読後感:
周王が正当の血筋とすればその力も落ち目の春秋時代、大国として晋、楚、斉の時代背景を知っておかないと。
中原に位置する鄭は晋とも楚ともいい顔をしておかないと先行き行かない状態にある。そんな中、鄭の夏姫は兄の子夷と情愛を喜んでいたが、陳の子夏の息子御叔(ギョシュク)に嫁ぐ。
本作品夏姫の運命が中心に描かれるのかと思いきや、上巻では鄭の太子子夷(シイ)と鄭の卿(首相にあたる)子家(シカ)の話に焦点が向く。
子夷は楚に囚われるのを覚悟で赴き、楚王に気に入られる。一方、鄭の国のことを思う子家は晋と楚の両面外交で難局を乗り切る才を発揮している。
その両者、仲は良くない。そして鄭公が亡くなり、次の君主に夷がなると、波乱が起こる。子夷の運命、子家の運命、いずれも満たされることなく不幸な結末を迎える。
中国の物語三国志、水滸伝など、とにかく各々の章でエピソードが絶えず出てきて感情移入がおき面白い。ただ名前が難なのと、官職の名前、複雑さ、国の多さが煩雑でしっかりメモを取って整理しながらでないと、なかなか理解が出来ないのはつらいところ。
上巻ではやはり子夷と子家の対立する“新古の章”と続く“凶風の章”が印象に残る。そして最後に楚王が呟くジ(水牛に似た一角獣)のたたりは、やはり払えなかったか」に関係する“南風の章”は押さえておきたい。
下巻では夏姫は楚王の信任の厚い巫臣(フシン)の提言で、楚の後宮に入らず武人に嫁がされ、再び無気力の月日を過ごすことに。そして表題のごとき作品の中心人物としての描写は極限られている。
下巻での印象的な章は、“幻影の章”の楚王が鄭を責める場面であろう。そのなかで、巫臣(フシン)の読みと鄭の卿(ケイ)である子良の見識が光り、それを受け入れる楚王の心の広さがまた好ましい。
そして夏姫のこと、物語のラスト夏姫がこれぞ夫と見なせる人物に出会い、楚を脱出し思いをどげられるのか・・・。
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