村山由佳著 『星々の船』




 

              2010-02-25


 (作品は、村山由佳著 『星々の船』    文藝春秋による。)

                
  

 初出
 雪虫     「別冊文藝春秋」第237号
 子どもの神様 「別冊文藝春秋」第238号
 ひとりしずか 「別冊文藝春秋」第239号
 青葉闇    「別冊文藝春秋」第240号
 雲の澪    「別冊文藝春秋」第241号
 名の木散る  「別冊文藝春秋」第242号
 本書 平成15年(2003年)3月刊行
 2003年第129回直木賞受賞作品。

 

 村山由佳:

 1964年東京都出身。立教大学文学部日本文学科卒。不動産会社勤務、塾講師などを経験したあと、作家デビュー。恋愛小説を書くことを得意としている。

 

主な登場人物:


水島家

父親 水島重之
(先妻 晴代)

一代で工務店を起こすが、保証人になった相手が不渡りをだし、借金まみれになる。 そして人が変わったように荒れ、気難しい頑固者。 後年になると孫の聡美や沙恵、美希の理解者でもあり・・・。
母親(後妻)志津子 家政婦で水島家に入り、その後後妻におさまる。沙恵という連れ子あり。 気のいい潤滑剤の役も。暁のせいで片足が不自由になるが・・・。

長兄 貢(みつぐ)
 (妻 頼子)
 (長男 政和)
 (娘 聡美(さとみ))

先妻の子。父親の重之とは相容れないところがあり、家庭内の不満はないが、若い女と付き合うことに・・・。 妻の頼子は小学校の教師を永年勤め、教頭の立場で、律儀で家庭の中も厳しくしつける。
聡美の親友加奈子、片思いの健介への思いやら、そして事件が聡美を追いつめたとき・・・。

次兄 暁(あきら)
 (妻 奈緒子)

先妻の子。長兄の貢とは20歳違う。 沙恵と愛し合う関係になり秘密にしていたが、沙恵の素性を聞かされ、家を飛び出し札幌へ。 義理の母の志津子の葬儀をきっかけに・・・。

姉  沙恵
 (婚約者 清太郎)

志津子の連れ子、実は重之との間の子。 暁と1つ違い。 暁との仲が問題を醸し出し・・・。
妹(末っ子) 美希

姉の沙恵と4つ違い。 重之と志津子の間に生まれる。
住宅メーカーに勤め、モデルハウスに勤務する。 明るく振る舞っているが、その実気遣いも・・・。

物語の内容:

 雪虫: 暁が沙恵と愛し合うようになり、沙恵の素性を知らされることから、父親と義母に暴力をふるい家を飛び出す。
子どもの神様: 美希の不倫相手(相原)との生活模様。
ひとりしずか: 沙恵の真実を知ってからの苦しみ。
青葉闇: 貢の彼女との生活、生き方を模索する姿。
雲の澪: 聡美の恋と親友との苦く貴重な体験。
名の木散る: 重之の戦争体験時代から年齢を重ねた人間的な面の姿。


読後感
 

 作品は複数の短編小説かと思いきや、登場人物や話の流れは一貫していて、それぞれ主人公が変化していってその主人公の立場から物語が展開していく手法で成り立っている。

 久しぶりに読んだ後胸の中にズッシリと残る物が感じられた作品である。各々個人の出来事の幾つかは実際に体験したり、身近な出来事として起こりうるものであるし、その感情が同情できたり、自分ならどうだったであろうか、どうしただろうかと考えてしまう。

 この中では年齢的なこともあるが、長男貢の人生を考える姿に印象深いものを感じる。 家族の者に特に不満があるわけではないのに、家に帰ることが疎ましく思えて一人になりたいと思う貢。 「生きる」ということの意義を考えて悩む点、この後は死ぬことだけが待っている自分にとって「生きている」ということを感じるのはどういう時かということをふと考えさせられてしまった。

 義母(志津子)の死の葬儀の場面ではもう昔のことではあるが、親の葬儀で骨を拾って骨壺に入れた時のことが思い出され、表現されている場面がいかにもあり得る描写に胸を熱くしてしまった。

 また、若い聡美の恋心や、親友の美人で頭もいい加奈子との、トラブルに見舞われた時の対処の仕方の違いに聡美が大きくショックを受けてしまう。 そんな時に祖父母の家庭の雰囲気、そして重之が言葉をかけてやる場面など実に心情描写が優れている。 また薄幸とも思える沙恵の姿も印象深い。


  

余談:

人の生き様を描く作品はやはり読んだ後にもずしりと残るものがある。 
 背景画は、センリョウ科のひとりしずか。 表題の一つ、沙恵の生き様を象徴しているよう。

                    

                          

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