森沢明夫著
                       『津軽百年食堂』

                         


                      2013-09-25


(作品は森沢明夫著『津軽百年食堂』    小学館による。)

            

本書 2009年(平成21年)3月刊行。

森沢明夫:(本書より)

 1969年、千葉県生まれ。小説、エッセイ、ノンフィクション、絵本と幅広い分野で活躍しており、小説「津軽百年食堂」は2011年春に映画化された。「ラストサムライ 片目のチャンピオン武田幸三」で第17回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。著書に「海を抱いたビー玉」「津軽百年食堂」「青森ドロップキッカーズ」「ラブ&ピーナッツ」「夏美のホタル」など。

物語の背景、概要:

大森哲夫
妻 明子
母 フキ
長女 桃子
長男 陽一

三代目の「大森食堂」の主、蕎麦打ちは夫の役目。メニューの津軽蕎麦が評判で生きながらえている。
妻は出汁を引く役目。
姉貴は弘前市街で一人暮らしの32歳。バツイチ、子供なし。
陽一は東京で一人奮闘中。

大森陽一 東京に出て5年故郷には帰っていない。今は「東産」と契約しバルーンアートのピエロを生業にして3年。市の公民館でバルンアートの講師も。
七海 青森の林檎農家の一人っ娘。写真の師匠について修行中。バイトで陽一と知り合う。
藤川美月 大森食堂の向かいの薬局の薬剤師。姉貴とは姉妹のように。

宮沢政宗
息子 健

高校時代陽一と同じ陸上部の仲間。結婚そして離婚。

大森賢治 右足に指なし、「こぎん刺し」の刺繍をした麻布を巻き古びた大八車を引き弘前の繁華街「十文字」の露店で蕎麦を売る。
トヨ 青森から毎週月曜日十文字に陸奥湾で取れた魚介の乾物を行商。賢治は彼女から「鰯の焼き干し」を買う。「こぎん刺し」の刺繍は彼女がやる。

 物語の概要:図書館の紹介より

ふるさと「弘前」を離れ、孤独な都会の底に沈むように暮らしていた陽一と七海。ふたりは出逢い…。桜の花びら舞う津軽の地で、100年の刻を超え、受け継がれていく“心”が咲かせた、美しい奇跡と感動の物語。

読後感:

 素朴でお互いの気持ちをおもんばかり、そして心を通い合わせる優しさ一杯の物語。その中には生きるための最大の試練、生活の糧をどうするか、それは自分にとって嫌々なのか、自分の気持ちに正直にかつ生き甲斐のあるものなのかを探し求めて行く若者たち。
 そして津軽という東北の風情が物語の中に素朴さと美しさとそして暖かさを醸し出している。
 父親から津軽の「大森食堂」を「継ぎてえなら、どっかの店で何年か修行してこい」と言われ、ひとり東京に出てきたはいいが、中華料理屋は半年で辞め、姉貴の知り合いの紹介で務めても長続きせず。父親とも会話は以降なし。

 姉貴の桃子がいい、3つ年下の陽一をうまくあしらい、思うように導いていく手腕、それに美月との姉妹のような関係、姉貴と美月が七海をこれまた忽ち姉妹のように包み込んで導いていく。なのにバツイチで故郷に戻って一人暮らしというのもどうしたものか?

 何故か最初分からなかった大森賢治とトヨの存在。この二人の関係もいじらしいというか、ほんわかとなる関係なのだが、その立ち位置が分からない。物語が平行して(?)進む内に津軽百年食堂の意味が分かってきて3代続いた食堂、今は3代目で今年いよいよ100年を迎える、そしてその4代目に陽一がなるのか?
 そうなると初代の主がそうかと判った。

 今の世の中30年変わらないことでも大変なのに、100年続くというのは並大抵のことではないし、それを続けたいと思う親心もあるに違いない。そんな色んな思いがこもった心温まる物語。
 でも若い人の何かを糧に一生懸命に打ち込む姿を応援したくなるのもまた心が動く。
 果たしてどういう結末に・・・。 

 
余談:

 森沢明夫の作品をこれまで「あなたへ」「虹の岬の喫茶店」「津軽百年食堂」と読んできたが、素朴でほのぼのとした内容の作品に当たり、そんな感じの作家さんかと想ったり。
 本作品のあとがきに新人編集者だった頃、当時の編集長から言われた言葉。
「いいか森沢。原稿を書くときはな、100取材して1を書け。99は捨てなきゃダメだ」と。

 そのことで思い出した。宮本輝が芥川賞を受賞した作品「螢川」で何回も何回も編集者から文章を削ぐように言われて苦しんだようなことを読んだことがある。私事で些細なことなれど、読んだ作品全てを原稿にするのもやはり自分に合わない作品もあるので、半分位に出来ればと思ったり。

 背景画は、2011年に映画化された宣伝画を利用して。