読後感:
不朽の青春小説と謳われるこの作品、青春群像を見ているようでこんなに直向きに生き、悩み、苦悩する学生の姿に、自分の青春時代がこんなであったかといささか寂しい限りである。
夏子と祐子の二人の好対照な女性の生き方、かたや華やかで誰もをとりこにしてしまう危なさも持ち合わせる一方、どうしようもなく婚約者のいる男の恋に惚れ、傷つく夏子。反対に誰からも愛され、ひっそりと清楚さを持つ中に、烈しいものを持ち合わせる祐子の対比が将来どのような運命をたどるのか色んなことを考えさせる。
かたや燎平たちの友達で言うと、キャプテンの金子慎一、巨漢で粘っこい頑迷さを持ち、テニス部の面々を引っ張っていくが、夏子のことをじっと心の中に秘めている金子、そして自分の血に流れる一族の病を怖れて入退院を繰り返す安斎克己の生きざまも心にしみる。
やはりこの年になると老教授の死とか安斎の死は切なくて涙ぐんでしまう。
燎平の人物像は、宮本輝のライフワークの作品「流転の海」の作品に出てくる松坂伸仁が大学生になっている時の姿ではないかと思えてくる。真摯でいてズバリと鋭いことを言いつつも、優しさがすぐに表れる。ユーモアもあり、誰からも気になる人物と思われ、憎めない。
後書きに著者が自伝ではなく、青春という舞台の上に思いつくままに私が創りあげた虚構の世界で、ただ単純に、自分の心に刻まれた陽光の中の青春というものを、何かの物語に託して残しておきたいと思ったと語られているそのことに自分の中にもこのような青春がくっきりと刻み込まれたようである。
印象に残る言葉:
・ 夏子に対して:
人の不幸の上に、自分の幸福など築けるものではない。
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