宮部みゆき著

                         
『ソロモンの偽証』
          
(第U部 決意)




                 2013-04-25


  (作品は、宮部みゆき著 『ソロモンの偽証』 第U部 決意    新潮社)による。)

            
  

 初出 「小説新潮」(2006年8月号〜2009年8月号)
 本書 2012年(平成24年)9月刊行。

宮部みゆき:

 1960年、東京生まれ。‘87年「我らが隣人の犯罪」でオール読物推理小説新人賞を受賞。’89年「魔術はささやく」で日本推理サスペンス大賞を受賞。‘99年には「理由」で直木賞、2001年「模倣犯で」毎日出版文化賞特別賞、’02年には司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)。その他多数の受賞作品がある。他の作品には「ぼんくら」「楽園」「小暮写真館」「おまえさん」など多数。

物語の概要:図書館の紹介記事より

第U部 決意

もう大人たちに任せておけない。保身に身をやつす教師に見切りをつけ、学校内裁判を開廷する。期限は、わずか15日。不可解な弁護人の降臨を機に、証人探しは加速する…。5年ぶりの現代ミステリー、緊迫の第2部

主な登場人物:

藤野涼子(ふじの)
父親 藤野剛
(たけし)
母親 邦子
妹 翔子、瞳子
(とうこ)

藤野涼子 城東第三中学校3年A組学級委員。
父 剛 警視庁捜査一課の鬼刑事。
母 邦子 事務所を開業、司法書士、不動産鑑定士。

野田健一
父親 健夫
母親 幸恵

学校内裁判では弁護人役の神原和彦の助手役に。
柏木拓也の死体第一発見者。健一は以前両親を殺そうとしたことがある。
父親は鉄道技師、母親は虚弱体質で心臓が弱い。

向坂行夫
父親
母親
妹 昌子
(まさこ)

学校内裁判で陪審員役。

倉田まり子 学校内裁判で陪審員役。向坂行夫と幼なじみで仲良し。

柏木卓也
父親 則之
母親 功子
兄 宏之

病弱、クリスマスイブの日、学校の通用門のところで死体で発見される。11月の中頃、大出俊次たちと争い、その後不登校。
藤野涼子と同じクラス。
父親は自動車部品製造会社勤務。
兄の宏之は両親が卓也にかかりっきり、辛抱と我慢、実際は父方の祖父母に育てられたようなもの。死んでも卓也の呪縛から抜けられない?との思い。卓也の4つ年上。

大出俊次
父親 勝
(まさる)
母親 佐知子
祖母 富子
ハウスキーパー
   桜井伸江

大出達、城東第三中学の不良グループのひとつ。
藤野涼子と同じクラス。
父親は「大出集成材」の材木会社社長。傲慢で息子に対する躾はなってない。
祖母の富子は認知症気味、火災で焼死。
ハウスキーパーの伸江は富子を世話していた。

井口充(みつる)
父親 直武
母親 玉江

大出俊次の巾着持ち。橋田と口論、大怪我を負う。ライブラ・ロードで雑貨店を営む。
橋田祐太朗

大出と離れて学校に出続けるも、井口と口論大怪我を負わせ、学校を休む。

三宅樹理
父親
母親

浅井松子の交通事故死後、学校を休んでいる。その後の活動を開始。

城東第三中学校の先生達

・岡野校長代理 長身の洒落物。事件に対しては第三者的立場に。
・高木教諭 3年A組の担任。学校内裁判を妨害工作。
・楠山教諭 
・尾崎教諭 養護担当。生徒達から慕われている。
・北尾教諭 バスケ部の顧問。涼子たちの計画する学校内裁判実施をバックアップ。
・津崎正男 責任を取って退職。学校内裁判に証人として呼ばれる。
・森内恵美子 教諭を辞職後、身の潔白を示すため探偵事務所に調査を依頼する。

城東署の刑事達

・佐々木礼子 少年科
・庄田刑事 少年科礼子より2つ年下。

茂木悦男 HBS<ニュースアドベンチャー>の企画報道部の取材スタッフ。城東中学の自殺騒ぎをかぎつけ告発文を入手して真実を追究する姿勢を鼓舞する。表裏のある人物。

井上康夫

2年A組の時の副委員長。藤野涼子の後ろで目立たなかったが、学校内裁判では判事役として仕切役に。

佐々木吾郎

学校内裁判では神原和彦の弁護人の事務官役に。
・森尾一美 事務官役のコンビとして。

神原和彦

私立の名門東都大附属中学3年生。柏木卓也とは小学校で一緒、中学校では塾で。学校内裁判で弁護人役。
和彦の両親は7歳の時死亡(父親の酒乱で)、今の両親の所に養子に。両親は和裁の職人。
野田健一の、和彦に対する第一印象は“対岸を見てきたような目をしている”わからない部分を持つ。

勝木恵子(かつき) 城東第三中学の不良少女グループのひとりだったが今は一人。大出俊次と付き合っていた。シュンジは柏木を殺しはしないと涼子たちに。

読後感

◇第U部 決意

 学校側は津崎校長に代わり、岡野校長代理を立て記者会見を開き幕引きをはかる。その結果事件は静まったかに見えたが、涼子たちの蚊帳の外で何も真実が明らかにならないことに“卒業制作”で真実を明らかにするためとして学校内裁判を実行することになる。
 新しい人物も登場し、生徒たちのやりとりがまたぐいぐいと盛り上がりを見せてくれる。

 第1部では柏木卓也の死に浅井松子の交通事故死、不良グループの井口充と橋田祐太朗の口論による大怪我、さらに大出家の自宅の焼失と祖母の死というそれこそ柏木の死にまつわるのか不吉な事件が話の中心になっていたが、第2部では学校内裁判という予想をしていなかった展開でそこから又どんな展開がなされるのか、興味が尽きない。

 第2部では学校内裁判に向けての検事側、弁護側の準備にまつわる様々の聴取や推察、関係者との接触が展開されるのだが、その時々に人そのものの性格や生い立ち、事情が露わになり、胸を打つシーンが数限りなく現れ、ぐいぐいと感情移入されていく。それはもう架空の物語でなく現実の話のこととして感じてしまうのは作者の力と言うことか。こんな感情を持って読むのもなかなか経験がない。


 学校内裁判における人物相関図。
余談:
 
 学校内裁判をするという中で役割を与えられた登場人物、中でも藤野涼子、神原和彦はもとより、野田健一、佐々木吾郎、井上康夫、といった今まではパットしなかった人物が、その役を与えられたことにより、登場人物たちが生き生きと動き回って物語をぐいぐいと進めていくいく感がする。

 以前何かで読んだか、聴いたような気がするが、登場人物に人物像が吹き込まれると独りでにそれが動き出して物語を作っていくという風なことを作家が言っていたが、まさにそんな感じである。

 背景画は物語の中心、少し古い時代の中学校の校舎をイメージして。 

                    

                          

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