宮城谷昌光著
                      『夏姫春秋』



 

                     2014-06-25




(作品は、宮城谷昌光著 「夏姫春秋」   文藝春秋による。)

             

 
 本書 上 2000年(平成12年)11月刊行。
    下 2000年(平成12年)12月刊行。

 宮城谷昌光:

 1945年蒲郡市に生まれる。早稲田大学文学部英文科卒。90年、「天空の舟」で直木賞候補、91年同作で新田次郎文学賞を受賞。同年、「夏姫春秋」で直木賞を受賞。2000年、司馬遼太郎賞を受賞。作品として他に「王家の風日」「?骨記」「孟夏の太陽」「春の潮」「花の歳月」「重耳」・・「青雲はるかに」「太公望」「華栄の丘」「奇貨居くべし」などがある。

主な登場人物

<上>

鄭(テイ)
中原の中央に位置する。
楚と晋との両面外交。
蘭→

鄭公 蘭(ラン) 陳公とは仲がよい。子だくさん。楚から離れたく思っている。
太子 子夷(シイ)夏姫に執着、偏執病。楚に一時留まる。
弟 子良(シリョウ)聡明。
娘 夏姫(カキ) 妖花。陳の子夏の御叔(ギョシュク)に嫁ぐ。
    徴舒(チョウジョ)を出産
・子宋(シソウ) 公族での大臣。夏姫を御叔の元に送り届ける役。
・子家  卿(ケイ)首相。
・燭之武(ショクシブ) 性根のすわった大夫。

陳(チン)
小国。
鄭との交流あり。
朔→平国

陳公 朔(サク) 楚から晋に同盟を変えたい。
太子 平国(ヘイコク)
夏氏 少西氏のあざな。公族のひとり。
   子夏(シカ)当主。夏姫に対し胸騒ぎを覚える。
      子 御叔(ギョシュク) 夏姫を愛でるも素直な気持ちになれず。
・儀行父(ギコウフ) 平国の守り役。
・洩冶(セツヤ) 宰相。


中原より南の大国。
商臣→旅

楚王 商臣(ショウシン) 気性激しく他の諸侯から怖れられている。
太子 旅(リョ) 他の諸侯から怖れられているも、名君
・イ賈(イカ)司馬(軍事をつかさどる)
・伍挙(ゴキョ)忠諫の臣、賢能。 父 伍参(ゴサン)

晋(シン)
大国

同盟をつのって楚と戦を目論む。
・趙盾(チョトン)卿(ケイ)首相。
・解揚(カイヨウ)下級指揮官。

(補足) 周王朝の爵位 公・侯・伯・子・男

<下>

鄭(テイ)
中原の中央に位置する。
楚と晋との両面外交。
蘭→堅

鄭公 堅(ケン)
・子良 卿(首相)

陳(チン)
小国。
鄭との交流あり。
(朔→)平国→子南→午(ゴ)

陳公 平国(ヘイコク) 太子 午。
夏姫 陳公の寵愛を受け夏姫の台(豪亭)に住むことに。
夏氏 子南(徴舒(チョウジョ))16歳に。母(夏姫)の姿に恥辱を味わう。陳公を伐つ決心。
   季暢(キチョウ) 家宰の子供、子南の知恵袋。
・孔寧(コウネイ)三卿(首相)のひとり。
・儀行父(ギコウフ)三卿(首相)のひとり。
・洩冶(セツヤ)三卿(首相) 楚との同盟を勧める。


中原より南の大国。
商臣→旅→審

楚王(旅(リョ))
夫人 樊姫(ハンキ) 賢夫人。 王子 審(シン)
・申叔時(シンシュクジ) 外務大臣のような閣臣。
・巫臣(フシン)申(シン)という県の行政長官。外交の重責を担う。 楚王の信任厚い。 息子 子閻(シエン)
・伍挙(ゴキョ)楚王の可愛い臣。

晋(シン)
大国

・士会(シカイ)元帥。 楚を大敗させた経験有り。


物語の概要(図書館の紹介記事による)

 三夫二君を死にいたらしめたとされる神話的美女・夏姫は真の悪女だったのか。戦争と愛を雄渾な筆で描きだす歴史叙事詩の名品。

 夏姫は天上の台に駆け上った。3人の男をはしごにして。しかしその膚肌の裡には底知れぬ淵があり夏姫は心烈しくその空虚に耐えた。

読後感

 周王が正当の血筋とすればその力も落ち目の春秋時代、大国として晋、楚、斉の時代背景を知っておかないと。

 中原に位置する鄭は晋とも楚ともいい顔をしておかないと先行き行かない状態にある。そんな中、鄭の夏姫は兄の子夷と情愛を喜んでいたが、陳の子夏の息子御叔(ギョシュク)に嫁ぐ。
 本作品夏姫の運命が中心に描かれるのかと思いきや、上巻では鄭の太子子夷(シイ)と鄭の卿(首相にあたる)子家(シカ)の話に焦点が向く。

 子夷は楚に囚われるのを覚悟で赴き、楚王に気に入られる。一方、鄭の国のことを思う子家は晋と楚の両面外交で難局を乗り切る才を発揮している。
 その両者、仲は良くない。そして鄭公が亡くなり、次の君主に夷がなると、波乱が起こる。子夷の運命、子家の運命、いずれも満たされることなく不幸な結末を迎える。

 中国の物語三国志、水滸伝など、とにかく各々の章でエピソードが絶えず出てきて感情移入がおき面白い。ただ名前が難なのと、官職の名前、複雑さ、国の多さが煩雑でしっかりメモを取って整理しながらでないと、なかなか理解が出来ないのはつらいところ。

 上巻ではやはり子夷と子家の対立する“新古の章”と続く“凶風の章”が印象に残る。そして最後に楚王が呟くジ(水牛に似た一角獣)のたたりは、やはり払えなかったか」に関係する“南風の章”は押さえておきたい。

 下巻では夏姫は楚王の信任の厚い巫臣(フシン)の提言で、楚の後宮に入らず武人に嫁がされ、再び無気力の月日を過ごすことに。そして表題のごとき作品の中心人物としての描写は極限られている。
 下巻での印象的な章は、“幻影の章”の楚王が鄭を責める場面であろう。そのなかで、巫臣(フシン)の読みと鄭の卿(ケイ)である子良の見識が光り、それを受け入れる楚王の心の広さがまた好ましい。
 そして夏姫のこと、物語のラスト夏姫がこれぞ夫と見なせる人物に出会い、楚を脱出し思いをどげられるのか・・・。

余談:

 三国志にしろ、水滸伝にしろ中国の歴史物にはそれぞれの逸話?となる感動話が出てくる。思うにトップを支える人物の傑出さ加減、それを採用するトップの度量の深さは感嘆に値する。一人の優れた人物が歴史を動かすのはないことを感じさせるものである。

背景画:ネットを探していたらこんな描画に惹かれて。ちょっと作品中のイメージに合わないかも。

                    

                          

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