森絵都著 『いつかパラソルの下で』 






               
2012-03-25


(作品は、森絵都著  『いつかパラソルの下で』  角川書店による。)

           

 

 本書 2005年(平成17年)4月刊行。

 森 絵都:

 1968年東京生まれ。 早稲田大学卒業。 90年、「リズム」で第31回講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。 同作品で第2回椋鳩十(むくはとじゅう)児童文学賞を受賞。 「宇宙のみなしご」で第33回野間児童文芸新人賞を受賞。 初めて児童文学の枠を超えて綴られた「永遠の出口」で第1回本屋大賞第4位に選出。 「いつかパラソルの下で」で直木賞候補。 あたたかくて力強く、深い作品世界は幅広い年代の読者に支持されている。

主な登場人物
父 柏原大海
(ひろみ)

亡くなって1年経っていない。 故郷の佐渡を理由があって東京の大学に進み、以後故郷を嫌っている。 子供達には厳格な暮らしを強い、反発を喰らう。 暗い血が自分に流れていると。
父親の会社の部下という女性との不倫(?)が発覚、 兄、 姉妹が真相を暴こうと・・・。

父の死後、 病院通いに明け暮れ、 世事のあらゆることに無関心。 その理由は・・・。
兄 春日 警備会社に勤務の28歳。 父親の初七日の日に来た親父の友達という人から父親のことを聞かされ、 自分探しの旅を始める。
姉(私) 野々

父親に反発し、 20歳で家を飛び出しその後家に寄りつかない。 今は天然石のお店を手伝っているフリーター。
お金がないため同棲している恋人達郎には後ろめたいものを持ちつつ、 このままの状態を好ましく願っているが・・。
父の言う堕落しきった人生を送っている。

妹 花 異性とは無縁の23歳。 厳格な父にさからうことなく柏原家の正道を歩んで一番可愛がられて過ごしてきた。

佐渡の親戚
仁科凪
(なぎ)
娘 愛

相川にある昔の老舗旅館(仁科館)の女将。 今はじり貧の状態。
父の大海の姉に当たり、 両親が死別後、 大海とは別々に引き取られて交信もナシ。
娘の愛は15歳(中3)、 部屋に閉じこもってばかりの生意気な子。 鋭く芯をついてくる。

矢萩依子 柏原部長との女性関係についての模様を暴露する。


物語の概要図書館の紹介文より
 
 病的なまでに潔癖で、傍迷惑なほど厳格だった父。四十九日の法要が近づいた頃、私は父の生前の秘密を知ってしまう。大人たちの世界を瑞々しい筆致で綴るハートウォーミング・ストーリー。待望の書き下ろし長編小説。
 

読後感
 
 三人の兄妹が厳格な父親に対する対応の違いから現在の自分の生活模様、 生き方を振り返るなかで、 他人が自分をどうみているかと対比して果たして全てを父親のせいとして逃げていた自分を発見。 そして父親の何かを探るためにそれぞれの思いを込めた三人が訪れた佐渡での二泊三日で、 そこから見えてくるこれからに吹っ切れた想いを掴むまでがユーモアを含め、ほんわかとした気分にしてくれるほんとハートウオーミングストーリーであった。

 三人の兄と姉妹のやりとり、 母親とのやりとりはそれぞれの心情把握も盛り込まれ、 ぐさっとくる言葉も織り交ぜられて読者の心にも響いてきてさて自分の場合はどうだったかと思い返されるばかり。 さわやかな読書になった。

印象に残る表現

 佐渡にて兄と姉妹の会話中、兄が彼女から言われた言葉:

「実はこの前、俺、五つも下の彼女にすげえ罵倒されたばっかでさ。親父のせいで俺の人生が狂ったとか、またいつもみたぐちぐち言ってたら、いい年こいて自分の人生を親のせいにすんな、二十代の半ばも過ぎたら自分のケツは自分でぬぐえ、って。あれはこたえたなあ」 ぐさっと来た。
「こたえるねえ、それ」
 つぶやくと、隣で妹も、「同感」とうなずく。

余談:

 さんざんな目に遭う父親の思い出、その父親のお墓が海の見える地元の三浦海岸に設定されていることにも気をよくしてしまう。
 ああ佐渡に行ってみたいなあ。

           背景画は父親柏原大海の生まれ故郷、佐渡相川の海岸風景。                    

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