村山由佳 『風は西から』


              2021-08-25


(作品は、村山由佳著 『風は西から』    幻冬舎による。)
                  
          

 
初出 上毛新聞、日本海新聞、大阪日日新聞、函館新聞、神奈川新聞、茨城新聞、福島民報、十勝毎日新聞、デーリー東北、釧路新聞、沖縄タイムス、秋北新聞、中国新聞の十三紙に、2016年4月〜2018年2月の期間まで順次掲載されたものに、加筆修正。
 本書 2018年(平成30年)3月刊行。

 村山由佳
(本書より)

 1964年東京生まれ。立教大学文学部卒業。93年「天使の卵 エンジェルス・エッグ」で第6回小説すばる新人賞を受賞。2003年「星々の舟」で第129回直木賞、09年「ダブル・ファンタジー」で第22回柴田錬三郎賞、第16回島清恋愛文学賞、第4回中央公論文芸賞を受賞。「放蕩記」「花酔ひ」「天翔る」「天使の柩」「ありふれた愛じゃない」「La Vie en Rose ラヴィアンローズ」「嘘 Love Lies」など著書多数。

主な登場人物:

伊東千秋

大手食品メーカー「銀のさじ」勤務。入社して5年間ずっと営業の仕事。大学は健介と同じで文学部。生まれつき勝ち気な性格。
3年前母亡くなる。千秋が物心つく前に夫と別れ、女手ひとつの気丈な母。

「銀のさじ」関係者

・中村さと美 千秋と同期。苦しいときに助けとなる仲間。
・鷹田弘之
(ひろゆき)課長 怠け者に厳しいことで有名。

得意先のスーパー関係者

・串田店長
・田丸恵美子 若い頃営業をやっていて、観察眼の鋭さ、言葉の的確さに、スーパーマーケットにて自社商品並べの手伝いもしていた千秋は、彼女の助言に助けられる。

藤井健介 千秋の恋人。大学では経済学部。カリスマ社長に惚れ、大手外食チェーン居酒屋「山背」に就職。5年の本社勤めの後、忙しい店舗の駅前店現場に店長見習い後、店長に。
「山背」関係者

「山背」は国内有数の業績を誇る居酒屋チェーン。
・山岡誠一郎社長 押し出し、話す言葉にカリスマ性がある。
・波多野副社長
・斎木(さいき)営業本部長。
・沼田人材教育部長。

駅前店関係者

・大嶋店長 健介が店長見習いでの店長。その後健介が店長に。
・宮下麻紀 古参のバイト。鹿児島出身の大柄な女の子、21歳。
・鈴木由梨 学生アルバイト。彼氏のことで失望、辞める。
・田代晃司 新しく入った学生バイト。
・薄田店長 健介の後任。

藤井武雄
妻 比佐子

健介の両親。広島市内で創作料理を出す居酒屋「ふじ」を経営。
ゆくゆくは健介が後を継ぐことに。
佐久間孝彦(たかひこ)

労働紛争を多く手掛けてきた弁護士。
中村さと美の先輩の伝で千秋に紹介される。

喜多野雅彦(まさひこ) 健介と同期の「山背」の社員。健介が飛び降り自殺した後、「山背」を退職。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 大手居酒屋チェーンに就職し、繁盛店の店長となって張り切っていたはずの健介が突然、自ら命を絶った。恋人の千秋は悲しみにくれながらも、健介の両親と協力し、健介の死の真相を知るため、大企業相手にとことん闘いぬくことを誓う。

読後感:

 物語の出だしは、伊東千秋と藤井健介の若い二人の、久しぶりのデートで海辺をドライブ、二人の学生時代から社会人になっての生い立ち、人柄描写で、この後のブラック企業での酷い状況が待ち受けていることなどみじんも感じさせない展開だった。
 まず千秋の会社「銀のさじ」で千秋が鷹田課長からの無理な厳しい要求を何とか切り抜けたところで、本題の店長となった健介の駅前店舗でのトラブルが始まる。

 健介の様子が次第におかしくなっていく様が描かれる。
 <テンプク><ドック入り>と言う言葉で恐れられる、赤字を出した店長が週末本社に呼び出され、皆のいる前で理由説明、皆からの言葉の集団リンチで人間性を否定され、二度とそんな経験をしたくないと感じてしまう。繰り返すと左遷されたり、退職したりと。
 真っ直ぐな性格の健介はやがて飛び降り自殺をしてしまう。

 そういう状態に到るまでが後半近くまで展開。その後の両親、そして両親から婚約者と相手に紹介される千秋は一緒になって、世間に健介が死に至ることになった真実を説明させると共に、社長の謝罪を求めるべく活動する様子が展開する。
 物語の内容自体はブラック企業相手に、その実態を暴くとともに、戦う姿を描写するという、筋書き的には単純明快で、ミステリ的な煩雑さとか悩ましい点なく、読者には展開を理解するだけでよく、読みやすかった。


余談:

 最近でも話題に事欠かないブラック企業問題。
「過労死」と「過労自殺」の説明があったので載せておきたい。
「過労死」 仕事上の疲労やストレスが極限にまで達して死亡するケース。直接の死因はくも膜下出血や心筋梗塞など脳や心臓の疾患によることが多い。

「過労自殺」 あまりにも長時間の労働やサービス残業、あるいは仕事内容の急激な変化などによって、肉体的にも精神的にも疲れ切り、重度のストレスで精神疾患を発生したために自殺してしまうケースを言う。具体的には、うつ病であり、適応障害である。

 時に最近のニュースでトヨタの若い社員がパワハラで自殺したことで、社長が謝罪、和解したことが載っていた。これから社内でいかに実践されていくのか注目。
 その前では、深田恭子さんの「適応障害」報道もあったし。
 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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