森浩美著 『家族ずっと』



              2019-08-25

(作品は、森浩美著 『家族ずっと』    双葉社による。)
                  
          

 初出 「小説推理」2011年6月号〜2012年1月号
  本書 2012年(平成24年)4月刊行。

 森浩美:
(本書より) 
 
 放送作家を経て、1983年より作詞家。現在までの作品総数は700曲を超え、田原俊彦「抱きしめてTONIGHT」、SMAP「オリジナルスマイル」「青いイナズマ」「SHAKE」、Kinki Kids「愛されるより愛したい」、ブラックビスケッツ「スタミナ」など数多くのヒットナンバーを手がける。06年、初の短編小説集「家族の言い訳」を上梓(じょうし)。つづく「こちらの事情」「小さな理由」「家族の分け前」の、他の家族小説短編集と合わせ30万部を超すベストセラーシリーズとなる。2009年に刊行された初長編「夏を拾いに」は翌年の私立中学入試で最も多く国語問題に採用された小説として話題に。他の著書に「ほのかなひかり」「父親が息子に伝える17の大切なこと」「完全推定恋愛」「こころのつづき」などがある。  

主な登場人物:

<父ちゃんとホットドッグ> 頑固オヤジの父親をようやく見舞いに訪れた私に話すことは、40年以上も前の城山の頂上でのホットドッグにまつわる話。

私 小倉 圭
妻 律子
子供 智久
(ともひさ)
   茉奈
(まな)

大学のテニスサークルで知り合い以来30年の付き合いの山本と“YOハウスデザイン”を共同で設計事務所を営む。
・智久は高3、茉奈は中3。

弟 賢二 長男に代わり故郷に戻り両親と同居。オヤジが肝硬変で入院、兄の私に見舞いに顔を出すよう促され。
<ピンクのカーネーション> 娘の早紀は先妻の連れ子。早紀の扱いに悩む由貴は授業参観日を知らされず、嫌われていると。当日の授業は母の日に関連し「お母さんの絵を描くこと」・・・。

私 武内由貴
 (旧姓 平野)
夫 光也
先妻 夏美(没)
娘 早紀
(さき)

由貴と光也はふたりとも機能性食品を開発する研究所で働く同僚。今年4月に結婚。
・光也は3年前先妻の夏美がスキルス性胃がんで亡くなる。
・早紀は先妻の連れ子。

<七夕生まれ> 七夕生まれの私。でも明日の七夕の日について「何の日?」と家族に問うても返ってくる答えは・・・。

私 森下

娘 真帆
息子 秋人
(あきと)

夫と私 繊維メーカーで同期入社。私(短大卒)は総務部、夫は営業部。異なった部署の親睦会で知り合う。
交際半年後、夫は関西支社へ転勤。遠距離恋愛の後結婚。
・真帆 再来年大学受験。
・秋人 再来年高校受験。

テニスのママ友

娘たちが小学校の友達だったことで知り合い付き合う。
・筒井さん 買い物好き
・工藤さん 韓流メロドラマ好き
・佐々木さん 旅行好き、アルコール好き

<だめもと> 家族で15年ほど前に行った湯布院温泉旅行を計画するも妻が急遽行けなくなって三人で出かけて・・・。

私 村瀬
妻 由紀恵
娘 綾と佳奈

会社はビルや工場などの大規模空調設備に関するトップブランド。国内での事業戦略を統括する空調事業本部の次長職。
専務よりタイ出向(3年)の話。
・妻 長年の友人でカラーリスト養成スクールを主宰する洋子さんのスクールで働く。
・綾 妻にそっくりの顔に、佳奈より3つ年上。
・佳奈 明け透けな性格、中2。

<埋めあわせ> 人生のレールは父が敷いたものとの思い。山梨の病院でふと巡り会った徳田さんの話は・・・。
私 矢島 荻窪にある病院勤務。先輩から頼まれ週二日山梨市の病院で診療することに。実家は世田谷で3代続く医者の家系。
徳田さん 郵便局を辞めて40過ぎからこちら(山梨市)の病院の世話に。ここ何年かは考えることがあって外回りの掃除をしている。息子さんは中学生の時亡くなった。
<ぶかっこうなおにぎり> 長野にいる父が出張で東京に出てきたのを機に、食事して娘のマンションに泊まりたいと。その時の会話は・・・。
私 沢村亜季 コンクリートに特化した建設資材を扱うメーカーでコンクリートパイル(杭)の生産を一括管理する部署に12年。中古マンションを購入、一人住まい。忙しくしている。

長野の実家
父親
母親
弟 久司
(きゅうじ)

・父は市の消防局勤務。
・母は陶芸教室通い。
・弟の久司 名古屋の大学出て自動車メーカーに就職。同僚と結婚して娘一人。家も建てた。

<サンタ失格> 息子に「サンタがいる」と・・。

私 
妻 美紀
息子 修平

総合家電メーカーの携帯端末事業部のグループチーフ。
決算で大幅赤字、携帯端末事業撤退決まり、会社を作ろうかと妻に話したらきつく反対され、徐々に夫婦仲険悪になり、少し距離を置くことに。
・美紀 アパレルメーカー勤務。
・修平 8歳、

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 腹が立っても、気に入らなくても、意地を張っても、許しがたくても、この世界での最強の、愛と絆は、途切れない…。家族の深さと強さを“難局”の上で再確認する、森浩美の家族小説短編集、待望の最新作。            

読後感:

 いずれの話も家族にまつわるそれぞれ様々な事情が描かれているが、なんとなく身に染みたのが
<裏窓の食卓> ヒッチコックの映画「裏窓」を思い起こす光景が描写されていたが、妻をがんで亡くし、定年まで2年を残し、希望して三鷹の営業所の所長としてひとり赴任してきて、マンション一人暮らしの食卓で妻の写真と会話を交わしながらの食卓。

 窓を開けたら隣のマンションの部屋から子供たちと夫婦の食卓での何気ない会話が聞こえてくるシーン。自身はそんな経験はないけれど、妻が亡くなり、一人となったときのことを思うと切なくなってきて、ほんと”なんでもないように交わされる言葉こそが、実はいちばん大切だということに人は気づかないものなのだ。だが、気づく必要はない。それに気づくときは孤独と向き合うことにもなるからだ”が胸に浸みた。

 また、<だめもと>の、妻が急遽行けなくなって、娘二人と私が15年前下の佳奈が妻のお腹の中にいたとき行った湯布院温泉に行くことになる。その道中や宿での娘の成長ぶり、父親との微妙な関係が描写されているシーン、シーンがなんとも言えず微笑ましいやら、父親の寂しさが伝わってきてほろっとさせられる。

 その他の章も、それぞれの家族の状況で身に覚えのあるところが支持されることになるのだろう。 

余談:

 本作品は、先に読んだ家族短編小説シリーズの6作目「家族往来」の前の作品の5作目にあたる。
 あとがきにどの物語の最後にも、たとえどんなに小さくても”救いの光””希望の光”を残すようにしていますと。僕の描く”小さな光”とは解決させる”光”ではないのです。それは「一緒に考えてみましょう」ということなのですと。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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