読後感:
小説のテーマについて著者は後記のところで、“私は、霊魂とか、輪廻転生といったものは信じていないのですが、生命というものには初めもなければ終わりもないと説く思想を信じています。”とある。宇野満典という主人公が不運が重なって2歳の息子を死なせてしまい、妻にも許されず、日本を飛び出してギリシャで過ごすその様子は、何となく判る気がする。自分が孫を持つようになり、親の気持ちが改めて判る年頃になり、素直に同情してどういうふうに切り抜けていくのか、興味が沸いた。
さらにミステリアスな展開もあり、目が離せないで二人の妻とのこと、友情、親兄弟のことなどが絡み合い、抒情感溢れる作品になっている。
折しも、教育TVで “知るを楽しむ−宮本輝−”が放映されていて、宮本輝の作家デビューのいきさつ、「泥の河」で直木賞を取ったこと、シルクロードを旅して感じたこと、父親が自分に残してくれたことなど筆者の素顔を知ることが出来た。
その中で特に印象に残った言葉:
心根の豊かなもの、清潔なもの、水だと思って飲んだら血だった(意味:さらさらとした文章の中に読者の心の中で化学反応を起こしてもっと違う別のものが生まれている)という、そんな文章を書きたい。
印象に残る言葉:
◇ 徳さんの恩師の言葉:
「・・もし、過去世を信じたとしたら、私は来世も信じなければなりません。なぜって、過去世で私が何か悪いことをして、その結果として、今世に子供のことで苦しんでいるとしたら、この今世もやがて私の新しい過去世になる。そうやって、来世へ、来世へ、来世へ、そのまた来世へと私がつづいていくならば、私は一生懸命に今世を大切に生きなければならなくなる。なぜって、今世で私が悪いことをすれば、それは来世における私の不幸の原因を積むってことですもの」
・・・
「私は、過去世、今世、来世と永遠に原因と結果とによってつづく生命観を信じました。それを信じたとき、息子は静に息を引き取りました。死んだらすべて無になるんだったら、人間は自分の欲望のために、ありとあらゆる悪事をはたらくほうが得だってことになりますわ。でもどっこい、そうはいかないってことに、人間は死んだら気づくだろう。私、そのことを信じているんです。私はまたどこかできっと息子と逢えますわ。もう逢っているのかもしれません。それは私が感じて、信じることです」
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