宮本輝 『草花たちの静かな誓い』



              2020-03-25


(作品は、宮本輝著 『草花たちの静かな誓い』      集英社による。)
                  
          

 初出 学芸通信社配信により、四国新聞、山陰中央日報、苫小牧民放、神戸新聞他多数の各紙に2014年3月〜2016年8月の期間順次掲載。単行本化に当たり、加筆修正。
 本書 2016年(平成28年)12月刊行。

 宮本輝:
(本書による)  

 1947年兵庫県生まれ。77年「泥の河」で太宰治賞、78年「螢川」で芥川賞、87年「優駿」で吉川英治文学賞を受賞。2004年「約束の冬」で司馬遼太郎賞を受賞。著作に「流転の海」シリーズ、「水のかたち」「田園発 港行き自転車」など多数。10年秋、紫綬褒章受章。96年から芥川賞選考委員。

主な登場人物:

小畑弦矢(げんや)
<ゲン>

菊枝おばさんの甥、33歳。26歳の時留学目指して渡米、MBA(アメリカの経営大学院を卒業)、CPA(米国公認会計士)の資格を取る。その後日本に帰国。叔母(菊枝)の死で遺骨を持ち、処理のためアメリカに。

菊枝・オルコット
夫 イアン・オルコット
娘 レイラ・ヨーコ・オルコット

25歳の時イアンと巡り会い、両親の反対を押して結婚、アメリカに。2年前、ボストンからランチョ・パロス・ヴァーデスに豪邸を買い移る。夫の他界で豪邸に一人暮らし。日本に旅行中63歳で急逝。遺言にすべてゲンに譲ると。
・イアン 兄の会社を引き継ぎ、成功して若くして売却、引退。
投資で莫大な資産を手に入れる。
・レイラ 27年前、1986年4月、6歳の時スーパーのトイレから行方不明に。

スーザン・モーリー

モーリー&スタントン法律事務所所の菊江の顧問弁護士。アメリカ中で一番仲のいい友達。
・カミラ・ハント スーザンの秘書。

ダニエル・ヤマダ
孫 リサ

日系三世の庭師、毎日オルコット家の草花を管理。
ロザンヌ・ペレス 家や店舗の荘度を専門にしている会社から週二回派遣されている。

京子・マクリード
夫 ケヴィン・マクリード
娘 メリッサ

菊江おばさんが「からくり箱」に京子からの手紙を10通しまっていた。モントリオールにいる(?)も、修善寺からの手紙の謎。
内容にも不可思議な点が・・・。

ジェシカ

パロス・ヴァーデス半島でコーヒーショップ、フィギュアショップを営む27〜8歳。
自分のやりたいこと:大学院行き、障害のある子供の教育に携わりたいと。

ニコライ・ベロスキー・オルコット<ニコ> スーザンお薦めの私立探偵。ゲンからレイラ捜しを依頼され、見込みないと言ったが、条件付けで引き受ける。
瀬戸口秀忠

四万十川江崎町に実家の旅館を引き継ぐ小畑菊枝の元婚約者。
イアンが現れて菊枝はそちらに惹かれた。

補足 パロス・ヴァーデス半島 ロスの西海岸に位置する4つの市からなる、大金持ちたちが作り上げた半島。菊枝夫妻は2年前ボストンからここ、ランチョ・パロス・ヴァーデスに移ってきた。庭にジャカダンダの木があることを気に入って。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 叔母の死を知り甥の弦矢が渡米すると、巨額な遺産の相続人として彼が指名されていた。また、幼くして病死したはずの叔母の娘が、実は死んだのではなく、ずっと行方不明なのだと知らされ…。人気の新聞連載が書籍化。

読後感:

 実に上手い作りになっている。最初に叔母の菊枝おばさんが日本を旅行中に亡くなり、甥の小畑弦矢が遺骨を持ってアメリカに。そして顧問弁護士より遺言状で莫大な財産を引き継ぐことに。ただ、遺言書の草稿では娘のレイラが生きていれば70%を譲りたいと。そこでレイラが6歳の時に行方不明となっていることを知る。

 従ってこのレイラの行方不明の解明が焦点になると思いきや、物語はアメリカの大金持ちたちが作り上げたパロス・ヴァーデス半島にあるオルコット家の邸宅を拠点に繰り広げられる生活模様が小説の半分くらいを占めて展開される。
 その詳細がまた興味深く、はてこの小説は何の物語をたんたんと語っているのかなあと思わせる。

 ことの展開はレイラを最後にもう一度探すことにお金を使ってみて諦めようと、私立探偵のニコに依頼したことで急展開が始まる。
 ニコはレイラが生きているのか、生きているなら幸せに暮らしているのかだけを仕事として請け負ったとして受けることに。

 ことの真相が明らかになったとき、ことは自分たち(弦矢とニコや関係者)の罪が問われかねないことに弦矢は恐れを感じると共に、隠蔽した後、このことを知るニコが、気が変わって脅してきたらどうなるのかの疑心暗鬼が発生することに。
 さらに何故こんなことになったのかの疑問も未だハッキリしない。そんなことで読者はいつまでも引き込まれたままどこまで連れて行かれることか・・・。


余談:

 ミステリー的な内容の面白さもさりながら、アメリカの生活描写で興味深い内容も散見される。・幼児誘拐事件が多いと言うこと。親は幼稚園や小学校では送り迎えがマスト。
 全米で毎年約百万人が行方不明になり、その内85%が子供と。最も百万人は正確かどうかは分からないと(州警察とFBIの発表値が異なるので)。
・パロス・ヴァーデス半島の大金持ちの豪邸の様子が現実離れしていて何でこんなに貧富の差が大きいのかと。

・たばこの規制というか、家の中等でのたばこの煙に対する嫌いさが生半可でなさそう。匂いの有無で家の値段が大幅に下がってしまうなんて。
・大学、大学院の卒業における、欧米と日本における意味合いの違い。欧米での卒業では親が家の名誉と、出席するのがあたりまえの世。それだけ卒業するのが難しいと言うこと。
 中退は落ちこぼれの意味らしい。

・ジャカランダの木 「紫の桜」と呼ばれ、ノウゼンカズラ科に属する中南米原産の木。
    
フォト参照。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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