森沢明夫著 『エミリの小さな包丁』



              2019-09-25

(作品は、森沢明夫著 『エミリの小さな包丁』    角川書店による。)
                  
          

  本書 2016年(平成28年)4月刊行。書き下ろし作品。

 森沢明夫:
(本書より) 
 
 1969年、千葉県生まれ。早稲田大学卒業。2012年「あなたへ」が高倉健主演映画の小説版としてヒット。日韓でベストセラーとなった「虹の岬の喫茶店」は、吉永小百合主演映画「ふしぎな岬の物語」として14年に公開。青森三部作として人気を博している「津軽百年食道」「ライアの祈り」もそれぞれ映画化され、「癒し屋キリコの約束」も連続ドラマになるなど話題作を続出させている。16年は有村架純主演で「夏美のホタル」の映画化が控えている。他の著書に「ミーコの宝箱」「ヒカルの卵」「きらきら眼鏡」などがある。  

主な登場人物:

エミリ<わたし>
25歳

10歳の時両親は離婚。チェーン店のレストランに勤めていたが、上司との不倫騒ぎで噂になり、鬱となり、15年疎遠の母方の祖父の元に逃げてきた。
・父親 穏やかな大学の講師、家を出て北海道で新しく家庭を築いている。
・母親(麻衣子)男を取っ替え取っ替え。
・兄(拓郎) エミリより3つ年上、母に愛想を尽かしアメリカに留学、そのまま向こうに居着く。

大三(だいぞう)おじいちゃん

わたしの母(麻衣子)の父親。龍浦漁港の近くで一人暮らし。
無口でぶっきらぼうで、自分のペースで生きている。風鈴を作っている。
・コロ 老犬。

野地鉄平 釣り師。実家は酒蔵、エッセイやら雑文書きの作家。
軽井心平 漁師、30歳。ぼさぼさ短髪。本当は苦労人。
直斗(なおと)

サーファー。ちょっと子供っぽくて自由気まま。
カフェ「シーガル」のオーナー。
大三さんの風鈴をネットで売ってくれている。実家は農家。

徳山京香さん

楚々としてきれいな人。直斗と幼馴染み、直斗より3つ年上。
猟師の網元、育ちの良さ、気遣いの細やかさを持ち合わせる。

フミさん 昔の母を知る人。野菜作りの名人。怖そうなギョロ目と放逸な感じの口調。変わり者で通っている。
沙耶(さや) エミリのレストランで働いていた同僚。毒の持ち主。何でも明け透けに感じたことを口にする。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 信じていた恋人に騙され、職業もお金も、居場所さえも失った25歳のエミリ。藁にもすがる思いで10年以上連絡を取っていなかった祖父の家へ転がり込む。人間の限りない温かさと心の再生を描いた、癒やしの物語。       

読後感:

 海辺の田舎町の大三おじいちゃんの家に逃げてきたエミリ。最初の頃の展開では、エミリって中学生か、高校生とかの感じのつもりで読んでいたが、逃げてきたその背景が次第に明らかにされていくことで、もっと大人の女性であると分かった。

 エミリを変化させていったのは、無口でしゃいな大三おじいちゃんの漁師料理づくりと、釣、風鈴作りの様子、コロとのふれあいを通して次第に二人の距離感が縮まっていったこと。さらには、田舎の人々、特に鉄平、心平の飾らないお人好し振り、サーファーに夢中の直斗の姿、そして育ちも気遣いも全てにおいて負けてしまうが、飾らないで接してくれる優しさから。

 おじいちゃんから訊く、嫌いに属する母親の姿に、何か間違った印象を持っていたのかと。そして自らの悩みを自ら語るようになり、鉄平の言葉に、おじいちゃんの言葉に気持ちを変化させていき、怖そうだったフミさんに「目つきが良くなった」と評されるまでに。
 誕生日プレゼント(風鈴、包丁、ウクレレ)の隠れた逸話がじ〜んと浸みてくる。
 ラスト、母親の麻衣子がおじいちゃん(麻衣子の父)にかけてきた電話でのやり取りに、やはり母親としての思いがあふれ出ていた。 

余談:

  例年より1ヶ月も遅い梅雨明けから真夏の陽射しにうだるような夏日の中、この作品を読んでいるが、内容も八月から九月にかけての話ではあるが、ほろっとする内容は、秋口の物思う季節に読みたかったなあと思ったりして。
 ラストの方ではティッシュが欠かせず、読後のさわやかさに暑さも心地よいほど。 
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る