宮部みゆき著
            
『ソロモンの偽証』
           
(第T部 事件)


                  
2013-03-25


  (作品は、宮部みゆき著 『ソロモンの偽証』 第T部 事件    新潮社)による。)

            
  

 初出 「小説新潮」(2002年10月号〜2006年7月号)
 本書 2012年(平成24年)8月刊行。

宮部みゆき:

 1960年、東京生まれ。‘87年「我らが隣人の犯罪」でオール読物推理小説新人賞を受賞。’89年「魔術はささやく」で日本推理サスペンス大賞を受賞。‘99年には「理由」で直木賞、2001年「模倣犯で」毎日出版文化賞特別賞、’02年には司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)。その他多数の受賞作品がある。他の作品には「ぼんくら」「楽園」「小暮写真館」「おまえさん」など多数。

物語の概要:図書館の紹介記事より

第T部 事件

クリスマスの朝、雪の校庭に急降下した14歳。その死は校舎に眠っていた悪意を揺り醒ました。気づけば中学校は死を賭けたゲームの盤上にあった…。死体は何を仕掛けたのか。5年ぶりの現代ミステリー巨編。

 主な登場人物:

藤野涼子(ふじの)
父親 藤野剛
(たけし)
母親 邦子
妹 翔子、瞳子
(とうこ)
藤野涼子 城東第三中学校2年A組学級委員。女子は3人しかいない剣道部。告発文が送られてきた一人。
父 剛 警視庁捜査一課の鬼刑事。
母 邦子 事務所を開業、司法書士、不動産鑑定士。
野田健一
父親 健夫
母親 幸恵
藤野涼子と同じクラス。ひ弱な身体の少年。
柏木拓也の死体第一発見者。
父親は鉄道技師、母親は虚弱体質で心臓が弱い。
向坂行夫
父親
母親
妹 昌子
(まさこ)
ぽっちゃり太っていて、口数の少ない目立たない少年。野田健一にとってたった一人の親友。似たもの同士。
倉田まり子 向坂行夫と幼なじみで仲良し。
古野彰子
(ふるのあきこ)
演劇部に所属、藤野涼子と1年の時同じクラス。涼子と考え方が合う仲良し。
柏木卓也
父親 則之
母親 功子
兄 宏之
病弱、クリスマスイブの日、学校の通用門のところで死体で発見される。11月の中頃、大出俊次たちと争い、その後不登校。
藤野涼子と同じクラス。
父親は自動車部品製造会社勤務。
兄の宏之は両親が卓也にかかりっきり、辛抱と我慢、実際は父方の祖父母に育てられたようなもの。死んでも卓也の呪縛から抜けられない?との思い。卓也の4つ年上。
大出俊次
父親 勝
(まさる)
母親 佐知子
大出達、城東第三中学の不良グループのひとつ。
藤野涼子と同じクラス。
父親は「大出集成材」の材木会社社長。傲慢で息子に対する躾はなってない。息子に対する中傷に対してはガンガン怒鳴り込んでいくタイプ。
井口充(みつる)
父親 直武
母親 玉江
大出俊次の巾着持ち。藤野涼子と同じクラス。
三宅樹理
父親
母親
ニキビに悩まされ、親は言うことを聞いてくれないし、大出達には苛められて孤立。浅井松子しか友達いない。
松子に対しては指導的な態度。モリウチを嫌い、涼子も偽善者と。
父はサラリーマンで日曜画家。
浅井松子 太っていて鈍重。樹理に対しては“樹理ちゃんがいいようにする”と。本当は樹理は松子を嫌い。
城東第三中学校の先生達 ・津崎正男 校長。渾名“豆ダヌキ”50過ぎ。思いやりがある。
・岡野教頭 長身の洒落物。事件に対しては第三者的立場に。
・高木教諭 2年生の学年主任。
・森内恵美子教諭 2年A組の担任。若くて美人、英語の教師。生徒に対して成績や外見で好き嫌いが激しい。
・楠山教諭 1年生の担任、2年では社会科を教えている。
・尾崎教諭 養護担当。生徒達から慕われている。
告発文は学校宛と担任の森内先生宛にも速達で合計3通出されていた。
城東署の刑事達 ・佐々木礼子 少年科、
・庄田刑事 少年科礼子より2つ年下。
・名古屋刑事 刑事課
茂木悦男 HBS<ニュースアドベンチャー>の企画報道部の取材スタッフ。城東中学の自殺騒ぎをかぎつけ告発文を入手して真実を追究する姿勢を鼓舞する。表裏のある人物。
垣内美奈絵 森内恵美子のアパートの、隣の部屋の女。夫から離婚を告げられていて、恵美子に見られたくないことろを見られて仕返しを・・・。

読後感

◇第T部 事件

 この作品はあの「模倣犯」を彷彿とさせる引き込み方である。ページ数の多さもさることながら細部の描写によって雰囲気が頭の中で再現する。そして心理描写のうまさで読者を引きつけて放さない。
 登場する人物も多数にのぼるけれどもその相関図が記載されていて読者の頭を悩ませることもなく集中して物語の展開に没頭できる。そういった背景がそろっていて中味はと言うと、現在の世の中の問題点である学校の先生のこと、生徒のこと、家庭のこと、イジメ、自殺などの関心事を中心に、一人の生徒の死を中心に据え、真実は何か、そのことにまつわる周囲の人々の反応、思惑、人間の弱み、心の揺らぎといった様々なところに広がりを見せていく。

 果たして著者は誰に温かい目を向けているのか、どんなスタンスで描いているのだろうかと興味をそそる。必ずしも一方的な見方をしていないところも見逃せない。そんな見方もおもしろい。
 
 第T部の“事件”では収まりかけていた自殺説を覆すような告発文によって、本当に自殺であったのか、さらに告発文を作成した人物の内面、告発文を送られた人間が奈落の底におとしめるられる事態、それを見て喝采をおくっている人間と世の中はこんなに多種な人間模様があってひとくくりでは治まらないことを浮かびあがらせる。

事件発生直後の人物相関図。


余談:
 
 
世の中は実に複雑怪奇、性善説でものごとを考えていたらとんでもないと改めて思わされる。悲しいかな。第2部、第3部とどう展開していくのか興味が尽きない。
  背景画は物語の中心、少し古い時代の中学校の校舎をイメージして。 

                    

                          

戻る