読後感:
◇楽園
久しぶりに前畑滋子というフリーライターという主人公からの展開がなつかしい思いである。そしてライターという仕事のものの見方、仕事の進め方に興味を覚える。
随分前に読んだ衝撃の作品「模倣犯」に出てきた前畑滋子が再びライターの仕事に復帰することで話が進んでいくが、やはりもういちど「模倣犯」を読んでみたくもなる。
この作品にあるようなことも知りながら読み返せばまた違った印象を持つことになるかも。
とはいえ、等という既に12歳でなくなってしまって問いただすことも出来ない少年が超能力者であったのかどうか、それを証明することの難しさ、調べる過程で次々に明かされていく赤裸々で情けなくなるような事柄、真実を知りたいという殺された茜の妹萩谷誠子の好ましい人物像。宮部みゆきという作家のすごさが乗り移ったようなものがこの作品でも伝わってくる。
時に全く関係の内容で、そんなことのあるはずのない“断章”がときどき章の合間に出てくるが、小4のマコちゃんと、近づいてはいけないという噂のある真四角の2階建ての木造の家の住人のことがどんな風につながってくるのか興味を引きつける作り方も憎らしい。
この少女の関係する誘拐事件が後半の終盤であわられてきて、茜がどっぷりといいなりになっていた相手シゲの現在の存在ある姿を見せる。
それにしても萩谷敏子と12歳で交通事故でなくなった(それも二つの世界で苦しく生きていた息子)等の親子、姉妹で自分は可愛がられていないと感じ不良少女の道を歩んで親に殺されたとされる茜とその妹誠子、そして両親の生き様がようやく明らかにされ、その結果によってふたたび残された者の生き方が問われる。
家族のなかでもうどうしようもなく悪い人間が出てきてしまった時、どうすればよい?の問いは果たして自分たちに降りかかってこないことを願うばかり。
本の表題「楽園」の意味が改めて理解できた。
◇魔術はささやく
これまで宮部みゆきの作品を読んでやはり初期の作品も読んでみたいと思い本作品を読んでみた。第2回日本推理サスペンス大賞受賞となっている。さて内容はいまではなじみの催眠による暗示や映像へのサブリミナル作用を応用した自殺騒ぎが物語の中心にあり、当時は目新しかったかもしれないが、ちょっと新鮮さを感じなかった。
また三人の女性の自殺を誘導させる殺人の動機ももう一つしっくりとこないのも読んでいて入り込めないところの一因でもあった。
まあ普通レベルのおもしろさというところか。例えば初期の作品の粗いところがあるけれど、そんな中にきらりと光るところがあるといったものを期待しただけにちょっぴり残念であった。
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