村山由佳著 『天使の柩』、
            『ヘヴンリー・ブルー』








                
2015-03-25


(作品は、村山由佳著 『天使の柩』、『ヘヴンリー・ブルー』     集英社による。)

                
 
『天使の柩』

 初出 「小説すばる」2013年1月号〜7月号。
 本書  2013年(平成25年)11月刊行。


 『ヘヴンリー・ブルー』

 本書  2006年(平成18年)8月刊行。

 村山由佳:(「天使の柩」の本より)
 

 1964年東京都生まれ。立教大学文学部卒。会社勤務などを経て、1993年「天使の卵――エンジェルス・エッグ」で小説すばる新人賞を受賞。2003年「星々の船」で直木賞を受賞。2009年「ダブル・ファンタジー」で柴田錬三郎章、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞を受賞。「遙かなる水の音」「花酔ひ」「ダンス・ウイズ・ドラゴン」「天翔る」など著書多数。

主な登場人物:
 『天使の柩』

天羽茉莉
 (あもうまり)
 (14歳)
父親 清志

母親は10年前父とあたしを捨てて国に帰ってしまったハーフの中学3年生。父親と二人暮らしも、父親とは顔を合わせることもなく。学校も不登校気味。
・父親は休日でも外に出ていく。家では鍵を掛け茉莉と顔を合わすこともない。

井川琢也(タクヤ) 茉莉と知り合ったのは4ヶ月前。性欲と食欲のことしか頭にない。

一本槍歩太(あゆた)母親 

絵描き、別に看板屋さん兼ペンキ屋さんの一人住まい。
・母親は夫が亡くなり再婚。小料理屋をやっている。

斎藤夏姫(ナツキ)

歩太の古い友達。歩太と夏姫の仲はくされ縁と。高校の先生をしていた頃の教え子。

古幡慎一 夏姫の8つ年下の恋人。今は美容院で修業中。
マサル 小学4年生。公園で野良猫に怪我をさせたことで茉莉や歩太と関係を持つように。
ザボン 野良猫の名前。負傷後歩太の家で面倒を見て貰うことに。

『ヘヴンリー・ブルー』

斎藤夏姫(なつき)
(わたし)

高校の先生であったが、今はギャラリーの仕事。
春妃(はるひ) 夏姫の姉。大恋愛の末高卒で駆け落ち同然で結婚。相手は突然自殺、立ち直って精神科医に。
一本槍歩太(あゆた) 高校の3年間夏姫と同じクラス。絵描きを目指している。夏姫と付き合っていたが、別れを言い出す。
古幡慎一

高校の時の教え子、今は大学生(21歳)。夏姫の8つ年下。
訳あって祖父母の元で暮らしていたが、共に亡くなり偶然夏姫と再会する。心に傷を持っている。


物語の概要(図書館の紹介記事より)
『天使の柩』

 恋人の春妃を失って以来、心に深い痛みを抱えてきた歩太。家にも学校にも居場所がなく、自分を愛せないで育った少女・茉莉。傷ついたふたつの魂が惹かれあう…。「天使の卵」から20年、感動の最終章。

『ヘヴンリー・ブルー』

「天使の卵」では、どんなに熱い想いを歩太に抱いても報われなかった夏姫の恋。思いがけず姉・春妃に向けた恨みの言葉。狂おしい熱情と悔恨…。夏姫のモノローグで綴る、もうひとつの物語。

読後感
『天使の柩』
 
 一本槍歩太、夏姫、慎一に関することは「天使の卵」「天使の梯子」にその背景があり、5年前に読んだことが思い出され、本稿を読み返してみる。本作品はその“天使”シリーズの最終章にあたるという。
 今回は母親
(フィリピン人)が父親と茉莉を残して母国に帰ってしまい、父親からは自分が母親に似ているためか顔を合わすことすらきらっていて、父親が家に居るときは茉莉が居る部屋の外から鍵を掛けられてしまう。そのため自分の居場所を求めてタクヤというどうしようもない男の元に安らぎの場を見つけている。

 そんな中、石神井公園で見かけた死体かと思われた絵を描く男
(歩太)が、猫を苛めている小学生を止めさせていて逆に襲われそうになったとき助けに入ってきて知り合う。
 歩太の家に居るときが茉莉にとって安らぎの場と感じる。しかしタクヤの計画を知りこの人を守という意識に自らをおとしめる茉莉。
 茉莉の素性を歩太に知られること、歩太の過去が明らかにされることそしてその解決策がラストに展開する。
 いよいよ最終章の幕が下ろされた。
 茉莉が歩太及びその人の周りに集まってくる人達の優しさ、暖かさに触れ全く異なる世界にいる自分が次第に癒されていく過程がさわやかでこんな風に扱われたら悪い人間などいなくなるんじゃないかと思いたくもなる。一種のファンタジーの世界のようだ。

『ヘヴンリー・ブルー』

「天使の柩」を読んだ後本作品を読んだ。この作品は夏姫のモノローグで語られる歩太との別れに対する苦悩、歩太と姉との関係で言ってはいけないと判っていながらも口に出してしまったことによる姉の死の原因となってしまったとの思いから来る後悔。歩太の恐れている不安に対し姉の慰めの言葉。自分の苦しい胸の内を救ってくれる慎一との再会等心情が細やかに描かれていて胸を打つ。この背景を知って「天使の柩」の歩太、夏姫と慎一の今の姿があったのかと改めて認識した次第である。
   


余談:

「天使と柩」の内容を見ると歩太と夏姫の関係は吹っ切れたようであり、歩太の人物画を描けるようになったことは天羽茉莉の出現によって吹っ切れたことで目出度しめでたしと言うところか。もう一度「天使の卵」から読み返したくなった。

                               

                   背景画は歩太が描いたマリア・グラナダ(イエスの復活を初めに目撃した人、元娼婦であり聖女でもある
                   妖しい美しさを持つ女」)の絵。

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