宮尾登美子著 『 蔵 』




                 
2012-05-25




(作品は、宮尾登美子著『 蔵 』  毎日新聞社による。)


               

初出 毎日新聞、1992年3月より1993年4月まで。
本書 1993年(平成17年)3月刊行

宮尾登美子: (本書記載より)

 1926年(大正15年)、 高知市生まれ。 62年「連」で女流新人賞、 72年「櫂」で太宰治賞、 77年「寒椿」で女流文学賞、79年「一絃の琴」で直木賞、 83年「序の舞」で吉川英治文学賞を受賞。

主な登場人物:

田乃内意造
妻 賀穂
(かほ)
娘 烈
賀穂の妹 佐穂

父三左衛門より酒造りを任され、 東京の帝大卒業後戻ってきてはじめる。
祖母のむらたっての願いで新発田のろうそくや(佐野家)の娘で姉の賀穂をめとる。(意造26歳、)
賀穂は美しいが身体が弱く烈を生んだ後床に伏せること多く、8人の子をなすも早く死なせ烈一人が育つも、目を患っていた。
妹の佐穂が田乃内家に入り、 小さい頃から烈の面倒を見ることで住まう。

亀田郷の田乃内家(本家)
三左衛門
妻 むら

新潟県中蒲原郡亀田町に5千坪の家屋敷を持つ田乃内家の三男。
むらとの一人息子が意造。

北山の田乃内家(分家)
次郎右衛門

田乃内家の次男、 働くこと好まず、 分家。
意造にとって伯父に当たる。

中山せき
息子 丈一郎

田乃内意造の後添え。 野積み出身、古町の小芸妓だった頃に知り合う、 18歳で後添え、 意造51歳の時。
烈は嫌い、 佐穂はその位置を失う。

大貫梅次 田乃内の酒蔵の杜氏。 “冬麗” と名付けられる。 腐造が出て去ることに。
中山晋(あきら) 梅次の後に入った酒蔵の杜氏。 中山せきと同じ野積み出身。


物語の概要: 図書館の紹介より

   
 失明という運命と闘い、ひたむきに、華麗に、愛と情熱をつらぬいた女、烈。雪ふかき新潟の酒造家を舞台に、生きる哀しみと喜びを全身全霊で描きつくした宮尾文学畢生の傑作。

 下
 光閉ざされた世界から、恋人のもとへ、一途に駆けてゆく少女・烈。苦悩と献身の生涯の末に歓喜の光を浴びる養母・佐穂。それぞれの愛の成就をうたい上げた感動の終章。



読後感:


 淡々とした展開の中に夜盲症と診断された烈の運命、一方で酒蔵の腐造という酒蔵にとって致命傷となる事故、そして妻の賀穂の病弱と一家にとって幾重にも訪れた不幸にどう立ち向かっていくのか。
 特に幼い烈が小学校に上がる間際の心の揺れ、母親の賀穂の熱意、それを見守る意造の気持ちと読み手にとっても自分のことのように思えてどうしたらよいかと考えてしまう。
 そんな時の佐穂の支えも頼りになって和まされる。
 賀穂の死に伴い賀穂が札所巡りの前にもしもの時があったら妹佐穂を後添えにとの意造、むらへの遺言ともいえることの顛末。新しく後添えとして迎えたせきとの間に生まれた丈一郎の死去と意造の発病ですっかり人生観が変わってしまった父親の姿を目の当たりにして、烈の考え方も自分が一人になったときどう生きていくかを考えるようになる。そのあたり次第次第に成長していく烈の姿が淡々と描かれていくにつけ、読者にも時がたっていくに従って状況が変化し、気持ちの移ろいが有ることを印象づける。

余談:
 
 合間に読んだ(?)新井満著の「希望の木」(大和出版)という写真詩のことを思った。これは、NHKのラジオ深夜便から生まれたものらしい。深夜便を聞いていて、”つどい”で朗読されたのをキッカケに広まっているらしい。 あの「千の風になって」と似て静に広がっていくかも知れない。詩の中味も、関係者なら詩を聞くと涙が溢れることだろう。さらにこの作品の写真が詩とじつにマッチしていて美しくその荘厳さに感動した。
 著者の新井満氏について新潟大地震の体験談も、以前同ラジオの”心の時代”で新潟出身の良寛さんのことについて語られていた時に、御自分のことについて述べられていた一端も記述されていて改めて新井満のファンになった。
背景画は作品の(上)の裏表紙を利用して。
   

                             

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