物語の内容:
雪虫: 暁が沙恵と愛し合うようになり、沙恵の素性を知らされることから、父親と義母に暴力をふるい家を飛び出す。
子どもの神様: 美希の不倫相手(相原)との生活模様。
ひとりしずか: 沙恵の真実を知ってからの苦しみ。
青葉闇: 貢の彼女との生活、生き方を模索する姿。
雲の澪: 聡美の恋と親友との苦く貴重な体験。
名の木散る: 重之の戦争体験時代から年齢を重ねた人間的な面の姿。
読後感:
作品は複数の短編小説かと思いきや、登場人物や話の流れは一貫していて、それぞれ主人公が変化していってその主人公の立場から物語が展開していく手法で成り立っている。
久しぶりに読んだ後胸の中にズッシリと残る物が感じられた作品である。各々個人の出来事の幾つかは実際に体験したり、身近な出来事として起こりうるものであるし、その感情が同情できたり、自分ならどうだったであろうか、どうしただろうかと考えてしまう。
この中では年齢的なこともあるが、長男貢の人生を考える姿に印象深いものを感じる。 家族の者に特に不満があるわけではないのに、家に帰ることが疎ましく思えて一人になりたいと思う貢。 「生きる」ということの意義を考えて悩む点、この後は死ぬことだけが待っている自分にとって「生きている」ということを感じるのはどういう時かということをふと考えさせられてしまった。
義母(志津子)の死の葬儀の場面ではもう昔のことではあるが、親の葬儀で骨を拾って骨壺に入れた時のことが思い出され、表現されている場面がいかにもあり得る描写に胸を熱くしてしまった。
また、若い聡美の恋心や、親友の美人で頭もいい加奈子との、トラブルに見舞われた時の対処の仕方の違いに聡美が大きくショックを受けてしまう。 そんな時に祖父母の家庭の雰囲気、そして重之が言葉をかけてやる場面など実に心情描写が優れている。 また薄幸とも思える沙恵の姿も印象深い。
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