向井万起男著 『君について行こう』
                
ー女房は宇宙をめざした
 

              
2007-06-25
(作品は、向井万起男著 『君について行こう』 講談社 による。)

                     

1995年(平成7年)10月刊行
1947年、東京生まれ。慶応義塾大医学部卒、医学博士。

概要:

 ご存知NASA宇宙飛行士向井千秋さん。その夫である向井万起男氏が書いた、内藤千秋との出会いから、宇宙飛行士の誕生、スペースシャトル打ち上げまでの顛末が克明に記されている。しかも実にユーモアたっぷりに実像が紹介されていて、これを読むと宇宙飛行士の大変さ、すばらしさ、アメリカ人のものの考え方の違いなど、興味が絶えない。

読後感:

 感心したのは、著者の向井千秋の夫である向井万起男氏の男っ氣と懐の深さ、ごく普通の男の気持ちを持ち合わせていること。それにもまして妻であり、宇宙飛行士でもある向井千秋(旧姓内藤千秋)さんの天真爛漫、こだわりのなさ、豪放磊落気質、情熱家、ごく普通の庶民感覚を持ち合わせている実に素晴らしい女性のありように、やっぱりなあと改めて見直し、好感を持ってしまった。
 また、書きっぷりも面白く、読んでいてこちらまで楽しくなってしまった。

 向井千秋の生活信条「凛々しく生きること」は、まるで男のものであるが、この信条を持つために、大きな影響を与えた二人の女性の存在。
・母親のナツ 限りなく千秋を可愛がり、それも他の3人の弟、妹も認めている。でも、東京の大学の医学部にはいるため、中2の時に単身上京させ、高校、大学へと親元を離れて過ごさせている。
・上京して、生徒たちからは厳しくて煙たがられる先生の典型、高比良信(たかひらしん)という人(茶道の師匠であり、懐石料理にも詳しい家庭科の先生。清々(すがすが)しく、優しい心根を持った素晴らしい老婦人)のもとに下宿させてもらい、7年間可愛がられた。

 このことにより、千秋の最大の特徴である、“明るいみなし児一人旅”の性格が形成されたという。まわりの人の悪い面には目をつぶり、良い面を見るようにしよう、裏切られたと思わないためにもと、幼い頃から自然に身についたこと。
 
 人と人とは所詮旅先で出会う間柄だから、み〜んな同じという人生観を持っている。 自分は一人で生きているんだから周囲の人は自分のことを心配していないんだろうと勝手に思いこんでいるところがある。と感じている。
 こんな所が、NASAでのいろいろな行動、物事に拘らないおおらかな性格が生かされているのであろうと理解できる。


 後半はシャトルが打ち上がる45日前から当日まで、どのような行事、訓練、直系家族へのサポートがなされるたのかが克明に記述されている。よく記録されたものだ。
 最後に、宇宙飛行士向井千秋が言った言葉が印象深い。向井千秋という女性の人となりを伺わせている。

「マキオちゃんに私の底力を見せてあげるから、よく見ていてね」
(万起男氏の受け止め方:私は女性として宇宙に行くのではなく、一人の職業人として宇宙に仕事をしに行くのだ。訓練を受けてきたのは、宇宙から地球を見ることだけのためではない。自分が宇宙で実験を完璧にこなし、無事地球に帰って、きちんと報告する責務を果たさなければならないことを、誰よりも女房が自覚していた。それだからこそ、女房は頑張ってきたのだ。)

  

余談:
 アメリカの直系家族の考え方は、日本でもそんな風になっていくのではないだろうか。 参考になった。
 
  背景画は、スペースシャトルの打ち上げ風景。(本書内のフォトより)