長岡弘樹著 『 血縁 』



              2019-09-25

(作品は、長岡弘樹著 『 血縁 』    集英社による。)
                  
          

 初出 「小説すばる」
    文字盤(「文字板」を改題) 2009年9月号
    苦いカクテル        2014年11月号
    オンブタイ         2011年3月号
    血縁            2012年10月号
    ラストストロー       2008年9月号
    32−2          2012年4月号
    黄色い風船         2016年11月号

  本書 2012年(平成24年)4月刊行。

 長岡弘樹:
(本書より) 
 
  1969年山形県生まれ。筑波大学卒業。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。13年刊行の「教場」は「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第1位に選ばれた。他著に「線の波紋」「群青のタンデム」「赤い刻印」「白衣の嘘」「時が見下ろす町」などがある。 

主な登場人物:

<文字盤> コンビニ強盗事件の犯人の不可思議な行動と、鎌込署裏金作り告発記事に関わる秘密の背景には・・・。
寺島俊樹

鎌込(かまごめ)署刑事課の主任。コンビニ強盗事件を追う。
・太田 後輩刑事。

末原稔
妻 満知子
息子 順也

寺島と同期の警察官。昔からの親友。交通事故に遭い、意識を取り戻したのは1週間前。動かせるのは眼球だけ、声が出せない。
・順也 父親の車に同乗、事故に遭った後部屋に引きこもり状態。

<苦いカクテル> 苦しむ父親の姿に、介護に疲れた娘が下した結論は・・・。

城所(きどころ)美登里
妹 詩織里
父親 庄冶

会計事務所勤務の独身、46歳。現在父親の介護のため長期休暇特別にもらっている。
・妹の詩織は弁護士家業に疲れ、翻訳業に転身のつもり。親の反対押し切って結婚して25年、実家に顔見せず。
・父親の庄冶 3年前脳梗塞で右腕以外機能失う。彼の介護がつとまるのは血の繋がった身内しか受け付けない。

尾野塚小枝(さえ)

庄冶のホームヘルパー。兄は所轄の刑事課勤務。

<オンブタイ> 建設業者の懇親会の後、部下の車で、事故で死なせ、自らは失明。介護に来た人物の仕返しは・・・。
西條隆也(たかや)

「西條ホーム」の人事課長。

原仁(ひとし) 西條の部下。
<血縁> 小さい頃から姉の令子には万引きさせられたり、殺されそうになったりの志保。自分のミスで客の浪子を死なせてしまったことで・・・。

栗原志保
姉 令子

現在は「UIしあわせサービス」ヘルパー。姉の令子と同じ事業所。
・姉の令子 志保に対する仕草は陰湿。
・青木貞文
(さだふみ) 入社以来志保の上司。サービス提供責任者。
新島浪子

志保の担当の客。 
・潮美 浪子の一人娘。但し血のつながりはない。

<ラストストロー> 三人の死刑執行の刑務官、100回目の「七日会」に集まったのは二人だけ。芹沢は「一個人として殺してしまった」と店の女主人に。
芹沢伸作 元刑務官、今は保護司。小料理屋の「こずえ」でボタンを押す三人で「七日会」を持ち近況の情報交換をして100回目を迎えようと。
後輩 二人

・米橋誠 3年下。ショッピングセンター建設話に土地を売らず住民から非難されている。
・外塚紀夫 6年下。土地売却のことで米橋を非難。

<32−2> 重波家の家族4人が二台の車でゴルフ場に向かうことに。義兄と葉苗の車は敬一郎が運転、葉苗は奇妙な行動に引き回される。

重波(しげなみ)葉苗
姉 沙苗
義兄 敬一郎
母親 富士子

母親は一代で築き上げたアパレル会社の社長、資産は30億の絶対の支配者、58歳。
・葉苗と沙苗は一卵性双子、27歳。
・敬一郎は元自動車の整備工の美男子。沙苗と結婚、30歳

<黄色い風船> 死刑執行は健康状態でないと延期される。戸外運動に風船を提案した梨本は膨らませた風船を故意に持ち帰り・・・。
梨本

刑務官。5歳になる雌のラブラドールレトリバーの”リン”を飼っている。

与田耕一 7年前の老夫婦強盗殺人事件の死刑囚。腹が張り、皮膚も目も黄色。体調を壊している。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 誰かに思われることで起きてしまう犯罪。誰かを思うことで救える罪。親しい人を思う感情にこそ、犯罪の“盲点”はある。7つの短編を通して、人生の機微を穿つ。バラエティに富んだ、長岡ミステリの新機軸。             

読後感:

<文字盤> コンビニ強盗の犯人が店長の差し出したメモ<でていいか?>に対する犯人の行動に、隠された謎が分かった時、事件が明らかになる。
 他方、県の調査で裏金作り告発記事が問題になっているが、ただ一カ所鎌込署だけがシロ。それというのも担当者の末原が交通事故で意識取り戻すも、声が出ず、眼球だけでの聴取に。末原の息子は同乗していて事故に遭い、以降部屋に籠もりきりに。

 末原の親友だった寺島はコンビニ強盗を追いながら、裏金作りの件を聞き出せるのか。
 肉親の間のわだかまりを聞き出せた時、真実が分かる。どんなことで不満を抱いていたのか、それが高じて復讐?にまで発展しちったのか、なかなか分からないところが悩ましい問題。短編小説の最初の章としてふさわしい話だ。

<血縁> 姉と妹、姉の妹に対する感情はどういうものだったのか。小学生の時、妹に二人での万引きをさせ、次の日にそのドラッグの店を焼失させる?(ホームレスが犯人として逮捕されたが)。妹を横断歩道で車道に背中を押して轢き殺そうとしたり?と。

 姉の大学の4年間と妹の短大2年間は顔を合わさずに済むも、就職先では約束の「UIしあわせサービス」で同じ事業所になる。そこで妹が起こした、客の新島浪子を誤って死なせてしまう。事故だったが姉の策略で切り抜けたかに。
 しかし姉が逮捕されたが、「浪子を死なせたのは自分でなく、妹だ」と主張し始めたら自分はどうなるか?姉の弱みを牽制しておく必要がと考える妹。
 これが「血縁」と題した要因なのだろうか?それとも考えすぎか?

<ラストストロー>(最後の藁)「一線を踏み越えさせる最後のダメ押し」。
 三人が持つ案件に、投げかけた言葉で思わぬ結果が連鎖。

<32−2> これが意味するのは、民法の「同時死亡の推定」という条文。敬一郎の遺産相続を目論む計画は果たされたのか。
 読者を悩ます最初の出だしと、ラストの内容。これは現実の話なのか、あの世での話なのかと。頭が混乱して、何度となく読み返させられた。すっきりしない。
 

余談:

 短編集は、原稿作成にはきつく、緊張して読むことになる。要約と登場人物の絞り込み、読書録と負担が大きい。でも頭を使うので認知症予防にはいいかもと。期待している。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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