀嚼の回数を多くすれば、癌に対して治療効果がある。 など 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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