物語の概要:
内山理名の初主演映画「卒業」のサイド・ストーリー。小説と映画の出会いによって、かつてないコラボレーションが実現。スクリーンでは語られなかった人々の胸のうちを、こまやかに綴る「もうひとつの物語」。
読後感:
映画の「卒業」のことは知らないが、この作品俺(徹也)が彼女(弥生)と水族館で待ち合わせて待っている間に、俺の生い立ちや環境、そして友達以上恋人未満の弥生とその母葉月とのつながりや幼い頃の仲良しの切なさが綴られる。
気持ちの揺らぎや心情の吐露が語られる点で、映画のようにせりふや仕草だけでの表現よりも機微が表現できる分、読者に訴えられる所は大きい。
葉月さんが弥生を連れて恋人から離れていったわけ、葉月さんの恋人を思う想いの一途さ、弥生が父親のことをどう思っているかが後半部分で語られるシーン、そういう葉月や弥生を端から見ての切なさがすうっと入ってきて、小説の良さがしみじみ。
印象に残る表現:
「その時ねぇ。私、初めてあのひとがわかった気がした。ああこのひとは、いろんなことに気づいてないんじゃない。何も言わないから鈍いみたいに見えるけど、」
母親の葉月が弥生に伝える言葉:
「ねえ、弥生。結果として失敗しちゃった私が言うのも、今ひとつ説得力に欠けるけどね。あんたもこの先、誰かを好きになるかもしれない。そういう時に、その恋がほんものかどうか、見分ける方法がひとつあるよ」
「―――方法?」
ささやくような声で弥生が訊くと、葉月さんはにっこり笑って言った。
「そう。『この男は、あたしが幸せにしてやるんだ』って―――そう思えるかどうかよ」
「お母さんは・・・お父さんのこと、そんな風に思ったんだ?」
「うん、思った」
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