森浩美著 『家族往来』








              2019-03-25

(作品は、森浩美著 『家族往来』     双葉社による。)

          

  初出 「小説推理」2012年2月号〜2012年9月号
  本書 2013年(平成25年)1月刊行。

 森浩美
(本書より)
 
 放送作家を経て、1983年より作詞家。現在までの作品総数は700曲を超え、田原俊彦「抱きしめてTONIGHT」、SMAP「オリジナルスマイル」「青いイナズマ」「SHAKE」、Kinki Kids「愛されるより愛したい」など数多くのヒットナンバーを手がける。06年、初の短編小説集「家族の言い訳」を上梓(じょうし)。つづく「こちらの事情」「小さな理由」「家族の分け前」「家族ずっと」の、他の家族小説短編集と合わせ38万部を超すベストセラーシリーズとなる。09年に刊行された初長編「夏を拾いに」は翌年の私立中学入試で最も多く国語問題に採用された小説として話題に。他の著書に「ほのかなひかり」「父親が息子に伝える17の大切なこと」「完全推定恋愛」「こころのつづき」などがある。     

主な登場人物:

<お福わけ> 花屋が周囲の影響を受け改装しようと妻の実家に借金の連帯保証人を依頼しに向かったが・・・。


妻 喜美子

両親の生花店を引き継ぐ。駅前に今風の競争相手が出来、次第に先細りに。改装するための融資を頼むも連帯保証人を求められる。
・和香ちゃん 働き者のバイトの母子家庭の女性、36歳。幼稚園の息子を持つ。

正克(まさかつ)
妻 智代
(ともよ)

妻喜美子の弟。家業の農業を継ぎ、キャベツを主に営む。
<空箱の中身> 妻の形見分けを探していてチョコの空箱に入っていたのはお母さんの想い出が詰まったもの。私一人となることから、苦楽をともにした家を売って・・・。

私 斉藤
妻 順子(3年前没)
娘 美穂
息子 健吾

中堅どころの広告代理店第一営業局の局長。今年の秋に55歳の定年。社長からは役員として残ること打診されている。
・娘 弁護士と結婚予定。
・息子 徳島にあるIT企業に就職勤務。

<雛の手> 母親に捨てられた私。血の繋がらない娘(エリカ)に新しく赤ん坊が誕生することで、母と同じようにしないかと・・・。

私 沢口正洋(まさひろ)
母 富美子

イラストレーター。家族にお薦めの旅行スポットやイベントをイラストと文章で使用回する連載ページを持つ。
・母 私が幼い頃父親は交通事故死。住み込みで働いていたが店の常連客と再婚。私は伯父の家に。

理香子
娘 エリカ

シングルマザーでエリカという娘を持つ。
私が車内で二人の様子をスケッチしたことがきっかけで結婚。

<桜は散っても謝らない> バザーの実行委員会での打上げ会。妻の地元に引っ越して、妻は地元に馴染まないとと私も引っ張り出され・・。


妻 夕紀子
(ゆきこ)
娘 美優
(みゆ)

一部上場企業のイベント会社勤務、23年。チーフプロデューサー。
・妻はチャリティバザーの実行委員会を主催。
・娘 来年中学生。

<父と名刺と私> 高校時代の同級生の誕生日会。

私 松本玲子

独身。ひるむことなく提案の企画が認められ高級和紙使用のショップを起業。代表取締役社長の肩書きの名刺をゲットしたが・・・。
・父 「母さんみたいにしっかり家庭を守って子育てすることが女の勤め」と反対して・・・。

高校時代の同級生。
40代突入直前。

・舞子 電撃入籍、半年で幕の姐御肌、女性誌の編集長。
   会社の女の子達からは鬼扱い。
・柚子 3年前夫を亡くし、美容に特化の派遣会社で秘書。

<心のくしゃみ> 二人暮らしの私。ママは会社でのストレスから「どんなことでも話せる母子でいようね」が・・・。

私 麻季
ママ 美咲
足利のおじいちゃん、おばあちゃん

小学4年生。幼稚園の時ママとパパは離婚。
・ママ 新宿の会社勤め。チーフに昇進、この所バッテリー切れ。

<コロッケ泣いた> 昔母が作ってくれたコロッケにまつわる悲しい思い出がよみがえって・・・。

私 千尋(ちひろ)
弟 晃司
(こうじ)
母と祖母(没)

夫は九州に出張、娘は大学のサークル中で不在。
突然弟が来ることに、そしてコロッケを食べたいと。
・弟 高校を中退して住宅の内装工事の会社に勤務。
・祖母は母に対し昔から憎まれ口が絶えなかった。

<夏になり>

高校時代の親友と会社の帰り飲み屋での話題。
高校時代二人で始めたギター倶楽部にまつわる夏の合宿での、夢中になっていた女の子にまつわる出来事・・・。

私 真下
堀正輝

高校時代仲の良かった同級生。現在50過ぎ。
・私 商社で繊維を扱う部署で部長職。
・堀 鉄鋼関連の会社の部長職。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 死に別れた母、妻。生きているのに会えなかった母。そばにいるけど折り合いが悪い父…。悩みも悲しみも喜びも、家族のなかにある。押しも押されもせぬ家族小説の定番。読むと元気がでる短編集に待望の最新刊。           

読後感:

 いずれの話も家族にまつわるそれぞれ様々な事情が横たわっている。ほんとに喜びも悲しみも様々。心動かされる話に思いもそれぞれ。いくつかについてメモした所から。

<お福わけ> 商売をしていると周りの状況によって浮き沈みが出る。そんなさなかの連帯保証人の依頼で交わされるやり取りが身に詰まる。妻の弟の言い分は正論だけれど。
 バイトから正規に雇った母子家庭の和香ちゃんのことを思うと店をたたむことも思案のしどころ。どうする?

<桜は散っても謝らない> 娘の美優が私(誰かとつるむことがそもそも苦手)に妻とのことを告げる言葉
「ママって結構、目立ちたい人なんだよ。つーか、中心にいたいみたい」「・・・ママのこと何も知らないんだね。・・・そんなんじゃ年取ったら見捨てられちゃうよ」は自分にも当てはまり心苦しい限り。

<心のくしゃみ> 母子家庭、しかも子供は未だ小学生。生活のため母親は当然働きに出る。世の中の厳しさが切ないのは現在も同じ。底に緩衝材となる祖父母の存在がなかなか貴重でこうありたいと願うばかり。足利のおじいちゃんになりたい。

<コロッケ泣いた>母親のやるせない気持ちが伝わってくるし、弟の晃司の祖母に投げつける暴言も悲しさに埋没。
 

余談:

 あとがきにもあるように家族短編小説シリーズの六作目にあたる。心に届く作品集のようだ。いつの日か他の作品も読む機会を持ちたい。      
背景画は、花をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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