森 絵都著 『みかづき』



              2018-04-25


(作品は、森 絵都著 『みかづき』    集英社による。)

          

 
 初出 「小説すばる」2014年5月号〜11月号
     2015年2月号〜9月号
     2015年12月号〜2016年4月号 単行本化に当たり加筆・修正。

   本書 2016年(平成28年)9月刊行。 

 森 絵都:
(本書より)
 
 1968年東京都生まれ。早稲田大学卒。90年「リズム」で第31回講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。95年「宇宙のみなしご」で第33回野間児童文芸新人賞と第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を、98年「つきのふね」で第36回野間児童文芸賞を、99年「カラフル」で第46回産経児童出版文化賞を受賞するなど、児童文学の世界で高く評価されたのち、06年「風に舞い上がるビニールシート」で第135回直木賞を受賞した。「永遠の出口」「ラン」「この女」「猟師の愛人」「クラスメイツ」など、著書多数。    

主な登場人物:

<大島家>
大島吾郎

千葉県習志野の野瀬小学校の用務員から千明の要請で立ち上げた塾の先生に。千明と結婚、千明と塾(勉強教室)を開く、時に22歳。温厚で適度にとぼけたところのある吾郎の好感度は高い。

千明
(旧姓 赤坂)

用務員室の守り神と呼ぶ吾郎を説き伏せ八千代塾を開講、時に27歳。文部省嫌いで上昇志向の強い強引な女。

長女 蕗子(ふきこ)

千明の娘。千明は結婚せず独り身のまま蕗子を産む。吾郎と千明を結びつけた運命の少女だった。父親の吾郎とは血縁関係はない。
「お父さん、お母さんに油断は禁物」と。

次女 蘭子 母親の千明に似て、賢いが自分本位な正しさに固執の台風娘。
千明は蘭子に甘い。
三女 菜々美 快活で人なつっこい。
祖母 赤坂頼子

千明の母。戦前カフェで女給仕事していて名家の将校に見初められて結婚。夫が戦死後親戚関係から結婚の解消を迫られ独り千明を育てる。したたかな女。

谷津文彦 野瀬小学校で6年生を教える先生。吾郎が尊敬する人の一人。
勝見正明 勝見塾の塾長。吾郎と教え方は「動」と「静」。千明が勝見と塾の共同経営を決めたことに、吾郎は決め方にへそを曲げるも・・。
一枝 金輪書房の出戻り娘。吾郎より年上。ソ連の教育者スホムリンスキーの本を一枝からプレゼントされた吾郎は、一枝との間が急速に縮まる。
国分寺務 八千代塾から名を変えた千葉進塾の本部津田沼校の事務室長。
<赤坂家の三姉妹のその後>

上田純
妻 蕗子
息子 一郎
娘 杏

吾郎が千葉進塾の塾長退任を機に秋田に去り、農協でオヤジの手伝い。
・吾郎が家を出たのを、蕗子は「お母さんがお父さんにしたこと、私は絶対に許さない」と後を追うように行方をくらましていたが、上田と結婚し秋田にいた。

佐原修平
妻 蘭子

某老舗生花店の御曹司、次男坊。
・オーキッドクラブを立ち上げた蘭子は途中で断念、修平と”らんらん弁当”を始める。

菜々美
娘 さくら

高校卒業して海外を巡る吾郎の元に。その後カナダにステー。
妊娠するも、結婚する相手とは別れ、さくらを連れて千明の実家に。いつかは上田のお兄ちゃんみたいになりたいと。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 昭和36年。小学校用務員の大島吾郎は勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ共に学習塾を立ち上げる…。昭和〜平成の塾業界を舞台に、3世代にわたって奮闘を続ける家族の感動物語。著者5年ぶりの大長編。 

読後感:

塾は必要悪と批判される時代、しかし時代の先を見る千明の慧眼から次第に塾を広げていった間には色々と問題が持ち上がってくる。
 吾郎と千明の間には、吾郎とは血縁関係はないが母の怖さを知る長女蕗子は、父親に自分の考え方を話し、母親の反対を押し切って教師の道を歩んでいく。
 吾郎の“のんきな性分に救われる”と祖母の頼子に言われたり、千明の激しさにおされっぱなしの悩める吾郎が癒やされるのは蕗子の存在であったり。

 堅苦しい物語かと思いきや、ある種漫画のような場面もチラバされていてどんどん読み進んでしまう。
 また家庭の間の問題も、救われるようなキャラの存在が作品に和みを与えてくれる。
 祖母の頼子が子供の将来を心配し、放つ言葉が的を得ている。
 蕗子については、「あの子は心配いらないわ。あの子は人を許せる子だから、きっと幸せになれるでしょう」
 蘭子については
あの子は人を裁いて、そして、許さないあの子、幸せになれるのかしら
 菜々子については「奈々美も大丈夫。鈍感というか、あの子は、もともと人を裁かないから」と。そして彼女らがどんな風に変わっていったのか興味深い。
 
 一方、千明と吾郎はというと、当初の共通目標が同じであったのに、途中から離ればなれになってしまう。千明に言わせれば、”時代の変化”と切り捨てた、結果はどうなったか。
 そのことについて、病に伏した頼子は吾郎に対して「そろそろ、あなた自身の人生を生きてもいい頃じゃないかしら」と。物語はさらに続く。

 時の移り変わりがテンポ良く過ぎていき、教育界の変遷もそれに伴い変化していく。赤坂家の女達の様子も夫達はどうやら似たような人物を選び、似通った人生を歩むことに。
 ラストは生き生きと生き返ったような吾郎の姿と、孫の一郎がどうにか一人前に育っていく場面で終焉を迎える。
 その間の人間関係の機微、人情、志、熱意など溢れる思いが随所にわき起こってきて読んで勇気をもらった気がした。
 

余談:

 図書館に予約申し込みから半年以上を経ってやっと手にした本作品(20冊の蔵書で)。期待に違えずの感動。佐藤愛子の「血脈」を読んだときと同じような感動を得た。
 教育というものに対しての誰でもが持っている考え方を扱っているのと、家族、家庭の中の夫婦、親子、そして将来の進展、変化に対する期待、畏怖そんなものが入り交じって、ごく身近な問題として感じるところがテンポ良く展開していくのが素晴らしい。 

背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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