宮本輝著  『田園発港行き自転車』


 





              2015-07-25



(作品は、宮本輝著 『田園発港行き自転車』   集英社による。)

         
  

 初出 「北日本新聞」にて毎週日曜日に連載。(2012年1月1日〜2014年11月2日) 単行本化にあたり、加筆・修正。
 本書 
2015年(平成27年)4月刊行。

宮本輝: (本書より)

 1947年、兵庫県神戸市生まれ。広告代理店勤務を経て、執筆活動へ。1977年「泥の河」で太宰治賞を、翌年「螢川」で芥川賞を受賞。著作に「優駿」(吉川英治文学賞)「約束の冬」(芸術選奨文部科学大臣文学部門)「骸骨ビルの庭」(司馬遼太郎賞)「水のかたち」「いのちの姿」、「流転の海」シリーズなど。2010年秋、紫綬褒章受章。1996年より、芥川賞選考委員。

主な登場人物

賀川真帆
父 直樹
母 初美
姉 恵莉
直樹の父親
  滝山藤一郎
  (直樹は次男)

大学卒業後証券会社に、絵の模写に興味があり、その後絵本作家としてひとり立ちを決め世の中にも知られるように。東京文京区小日向在。父の死んだ時何故滑川にいたのかに疑問を抱いている。
・父 直樹はカガワサイクル(老舗の自転車メーカー)の三代目社長、婿養子。九州の宮崎でゴルフと言って出張するも、富山県の滑川駅で、急性心筋梗塞で亡くなる、50歳。
・母は父親の死後会長の座につかされ、番頭役の平岩壮吉が社長に。

寺尾多美子 クララ社の真帆担当編集者。真帆とは同い年で仲のいい友達に。

甲本雪子
夫 正晃(まさあき)
雪子の母親 
  杉井芳子
(「小松」の女将)

京都市東山区宮川町(花街のひとつ)に住み、母親の営むお茶屋風バー「小松」を手伝う。母親没後は「小松」の女将に。
夫は「甲本刃物店」の三男、高校の数学教師をするバカデカの男。

夏目海歩子
(みほこ)
息子 佑樹

15年前、滑川の実家で加賀直樹と一夜を過ごす。
京都で美容院の修行をし、今は富山市内で自分の美容院「カットサロン・ボブ」を営む。
甲本家の親戚、京都の美容学校に通うにあたり「小松」の女将が預かり、店の2階に下宿させた。
脇田千春から東京での生活苦痛に助けを求めてくる。

脇田千春

高卒後富山県入善町から単身上京、小野建設機械リースの営業を1年半で退職、入善町に戻ってくる。
佑樹とは脇田家で幼稚園時代預かっていたこともあり、幼い頃からよく知っている。

ふみ弥
(本名 園田真佐子)

花街のある宮川町の芸妓。品のいい色気と頭も良く芸事も一流で笛は名人級。若くして亡くなる。賀川直樹と「小松」に時に現れる。素性は・・・。
須藤敬子 置屋(屋号「はせ長」)の女将。
平岩壮吉 カガワサイクルの番頭格、直樹社長没後、直樹の母親を会長に据え、自身は社長として8年続け、今は身を引いて夫人と伊豆暮らしの今年72歳。

北田茂生
(シゲオちゃん)

「小松」の客。建設会社を精算、苦労して立ち直り、警備会社を営む。
客仲間では賀川直樹と意気投合、自転車ツーリングにはまってしまう。寺尾多美子と仲がよい。

川辺康平
妻 幾代
娘 麻裕
息子 善幸

小野建設機械リースの営業第一部部長、50歳。脇田千春の上司にあたる。
・麻裕 妻子があるとは知らされず、3年間付き合うも、去年男と精算。3年間を取り戻すべく・・。

平松純市 小野建設機械リースの営業第一部主任、36歳。脇田千春が故郷に帰るとき、西新宿の高速バスまで見送りに。
日吉京介

ショット・バー「ルーシェ」のマスター。
康平とは大学2年生の時に知り合って以来の友達。


物語の概要 図書館の紹介文より。


 真帆の父は15年前、「出張で九州に行く」と言い置いたまま、富山で病死を遂げていた。父はなぜ富山へ向かったのか。長年のわだかまりを胸に、真帆は富山へ。富山・京都・東京、3都市の家族の運命が交錯する物語。

 仕事を辞めて、故郷の富山に帰ってきた脇田千春。実家でふさぎ込んでいたが、親戚の中学生・夏目佑樹と触れ合ううち、自分らしさを取り戻していく。富山・京都・東京、3都市の家族の運命が交錯する物語。 

読後感

愛本橋が舞台の大きな印象的場所として登場している。早速ネットで調べてみると赤い大きくはない橋が出てくる。そしてゴッホの「星月夜」の絵。それも調べると糸杉が左中央にそびえ、本当に渦巻きのような渦が描かれている。
 富山、滑川、旧北陸街道そして京都の花街描写と何か情緒あふれる描写に魅せられて読書の楽しさを満喫している。

 さて中心人物となる賀川真帆、夏目海歩子と息子の佑樹、脇田千春、甲本雪子そして平岩壮午吉、ふみ弥。東京、京都、富山の人物たちがどういう糸で繋がっているのか一種ミステリアスなものを巻き込みながら物語が展開していく。

中でも脇田千春と佑樹の絡みがおもしろい。佑樹は誰からも好かれ、何か「流転の海」のxxを彷彿とさせる雰囲気を感じさせる。千春は何をやっても周りに笑いを提供する道化役のようなだめ人間、でものんびりとしていかにも几帳面な性格が理解をする人には好ましく思われるし、川辺康平の言葉、居ることでほっとする癒しの雰囲気を醸し出してくれていたことに気がついたところ、佑樹が幼いときに千春の天性の優しさや穏やかさや気の長さに包まれ続けた日々に感謝すると言った海歩子の言葉からも脇田千春の暖かさを感じさせる。

 下巻ではシゲオちゃんが真帆に賀川直樹との関わりを話し、平岩壮吉が直樹と海歩子の関係、そして始末の仕方、「小松」でのことを語る。真帆は佑樹が5歳の時に「やさしいおうち」の絵本に対してファンレターを送り、かがわまほ先生が返事の手紙を出したことから、こんな展開になり、従弟にあってみたい思いとともにどういう展開をするのか、そして脇田千春と川辺康平、平松純市、日吉京介のその後は・・・。ほんとに富山、京都、東京の人間たちの絡み、展開に引き込まれていく。

読印象に残る言葉後感:

・アルキメデスの言葉:
(「小松」の女将=杉井芳子が平岩壮吉に夏目海歩子三の妊娠を知りわざわざ東京へ来て言ったときのこと)
「言うべき時を知る人は、黙すべき時を知る」

・千利休の言葉:
(置屋の「はせ川」の女将=須藤敬子が、よくもって二週間の身で退院し、千利休の言葉の意味がやっと分かったと)
「当たり前のことが、いつでもどこでもできるならば、私があなた方の弟子になりましょう」
(生き物が死ぬと言うことくらい当たり前のことはないもんねェ)

  

余談1:

(本作品の上巻で)“ひつじ穂”という言葉を知った。稲の刈り跡から出る芽で”ひつじ”といい、さらにのびると”ひつじ穂”となり花をつけ、実もならすものもあるという。
 というのも日頃のウォーキングコースの中に小さな田があり、稲を刈った跡に若い芽が出ているのを見てどうなるのかなあと興味を覚えていた。これを知って何か得をしたみたい。


余談2:
 
 
著者である宮本輝の言葉、「突然襲ってきた不幸や苦難が5年後、10年後、20年後の大きな幸福の種となった・・・。そんな小説が書きたかった。」と。三つの家族の運命を描く。(新聞の広告で見たのかなぁ。・・・)

背景画は、作中に出てくる愛国橋のフォトを利用。
背景画に使いたい箇所がいくつもあり、選択に困るほど。候補としてビアンキーの折りたたみ式自転車、入善町の田園風景、北国街道、そしてゴッホの”星月夜”の絵などがあったのだが。

                    

                          

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