宮本輝著 『三十光年の星たち』









                  2011-06-25



(作品は、宮本輝著 『三十光年の星たち』  毎日新聞社 による。)

          
 

 初出 毎日新聞に2010年1月から2010年12月まで連載。単行本化にあたり、加筆修正を行う。
 本書 2011年3月刊行。

 

宮本輝:
 1947年神戸生まれ。追手門学院大学文学部卒。1977年、「泥の河」で太宰治賞を受賞し文壇デビュー。翌年、「螢川」で芥川賞受賞。1987年、「優駿」で吉川英治文学賞受賞。純文学、大衆小説の枠組みを超える作品を著す日本を代表する小説家。

 主な登場人物:
坪木仁志(ひとし)
30歳
相棒の美奈代と商売を一緒にしていたが、姿を消し、佐伯老人より借りた80万円の返済に困り、老人の手伝いをすることに。 そこで教えられることは・・・。
佐伯平蔵 京都下京区の小路の奥に住む謎の老人、75歳。 35年に渡り三浦紀明(相棒)と金貸しを行っている。 坪木仁志を取り立て屋として雇う。 その真意は?
三浦紀明(のりあき) 佐伯平蔵の親友の一人、75歳。 三浦乾物店を営み、佐伯と共に高利貸しを行う。佐伯との出会いは四条河原町での体調不良で病院に運ばれる。
北里千満子(ちまこ)
息子 虎雄
23歳の時呉服の販売業を営む主人に先立たれ、3歳と1歳の子供を抱え、主人の借りた200万円を32年間にわたり、毎月3千円ずつ返し続ける女性。
赤尾月子 佐伯たちが一肌脱いだ一番目のお客。 博打打ちの夫と別れ、二人の子供を育てながらスパゲッティの「ッッキッコ」を立ち上げる。
沢田まり子 三重県四日市市に住む借りて。 総菜屋を立ち上げ繁盛していたが、途中から返済が留まる。 徘徊する介護老人の世話に苦闘。
有村富恵 返済が滞っている伏見に住む三人目の女性。

物語の概要図書館の紹介文より


  「きみの人生は終わったも同然」。 謎の言葉をかける老人と、青年は旅に出る。 京都の小路から、はるか宇宙の時間を宿す深遠な生の森へ…。 圧倒的な物語の愉楽。 宮本文学の到達点。


 「30年間を、きみはただまっしぐらに歩き通せるか」…。 ひと筋の光を求め、いくつもの人生が織りなす挫折と輝きの物語。 試練の時、歳月の豊穣。 世代を超えて響き合う魂。 気高き文学の最高傑作。


読後感

 この作品、なにか坪木仁志なる平凡だがどこか心優しく一途なところのある人物を介して著者がいろいろと人生の教訓を垂れるような、でも押しつけるところを感じさせない含蓄のある作品のような気がする。
 なんといっても佐伯という老人の厳しくもあり、時に子供のような所もあり、仁志のいいところを見抜いて、甘やかすでもなく厳しく迫ってくるところは老練というか、人生経験の豊かさのなせる技か。 親友の三浦紀明との掛け合い、二人で外国で苦労をした社長との二人三脚振りでの信頼関係による揺るぎない信念。

 そんなところを若い仁志に経験させようとする思いやりがひしひしと伝わってくる。
 この作品でも色々な知識を得たし、勇気をもらって読書の良さを体感した。 歳を増すごとに色々感じるところも思い起こさせてくれる。 まるで人生の教訓書である。
 ちなみにあとがきに、ひとりの名もない頼りない、たいした学歴もない青年が、三十年後をめざして、手探りでもがきながら、懸命に自分の人生を作り始める物語とあった。
 


印象に残る言葉:

◇(上) 植物学者と料亭の女将との対談話を佐伯が仁志に話す:

 八十歳になる植物学者が大学生の頃、論文がドイツの著名な植物学者の目に留まり、その人の招きでドイツに留学した時にドイツの師に言われた言葉:

「まず現場に出て、目で見て、匂いを嗅いで、舐めて触って調べろ! 現代人には二つのタイプがある。 見えるものしか見えないタイプと、見えないものを見ようと努力するタイプ。きみは後者だ。 現場が発しているかすかな情報から、見えない全体を読み取りなさい」
 佐伯はそこで一呼吸置き、(仁志に対して)
「きみは後者だ」
 と繰り返した。


余談1:

 定年退職して1年ほど樹木に関する勉強をしたが、この作品の中で、“潜在自然植生”に関して森の三役五役の樹木とか本物の森を作るための植樹の木々の名前がリストアップされているが、おかげであぁああいう木だと理解出来たのも結構愉しかった。 タブノキにより新潟酒田の大火や、関東大震災での潜在自然植生の庭園に逃げ込んだ2万人がタブノキの壁で助かった話など水分をぎょうさん含まれてるから、木が消火器になってくれたらしい話は感動的でさえあった。

余談2:
 

「天の河銀河」に関して、「地球がある我々の太陽系は、何千億個っていう星の集団のなか、つまり天の河銀河のなかに混じってる。 この天の河銀河の大きさは十万光年。 横断するのに、光の速さで進んでも十万年かかる。 光は、一年間に約九兆五千億キロ進むんだから、天の河銀河がどれほど巨大なものかがわかるだろう? この天の河と同じような大きさの銀河が、宇宙には少なくとも一千億個以上あるんだ」と(下)巻にある。 たまにはこの言葉を思い出してみる必要がありそう。 東日本大震災でおどおどしていたらお話にならない。頑張りましょう。
 ☆ 背景画は本作品の装画として使われている東山魁夷(かいい)作「春兆」という木版画のフォト。

                    

                          

戻る