宮部みゆき著  『名もなき毒』








                 2010-06-25 

(作品は、宮部みゆき著 『名もなき毒』    幻冬舎による。)

               
 

初出:
 北海道新聞、中日新聞、東京新聞、西日本新聞に2005年3月から12月までほか河北新報中国新聞などに連載されたものに加筆修正を行い新たに最終章を書き下ろしされたもの。
 2006年8月刊行

宮部みゆき:

 1960年東京都生まれ。法律事務所勤務ののち小説家に。87年「我らが隣人の犯罪」でデビュー。89年「魔術はささやく」で日本推理サスペンス大賞、92年「龍は眠る」で日本推理作家協会賞、99年「理由」で直木賞を受賞する。また01年「模倣犯」がベストセラーとなり話題となる。

物語の展開:

 財閥企業で社内報を編集する杉村三郎は、ある女性の身上調査のため、私立探偵のもとを訪れる。そこで、連続無差別毒殺事件で祖父を亡くしたという女子高生に出会い…。
 著者3年ぶりの現代ミステリー、待望の刊行。

主な登場人物:

杉村三郎(私)
妻 菜穂子
娘 桃子
(5歳)
今多コンツェルンの会長の娘を妻にし、本社別館でグループ広報室で社内広報誌の編集を担当するサラリーマン(36歳)。
妻の菜穂子は、会長の妾の子(30歳)。
「あおぞら」
編集部員
社内広報誌の編集を担当。
園田瑛子編集長、加西(若者)、谷垣(定年間近)、私の他バイトで切り盛りしている。
今多嘉親 今多コンツェルンの会長(80歳)。

古屋美知香
祖父 古屋明俊
母親 暁子
(あきこ)

父親を知らない多感な女子高生。
母親の暁子はシングルマザー、祖父も祖母が家出して娘の暁子と孫娘の美知香を苦労して育てる。
暁子(42歳)は外資系の証券会社のファイナンシャル・プランナー。
美知香、祖父の毒殺事件で警察に母親が疑われているのを心配して調べて欲しいと北見一郎事務所を訪ねる。
奈良和子 古屋明俊の恋人の存在。家庭の事情から古屋明俊が生活の面倒を見ることに。
原田いずみ 杉村三郎のアシスタントをしていたが、トラブルメーカー。
辞めさせるが、それまでにも突拍子もない言いがかり、嘘で攻撃的行為に悩まされる。
外立研治 東京大田区のコンビニで働く店員。このコンビニで買った青酸カリ入りのウーロン茶で古屋明俊が殺される。
北見一郎 元警官の興信所もどきの調査事務所を運営している、正体不明の人物。
秋山省吾
五味淵まゆみ
(通称ゴンちゃん)
売り出し中の若手ジャーナリストであり新進気鋭の評論家。
ゴンちゃんは秋山省吾が母方の従兄にあたる。原田いずみが辞めた後「あおぞら」編集部に雇われる。

読後感

 何か読んだことのある人物、場面に思い当たるものがあった。 以前のものを調べて「誰か」と同じ今多コンツェルンの社内報の編集者、杉村三郎にいきついた。

 内容はミステリー調であるが、今多コンツェルンの娘婿となった私(杉村三郎)とその妻菜穂子と桃子という一人娘の家庭の姿が懐かしい。 おっとりとした妻の様子、苦労を知らない(?)杉村三郎の気のいい態度といい、小学生の桃子の幸せそうな家庭のなかで、今風の何とも痛ましい原田いずみと外立研治の生き様の対比が興味深い。

 ごく自然な生活の中で起きる4つの連続無差別殺人事件、犯人が同一犯人でなく3件の別事件であることが明らかになるのと別に、原田いずみという異次元(?)の人物の生きざまには簡単に見過ごせない痛みを感じてしまう。 本人の憤りは理解できないところもあるが、そういう子供を持ったというか育ててしまった親の気持ちは察するにあまりある。
 こんな風にならないように未然に防げるものか考えてしまう。

 原田いずみの最後の行動がいずれ出てくるのか、コンビニの元店員の一寸不安な様子がきになっていたらやはり最後に来て・・・。
 編集室の仲間達のやりとりも私立探偵もどきの北見氏の存在、評論家秋山氏とのやりとりもなかなか味があって好い。


余談:

 宮部みゆきがこんな声(こんなに幼く、しかも頭から抜けるような音声に幻滅(?))の持ち主だったのかと思ったり、有名人になる前、作家を目指していた頃の話を文化放送(ラジオ)土曜の朝の時間(3月6日7時台 )に聞いた。
 
 女流作家が珍しい時代で同人会(?)で投稿のことを教えられ、周囲の人からも有望視されながら物書きの道を進んできた様子を知り、「模倣犯」を読んだ時の心理描写のすごさに感心したが、その時は同じような作品が続き、こういう作品を書く作家かとレッテルを貼ってしまっていた。
 しかしこのところ読んだ作品にはごく普通の世の中のことを扱いながら読み込ませていく力量に触れもっと読みたくなった。
 ラジオ二日目(3月13日)には、物語の合間に入れる現実的な内容(その時の時事問題とか経済的話題とか)が生活感なり現実味を引き出すのに有効との話に上述の話に符合することを感じたり。

 背景画は作品中に使われた青酸カリの瓶をイメージて。 

                    

                          

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