宮本輝著 『優駿』 

                   
2006-01-25

(作品は、宮本輝著 『優駿』(上)(下)(新潮社) による。)

                  
 

昭和57年春「小説新潮スペシャル」から、丸4年間もの長い連載の作品。
吉川英治文学賞作品。

◇ 主な登場人物

・和具平八郎 和具工業株式会社の社長。倒産の危機にあって、一か八かで賭けた馬券で、奈良五郎の乗る馬に救われ、奇跡的に助かる。それから私費で馬主となる。渡海千造からオラシオンを買う。15年前会社の経理にいた田野京子に誠をもうけるも、手切れ代わりに家をかってやり、別れる。しかし誠が腎臓疾患で移植手術が必要となり、15年振りに和具平八郎の前に姿を現す。
・娘久美子(18才) 何不自由なく育てられたお嬢さん、利発で明るく、物おじしないが、気分屋の所もあり、意地悪なところもある。根は素直な美人。
・渡海千造 北海道静内の小さなトカイファームの牧場主。ハナカゲとウラジミールを掛け合わせ、オラシオンを産む。しかし砂田重兵衛と和具平八郎へ二重取引をしたことでトラブルを起こす。
・息子博正(18才) オラシオンを産んだ時に立ち会った久美子を見て好きになる。大きな夢を持ち、藤川老人や吉永会長に愛される若き牧場主の後継ぎ。
・多田時夫 和具工業の社長秘書室勤務。オラシオンの名付け役。和具社長に頼りにされているが、三栄電気との合併話に社長を裏切る。しかし和具平八郎から「お前は駿馬や」と言われ悩む。
・吉永ファームの人々  日本で一二を争う牧場主。吉永達也会長とその子供哲也、克之兄弟達。オラシオンを預かる。戦時中、藤川老人に恩があり、渡海博正にセントエストラレラとの種付けを認める。
・奈良五郎 石本厩舎所属のジョッキー。 事故に遭い、大怪我をしたミラクルバードで3連勝し腕を上げる。ミラクルバードの主戦ジョッキー争いから、ミラクルバードとその時の寺尾ジョツキーを死なせ、騎手としての変貌をとげる。ダービーではオラシオンのジョッキーをつとめる。
藤川伝三老人 帯広で馬を作っている小さな牧場主。渡海博正を坊やといつて可愛がり、イエローマツトを博正に譲る。
砂田重兵衛 関西では名伯楽と評価を受けている調教師。奈良五郎の先生。オラシオンの調教を引き受けている。

印象に残る言葉:

◇藤川老人の言葉:

「終わりってのは、また始まるためにあるんだ。自分の作って育てた馬が、死ぬたびにそう思う。」
「人間、何か事をやろうと決めたときにゃあ、必ずその行き脚をさえぎるような禍が起こってくるもんだ。不思議なことだが、その禍ってのは、自分の一番弱いところをついてくるぜ。それでみんな前へ進めなくなっちまう。ところがこれも不思議なことに、ちくしょう、こんな禍なんかふっとばしてやらあ、俺は行くんだって腹くくったら、禍はいつのまにか消えちまう」

◇昔から言われていることわざ
「皐月賞は調子の良い馬が勝つ、ダービーは運の良い馬が勝つ、菊花賞は強い馬が勝つ」

◇和具平八郎の言葉 「馬は、心で走る」

読後感:

「優駿」は映画にもなって、確かコピーがヒューマン感動作とかなんか、清廉な乙女と若き青年の恋物語、切ない物語の印象をもっていたが、実際の小説の内容は、競馬界の諸問題を絡め、ドロドロした話の中に人としての生き方みたいなものが含まれている。

 昨年、初めて東京競馬場に仲間に連れていってもらい、馬券を買い、競馬の仕組みを知った。さらにバックとして小説にあるような生産者、馬主、調教師、騎手、厩舎などが深く絡みあって、はじめて挙行されている様子を知って興味深いものがあった。

 レース展開の妙味も読み応えがあった。またオラシオン(スペイン語で‘祈り’)、優駿といった言葉にも惹かれるものがある。

 ところで、「約束の冬」と比べると描かれている人間に、あまり同調する気持ちが起こらず、心に残る作品という感じではなかった。 吉川英治文学賞作品、映画は大ヒツトと表しているが。。。。


余談1:

 年も明け、「約束の冬」の影響を受けたかも知れないが、今年は再び明治大正時代の作品や、古典作品を読んでみたくなった。

                         

戻る