宮本輝 『灯台からの響き』



              2020-12-25


(作品は、宮本輝著 『灯台からの響き』      集英社による。)
                  
          

 初出 北日本新聞社の配信により、北日本新聞、岩手日報、山陰中央新報、愛媛新聞、新潟日報の各紙に20192月〜20201月の期間、順次掲載。単行本化にあたり、加筆・修正。
 本書 2020年(令和2年)9月刊行。

 宮本輝:
(本書より)  

1947年兵庫県生まれ。77年「泥の河」で太宰治賞、78年「螢川」で芥川賞を受賞。87年「優駿」で吉川英治文学賞を受賞。2004年「約束の冬」で芸術選奨文部科学大臣賞文学部門、09年「骸骨ビルの庭」で司馬遼太郎賞を受賞。著作に、「流転の海」シリーズ、「水のかたち」「田園発 港行き自転車」「草花たちの静かな誓い」など。10年秋に紫綬褒章、20年春に旭日小綬章を受賞。 

主な登場人物:

牧野康平
妻 蘭子

板橋の商店街で中華そば屋「まきの」の店主62歳。
高校二年で中退、引きこもり生活から、父親の伝統の味を守り、「まきの」を蘭子とふたりで継ぐ。
カンちゃんの「牧野康平という人間が面白くないんだ」の言葉に、読書に励み始めた。
・蘭子 無理がたたり2年前くも膜下出血で亡くなる。
30年前に届いた葉書を「神の歴史」という本に挟んでいた。

長女 朱美(あけみ)

証券会社に勤務、28歳。康平と同居中。
弟たちは朱美の目力に気圧され頭が上がらない。

長男 雄太 大学を卒業して重機メーカーに就職。今は名古屋支店に、24歳。
次男 賢策 一浪後この春、京都の大学に、20歳。

山下登志夫<トシオ>
妻 芙美
(ふみ)

商店街北側の山下惣菜店の店主。康平の親友。

倉木ェ治
<通称カンちゃん>
妻 咲恵

同じ商店街の貸しビルのオーナー。康平の親友。62歳で心筋梗塞で亡くなる。
康平に「おまえと話しているとおもしろくなくて、腹がたってくるんだ」と言う。

多岐川志穂 カンちゃんが福岡支社に居たとき、取引先の女性社員と懇ろになった相手。妊娠したが中絶したとカンちゃんには伝える。

多岐川新之介
妻 由衣
子供 翔馬
(ショウマ)   灯(アカリ)

多岐川志穂が中絶したと言ったカンちゃんとの間の子。高校二年の時学校を中退、二人の子が居る。母親は同じ18歳。
福岡の半グレ予備軍のそのまた見習いってところと(朱美評)
・翔馬 2歳、灯 5〜6ヶ月。

石川杏子(きょうこ) 函館に暮らす蘭子の叔母。蘭子と1年出雲で暮らしていた。
小坂真砂雄(まさお) 1987年(30年前)当時大学生であった真砂雄が蘭子宛に葉書を出した相手。武蔵野市吉祥寺の住所になっていた。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 中華そば店を営む康平はある日、亡き妻宛てに30年前に届いたハガキを見つけた。そこに描かれていたのは、海岸線と灯台のように見える線画。妻はなぜそれをとっておいたのか。そして差出人との関係とは…?人生の価値を伝える傑作長編。

読後感:

 板橋で中華そば「まきの」を営む主人公の牧野康平は、「神の歴史」と言う本の中から、急死した妻蘭子が残した30年前に書かれた葉書を見つけ、文面とそこに描かれた絵、そして蘭子は差出人は知らない相手としていたことを機に、灯台巡りを始めた。
 物語は娘や息子とふたりだけで外食したり、じっくりと話あったりしなかったことから話をする。そして蘭子が子供たちには出雲で暮らしたことがあることを、自分には話してくれなかったことを知り、出雲時代の蘭子のことを調べ始める。

 一方、商店街のカンちゃんやトシオとの交流は羨ましいくらいに濃密で、暖かみと時に鋭さも兼ね備えたもので、こんな仲間に囲まれた生き様は羨ましい限りであり、宮本作品の魅力が満載である。
 しかも、灯台巡りの様子も、現地の人との交流も現実味溢れ、微笑ましい。

 物語の盛り上がりは、後半から出現した多岐川新之介の言動、行動は大人顔負け、半グレから完全に立ち直って、亡くなった父親の住んでいたところを見届けに来たり、康平の東北方面の灯台巡りを、運転手として何かとエスコートしたりの役目を担い、葉書の絵からどこの灯台かを推察したりのまさに八面六臂の活躍振りを演じている。

 終盤は蘭子の秘密を明らかにし、「蘭子が残した何かを見つけて正しく検証してやる」と石川杏子に会い、初めて独りで飛行機に乗り出雲に向かう。そして石川杏子に聞いた話は・・・。
 さらには、葉書の差出人、小坂真砂雄との出雲日御碕灯台でのやり取りは圧巻。
「蘭子、お前はあっぱれな女」と康平は感服で幕。やっと「まきの」再開へのきっちりの動機となった。

 出雲日御崎灯台


余談:

 作品の中に描写されている内容は、康平にとってもそうだが、何か自分自身のことのように覚えてきた。
 子供たちと酒を飲み交わしたり、話をしたりすることもなかったこと。
 カンちゃんがきつく戒めてくれた言葉
 「お前と話しているとおもしろくなくて、腹がたってくるんだ。康平、お前の話がなぜおもしろくないか教えてやろうか。・・・それはなぁ、お前には『雑学』ってものが身についてないからさ。・・・康平、お前にはその雑学がまったくないんだ」。
 と言われ、康平はとにかく本を読んだ。とある。島崎藤村の「夜明け前」も七回も八回も読んだという。だからその一節を空で言えるように。
 でも自分は、今は何百冊も読んでいるが、とてもどんな内容だったか、全てうろ覚えでしかなく、人に話せる状態でもない。次々読むことと読書録を付けることにあくせくしている。
 千冊読み込んだら、今度は感動した作品を読み返すことを目標にしようと思う。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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