森浩美 『家族の言い訳』



              2020-07-25


(作品は、森浩美著 『家族の言い訳』      双葉文庫による。)
                  
          

 初出 2006年3月双葉社より刊行。
 本書 2008年(平成20年)12月刊行。

 森浩美:
(本書による)  

 放送作家を経て、1983年より作詞家。現在までの作品総数は700曲を超え、荻野目洋子「Dance Beatは夜明けまで」、酒井法子「夢冒険」森川由加里「SHOW ME」、田原俊彦「抱きしめてTONIGHT」、SMAP「青いイナズマ」「SHAKE」「ダイナマイト」、Kinki Kids「愛されるより愛したい」、ブラックビスケッツ「スタミナ」「タイミング」等、数々のヒット作を手掛ける。著書に掌編小説集「推定恋愛」「推定恋愛two-years」などがある。近著は家族小説短編集「こちらの事情」(弊社刊)

主な登場人物:

[ホタルの熱] 蒸発した夫、息子を連れて遠くに行って・・と列車に乗るが、息子が熱を出し途中下車。温泉町の民宿の女将との会話の中で・・・。

安藤和香子
息子 駿

夫はビルマンションの電気設備工事の会社勤務。結婚を機に独立「有限会社安藤電気」を起こす。5年経ち生活狂わせる出来事。離婚届残し夫は蒸発。
・駿 6才。夫が居なくなって頻繁に身体の不調を訴えるように。

女将さん 海辺の温泉町で民宿「ななみ荘」の女将。夫を刺したバカな娘でも見捨てることも出来ない、それが親子の絆と。
[乾いた声でも] 夫がくも膜下出血で突然亡くなる。夫の先輩との会話の中で夫婦の日常のあり方が・・・。

桐原
妻 由季子
息子ふたり

残業していた深夜の会社でくも膜下出血で死亡。
・由季子 スチュワーデス時代夫と出会い結婚。専業主婦に。
私たちお互い心の鍵をひとつずつ締めてしまったような感じ。

武井 大学時代広告研究会で一緒の2つ年上の先輩。
[星空への寄り道] 後始末を終えタクシーで帰途タクシー運転手とのやり取りで再起を目指せるか・・・。
島本 <私>

大手コンピューターメーカー勤務。辞めて佐竹の提案に乗る。
順調だったのもつかの間、転落は早く会社をたたむことに。

佐竹 学生時代の友人。ウェブ製作会社を起業。私を誘う。
タクシー運転手

20年以上前、高2の娘を自殺でなくし、妻も3年前病死。
余生という寄り道を楽しむように生きたいと。

[カレーの匂い] カレーの匂いは小さなしあわせの匂い?
檜山舞子 <私> 女性誌の副編集長。妊娠するも結婚もシングルマザーの道も選ばず。
川浦智代(ともよ) 舞子にとって唯一愚痴をこぼせる友人。

松本加奈子
息子 敦史
(あつし)

ちの会社で契約ライターとして仕事の私より4つ年下。
あまり会いたくない相手。
・敦史 4才。

[柿の代わり] 12才年下の教え子と結婚。しかし離婚を切り出した妻になんとすれば・・・。

吉村 <僕>
妻 文香     
(旧姓 津久井)

大学卒業後10年都立高の教師、昨春別の私立女子校の先生に。
・文香 立川の都立高に勤務していたときの教え子。年の差12才。結婚して1年半、今朝離婚を切り出す。

田中順子 都立高で科学を教える同僚。以前付き合っていた相手。
長澤真美 女子校のうちのクラスの生徒。僕、万引きで警察から呼び出される。
[おかあちゃんの口紅] 妻の靖子の家庭に比べ、貧乏性の母親にいらだつ日々だが、入院した母親を妻と見舞いに行ったとき、母と靖子のやり取りに・・・。

宮島貴志(たかし)
<私>
妻 靖子
(やすこ)

妻の靖子の、父親の「小原会計事務所」の共同経営者。
・靖子 音大のピアノ科卒、自宅で教室。ひとり娘。

宮島伊津子 貴志の母親。貧乏性で私の気持ちを逆撫でするような言動に腹が立ち、私は敬遠しがちの日々。
[イブのクレヨン] 妻の里香子が、僕の誕生日とイブのクリスマスプレゼントに用意していた物は・・・。

沢口正洋(まさひろ)
<僕>
妻 里香子
娘 エリカ

去年の暮れ、池袋のデパートに出店のメンズブランドショップ店長を辞め、自宅でイラストの仕事。
・里香子 以前外資系のソフトウェア会社勤務。不倫で妊娠、エリカ1才に満たないときに僕と出会う。
・エリカ 里香子の連れ子。保育園児、5才。

沢口冨美子 僕の母親。2歳の時父親は飲酒運転で事故死。その後は祖父母に家に。
僕は母親に捨てられたと思っている。
[粉雪のキャッチボール] 北軽井沢でホテルの支配人をしている父親から、65才を迎え退職するに当たり息子に頼みがあると・・・。
津本 <私> 業界第二位の製薬会社に勤務。第三位の会社との合併話が進行中でその合併推進委員会のメンバーで忙しい。両親は別居状態。
中村青年 父が支配人のホテルの若いスタッフ。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 夫が蒸発した妻、妻に別れを切り出された夫、母に捨てられた息子、死期が迫る母…。家族に悩み、家族に喜ぶ。数々のヒット曲を生み出した名作詞家が紡ぐ、ハートに響く初短編集。

読後感:

 八篇の短編であるが、テーマはいずれも家族にまつわる物悲しくも、切なく誰でもいずれかの経験をしていたり、する可能性をにじませるお話である。
 展開がまたうまくてついつい読み進んでしまい、切なさについティッシュに手を伸ばしたり、時に勇気をもらったりと。

 最初の[ホタルの熱]は先の希望を見いだせなくて息子の駿を連れて列車に乗ったが、駿が熱を出していて思わず下車、やはり母親は何とかしようと温泉町の中で民宿を見つけ飛び込む。
 そこの女将の家庭の話を聞いたりする内に・・・。駿が取り持つ生きる気力が呼び起こされる様子に力が湧いてくる。

[乾いた声]の、年を重ねての夫婦のすれ違いが次第に大きくなってくる様が身につまされる。武井を送る車の中でのやり取りが突き刺さる。
「所詮夫婦といえども他人で相容れない地図の上を歩いているものなのでしょうかね?戦いは僕がしますから
だからその代わりにせめて味方でいて欲しいんですよ。それも絶対的な味方です」「由季子さん、桐原も味方が欲しかったんじゃないですかね」

[おかあちゃんの口紅]:息子は母親のことを心配しているが、忙しさに実家に帰ることも連絡することもない。そんな中、入院している母親を妻の靖子と見舞いに行った場面。
 母親と嫁の靖子さんとのやり取りは、嫁姑のこんな関係が築かれている家庭は絶対に強い。
 こんな靖子さんがいたら、我が家もいいだろうなあとうらやむ限り。
 母親の子供に対する愛情もこれほどまでか。

[粉雪のキャッチボール]:この家庭も父親と母親、夫と妻の関係はやはり冷ややか。そんな中北軽井沢でホテルの支配人をしている父親が65歳の退職を控え、息子に話があると呼び寄せる。
“外面ばかり良くて、家族にはにこりともしない”の母親の口癖の父親は、ホテルのスタッフの中村青年は「仕事には厳しいが、普段は優しいです。支配人が目標」と言われる父親と私のやりとりは、家族に対して媚びない父親の姿が自分と重なって胸に突き刺さる。


余談:

  今まで読んだ森浩美作品は「家族ずっと」「家族往来」「終の日まで」の3作。
 本作品「家族の言い訳」は初の短編小説集ということ。その後「こちらの事情」「小さな理由」「家族の分け前」「家族ずっと」「家族往来」と続く。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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