宮部みゆき著

             
『楽園』、 『魔術はささやく』







                 2010-10-25 

  (作品は、宮部みゆき著 『楽園』 (文藝春秋)、 『魔術はささやく』 (新潮社)による。)

           
     
 

◇楽園
 初出 産経新聞2005年7月1日から2006年8月13日
 2007年8月刊行

◇魔術はささやく
 1989年単行本 新潮社刊
 1993年文庫本 新潮文庫刊 本書は文庫本を底本とした新装版。
 2008年1月刊行

宮部みゆき:

 1960年東京都生まれ。法律事務所勤務ののち小説家に。87年「我らが隣人の犯罪」でデビュー。89年「魔術はささやく」で日本推理サスペンス大賞、92年「龍は眠る」で日本推理作家協会賞、99年「理由」で直木賞を受賞する。また01年「模倣犯」がベストセラーとなり話題となる。


物語の概要:図書館の紹介記事より
◇楽園
上巻 
 2001年作品 「模倣犯」事件から9年。 事件のショックから立ち直れずにいるフリーライター・前畑滋子のもとに、不思議な調査依頼が舞い込んだ。 そして、親と子をめぐる謎に満ちた物語が幕を開ける…。
下巻 
 少女殺害事件の関係者たちに話を聞くうちに、滋子は少女の背後にいた人物の存在に気づく。 新たなる拉致事件も勃発し、様々な事実がやがてひとつの大きな奔流となって、物語は驚愕の結末を迎える。

◇魔術はささやく

 マンションの屋上からの飛び降り、地下鉄への飛び込み、そしてタクシーへの飛び出し。 無関係に見えた3つの死の背後には、一体どんな繋がりがあるのか…。 日本推理サスペンス大賞を受賞した、宮部ミステリの原点。


 主な登場人物:

◇楽園

前畑滋子(しげこ)
夫 昭二
9年前の連続殺人事件(「模倣犯」の事件)の被害者でもあるフリーライター。その事件以降書くことが出来なくなっていたが、萩谷敏子の依頼をきっかけに個人的に調べ出す。
萩谷敏子(53歳)
息子 等
(12歳で死亡)
祖母の面倒を見ることで家に束縛され、結婚話も祖母の反対で見送る。息子の等の父親もよく分からない。
3ヶ月前に交通事故でなくなった息子等の絵から超能力者であったことを調べて欲しいと前畑滋子に依頼してくる。
萩谷家 父 義一、母 和子
祖母 ちや 千里眼、萩谷家の人々を支配。
長男 松夫(嫁 武子) 商売人。祖母が敏子に対する託宣で幸せをないがしろにしていることに反発、何かと支援。
長女 敏子
妹二人、弟一人
祖母の言うことが良く当たることで、家族のものは祖母の言に従うことが多い。
土井崎茜
妹 誠子
16年前土井崎茜は屋根に見鶏のある家で殺され、床下に埋められていた。家の火災をきっかけに両親が殺人を告白。
妹はそれまでのこと知らされずに。
秋津信吾警部 9年前の連続殺人事件の担当刑事。滋子と8年ぶりに再会。
野本希恵刑事 土井崎茜の事件を初めて担当。9年前の連続殺人事件時女子高生、その時被害者の日高千秋も女子高生の17歳。滋子がその後日高千秋のことを書かなかったこと、そして今回の事件について書こうとすることに怒る。
高橋雄治弁護士 土井崎夫妻の雇った弁護士。
船山市立さくら小学校
(萩谷等の通っていた学校)
・川崎先生 等の3年、4年の担任。等を問題児といい、児童相談所いきを勧める。
・伊藤先生 等の5年、6年の担任。ベテランの厳格教師。
・花田早苗先生 若い絵の先生。等の絵を褒める。
児童相談所 ・宮田先生 等のこと何でもないと。等、しばしば訪れる。


◇魔術はささやく

日下守
父 敏夫
母 啓子
父の日下敏夫は枚川市の市役所勤務、12年前(守が4歳の時)突然失踪し行方不明。5千万円の公金横領の疑いがある。
母の啓子は去年の暮れ、38歳で突然脳血栓で逝く。
母の死後守は浅野大造、より子夫妻の元に同居している、16歳。守が謎に挑む。
浅野大造
妻 より子
姉 真紀
より子は啓子の姉。大造はキャリア25年の個人タクシー運転手。
真紀はあっけらかんとした性格で21歳。
菅野洋子 深夜浅野大造の運転するタクシーに交差点で車の前に飛び出し曳かれて死亡。洋子の死に際の「ひどい、ひどい。あんまりだわ」の言葉に警察は大造を留置する。
高木和子 新宿にある「イースト興産」に勤め、菅野洋子とは友人。化粧品を上手くだまして売りつける仕事。「情報チャンネル」という売れない雑誌で4人の女性の座談会で暴露する。
高野一 守のあるバイト先の書店“ローレル”の書籍コーナーチーフ。
吉武浩一 「新日本商事」の副社長。浅野大造が菅野洋子の交差点での事故の目撃証人として後日名乗り出て、釈放に寄与しその後も何かと支援の手をさしのべる。なにもの?
“誰か” 原沢信次郎。謎の電話の声の主。なにもの?

読後感

◇楽園

 久しぶりに前畑滋子というフリーライターという主人公からの展開がなつかしい思いである。そしてライターという仕事のものの見方、仕事の進め方に興味を覚える。
随分前に読んだ衝撃の作品「模倣犯」に出てきた前畑滋子が再びライターの仕事に復帰することで話が進んでいくが、やはりもういちど「模倣犯」を読んでみたくもなる。
この作品にあるようなことも知りながら読み返せばまた違った印象を持つことになるかも。

 とはいえ、等という既に12歳でなくなってしまって問いただすことも出来ない少年が超能力者であったのかどうか、それを証明することの難しさ、調べる過程で次々に明かされていく赤裸々で情けなくなるような事柄、真実を知りたいという殺された茜の妹萩谷誠子の好ましい人物像。宮部みゆきという作家のすごさが乗り移ったようなものがこの作品でも伝わってくる。

 時に全く関係の内容で、そんなことのあるはずのない“断章”がときどき章の合間に出てくるが、小4のマコちゃんと、近づいてはいけないという噂のある真四角の2階建ての木造の家の住人のことがどんな風につながってくるのか興味を引きつける作り方も憎らしい。
この少女の関係する誘拐事件が後半の終盤であわられてきて、茜がどっぷりといいなりになっていた相手シゲの現在の存在ある姿を見せる。

 それにしても萩谷敏子と12歳で交通事故でなくなった(それも二つの世界で苦しく生きていた息子)等の親子、姉妹で自分は可愛がられていないと感じ不良少女の道を歩んで親に殺されたとされる茜とその妹誠子、そして両親の生き様がようやく明らかにされ、その結果によってふたたび残された者の生き方が問われる。
 家族のなかでもうどうしようもなく悪い人間が出てきてしまった時、どうすればよい?の問いは果たして自分たちに降りかかってこないことを願うばかり。
本の表題「楽園」の意味が改めて理解できた。


◇魔術はささやく

 これまで宮部みゆきの作品を読んでやはり初期の作品も読んでみたいと思い本作品を読んでみた。第2回日本推理サスペンス大賞受賞となっている。さて内容はいまではなじみの催眠による暗示や映像へのサブリミナル作用を応用した自殺騒ぎが物語の中心にあり、当時は目新しかったかもしれないが、ちょっと新鮮さを感じなかった。

 また三人の女性の自殺を誘導させる殺人の動機ももう一つしっくりとこないのも読んでいて入り込めないところの一因でもあった。
 まあ普通レベルのおもしろさというところか。例えば初期の作品の粗いところがあるけれど、そんな中にきらりと光るところがあるといったものを期待しただけにちょっぴり残念であった。


余談:
 余談に何を書こうかと考えてたら、今読んでいる横光利一の「旅愁」のなかに、パリにいる久慈と眞紀子がセザンヌの展覧会を見に行ったシーンでの記述のところだった。
 「どの絵も初期のセザンヌの正確な筆力の延長が狂いを起こさず、自ら枝葉の延び繁った写真の深まりゆくさまを壁面に順次に現している・・・「一番普通のことをセザンヌはやったんだな それが皆には出来なかったんだから、おかしなものだ。」とつぶやく。自分もごくありふれた日常のことを、そのまま普通に考えることの出来なくなってしまっている妙な頭に気がつき、ときどきはこのような絵も眺めて頭をたださねばならぬと考える久慈の姿。
 そう、絵も実物に触れないとなあと考えたり。ときどき余談の題材に苦慮してしまう。
 背景画は物語中の古家の写眞館のイメージを感じさせる犬山市の史跡敬道館のフォトを利用して。 

                    

                          

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