森浩美著 『終の日までの』








              2019-04-25

(作品は、森浩美著 『終の日までの』     双葉社による。)

          

 初出  月の庭             「小説推理」2015年1月号
    つまらない人         「小説推理」2015年2月号
    人生の部品          「小説推理」2015年3月号
    メンテナンス         「小説推理」2015年4月号
    いちにさんぽ         「小説推理」2015年5月号
    おばあちゃんのSuica      「小説推理」2015年6月号
    準備万端           「小説推理」2015年7月号
    三塁コーチャーは腕をまわせ  「小説推理」2015年8月号

  本書 2015年(平成27年)12月刊行。

 森浩美
(本書より)
 
 放送作家を経て、1983年より作詞家として活躍。作品は700曲を超え、数多くのヒットナンバーを手掛ける。初の短編集「家族の言い訳」から始まる「家族小説」シリーズは累計45万部を超すベストセラーに。その他の著書に「夏を拾いに」「父親が息子に伝える17の大切なこと」「完全推定恋愛」「ほのかなひかり」「こころのつづき」「ひとごと」「家族連写」などがある。   

主な登場人物:

<月の庭> 父親の49日法要の後4人兄弟姉妹が集まっての話し合いは相続関係の話から家族の集まる場所に関してと。

[4人の兄弟姉妹]
(長女)祥子(しょうこ)
(長男)宣昭(のぶあき)
私(次女)碧
(みどり)
弟(末っ子)裕一郎
母 70歳で他界。
父 75歳ひとり逝く。

・姉(長女)祥子 結婚して夫と二人の息子。大宮住まい。
・宣昭 石油加工製品の製造販売企業勤務。2年前新築マンションに。
・<私> 碧 物流会社勤務、結婚して一人暮らしていた父親の近くに住む。
・裕一郎 独身、40歳。

<つまらない人> ふたりだけの大晦日から正月。会話の中で妻から「あなたはつまらない人」と。人生の終わりに言えることとは・・・。


妻 江美子
二人の娘 理香と沙織

薬品の生産販売を扱う総務部次長。あと2年で定年。
・妻 連れ添って30数年。
・二人の娘達は結婚していて今年はお正月にも来ない。

会社の人

・嶋崎 私の部下、課長職。
・斉藤 私と同期入社、10年前執行役員に。一人っ子で妻とは離婚して独り身。一人息子は妻の元に。弱音を吐くことは・・。

<人生の部品> 足首を骨折し、一人暮らしの父を心配して訪ねて、父子の交わす言葉は・・・。

私 研二
妻 千秋、
  娘 佳織(小2)
妹 綾香
父 

建設コンサルティング会社経営戦略室のチーム主任、40歳。
・妹 教科書関連の出版社勤務、3つ年下。4年前結婚して今は北陸地方在。
・父 私が中2、妹小5の時離婚。定年退職後は週3日技術アドバイザーとして子会社に。素直でなく理屈っぽいひねくれ者、一軒家で一人暮らしの67歳。「足首骨折」し・・。

<メンテナンス> 手堅く無理をせず適度に仕事をこなす定年前の私、イケイケドンドンの石田営業本部長の放つ言葉に死を考えて・・・。

私 増田昭夫
妻 百合子、娘 澄香

大学の商学部を卒業し工作機械メーカーに。簿記の資格を持つも経理でなく営業部門に配属され、手堅く適度にの、53歳。
・妻に対しては朝っぱらから無用な摩擦は避けたいなど。
・娘は大学4年生、就職活動も本格化する中、やれ飲み会だ何だと家を空けている。

石田 大阪支社で辣腕を振るい、取締役営業本部長としてやってきた。
<いちにさんぽ> 妻が入院中の見舞いに行くも、妻はいつになく嫌みやら、とげとげした物言いで「もう帰って」と。次の日訪れたときに交わす話は・・・。

僕 山本雄平
妻 瑞希
(みずき)
ひとり娘 結衣
義父と義母

TVコマーシャルに使われる音楽を作っているフリーランス。瑞希の両親と同居中。
・妻の瑞希は悪性の乳がんで入院中。
・一人娘の幼稚園児の5歳。ママとの「いちにさんぽ」の秘密のおまじないの内容は・・・。

おばあちゃんのSuica> 可愛がってくれていた祖母が亡くなり、祖母の部屋にあったSuicaの履歴を調べたら・・・。

オレ 土井健太(長男)
妹 美幸

父親とそりが合わず、大学3年の時家業の精肉店を飛び出してのおばあちゃん子。就職するも退社、今はバイト生活。
・妹は勝ち気で負けず嫌い。結婚して山形に。長男に「店のこと頼んだよ」

愛人 紗恵子 ファション雑誌のモデル憧れ茨城から上京。オーディションにパスするも2年もすると夢はあっけなくしぼんだ。オレと同い年の37歳。付き合って2年、オレは彼女の部屋に転がり込んで3ヶ月。
<準備万端> 親友の友達が亡くなり、終活を考えた母の行動は・・・。

私 田中望美(のぞみ)

マーチャンダイザーのチーフ。40代に王手の女性。
・母はせっかちでおっちょこちょい。短大時代からの親友の美代ちゃんが亡くなって、遺影用の写真を撮りたいと私を誘う。
・父親は行政書士。

<三塁コーチャーは腕をまわせ> 面接で私を採用してくれた後もヨキ指導者の徳山相談役ががんで入院中。
見舞った私に野球にかこつけたアドバイスの内容は・・・。

私 石原
妻 三津子
娘と息子

営業企画部担当の取締役本部長。徳山の直系の部下。理屈屋。小学校から高校まで野球をやっていて、社内では徳山が草野球チームの監督。
・大学3年の娘と高校3年の息子。

徳山

建設資材全般を扱う企業の相談役。徳山の仕事ぶりは嗅覚が優れ、交渉の場で流れを読むのが絶妙。末期の膵臓がんを患い、そう長くはない。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 父の納骨を済ませ子どもたちは実家に集まり、ぽつりぽつりと両親の想い出話をする…。大切な人の死や老いに直面した時、生きている今、何をすべきか。それぞれの“人生の閉じ方”を描く短編集。            

読後感:

 いずれの話も家族にまつわり人の最後が話題になっている。心動かされる話からいくつかについてメモした所から。

<月の庭> 父親の葬儀の後兄弟姉妹が一堂に集まって交わす話題は思い出話の他相続のこと。30数年を暮らしてきた家の扱いは悩みの種に。両親の思いが「月の権利書」として見つかって皆が集まれる場所の意味に思いをはせる。

<人生の部品> 「足首骨折」の父を忙しい中訪ねていった研二。父子とのやりとりが身に染みる。ひねくれ者の父親に対し、一方でユーモア感覚を持ち合わせている父親。
 研二に投げかける言葉に味わいがある。
「なくしてみて、やっとその存在の大きさに気づく」とはしたり。
 別れ際にまじわす会話にほっこりとした気持ちに。

<メンテナンス> 「人間50過ぎたら心身共にメンテナンスが必要」との医師の言葉が示すとおり、飲み屋での会社の同僚達の会話の中身は親の介護、墓の話、そして健康にまつわる話と。健康診断で出た不安を払拭出来たのもつかの間、時間をつぶしてやがて雑居ビルの屋上に向かった増田課長。ここにも人生のはかなさが感じられ、ラスト石田営業本部長の人間としてのレベルを笑い飛ばせる様になってほっ。

<準備万端> 親友だった美代ちゃんの葬儀の時の遺影を見て一念発起の母親。終活に動く姿が己の場合はどうかと賛同したり、悲しくもあり複雑な気持ちにさせられる。でもこの母親の潔さ、父親のなんとも言えぬおっとりそうな姿がいい夫婦のようで。

 この他にも妻に言われた<つまらない人人>の話もぐさっとくる内容だ。
  


余談:

 あとがきに「家族小説」シリーズ八作目となると、ひとつの物語を書き上げるのに苦労するようになると。で編集担当者からのテーマは「人生の閉じ方」というもの。
 色々と試行錯誤を繰り返した後、テーマのテイストを残しつつ、家族の話を軸にまとめようと。そして表題では「終の日までの」と死を迎えた物語というより、生きている今にどんなことをなすべきかと、前向きなものになった気がするとあった。
 作家も色々と悩むものだなあ。
       

背景画は、花をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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